第10話 俺が抱えている過去の過ち

 翌日。

 篠原柊しのはら/しゅうは学校に登校し、授業を受けて過ごしていた。


 学校にいる際、鳥居月渚とりい/るなはクラスメイトと会話する事が多く、柊は一人で行動し、たまに彼女と会話する程度だ。


 学校内でも月渚と一緒に行動していたら、周りの人から変に勘ぐられてしまう事もある。

 そのために学校内では普通の友達として、程よい距離感を保ちながら接していた。


 柊と月渚が付き合っている事は誰も知らない。

 その事を把握しているのは妹の真白ましろと幼馴染の美千留みちるくらいだろう。


 あまり大事にしたくはなく、柊からは積極的に月渚へ話しかける事もなかった。

 柊は一人で過ごす事が増えていたわけだが、そのためクラスメイトの長谷部咲奈の姿を目撃する事が多々あったのだ。


 教室にいる時、廊下にいる時、昼休みの時など。

 咲菜の交友関係は広く浅くといった感じで、どこか一定の線引きをして他人と関わっているような印象があった。


 今のところ咲菜さなが誰と付き合っているかは不明だが、今日一日、彼女の姿を遠くから目撃する事が多く、咲菜の行動パターンを把握する事が出来ていた。


 柊からは話しかけたくない存在だが、遠くから咲奈の行動を見ていて感じた事がある。授業合間の休み時間は必ず教室の外に出るということだ。


 教室にいると、誰かにスマホ画面を覗き込まれることがある為、休み時間は一人で行動する事が多い。

 昼休みの時点で分かった事だが、咲菜は誰もいないところでスマホを使い誰かとやり取りをしている事に。

 憶測になるが、多分、付き合っている相手と連絡を取り合っているのだろう。


 誰と付き合っているのか……。


 柊は授業中、それについて考え込んでいた。

 気が付けば授業終わりのチャイムが鳴り、席に座っている柊は急いで黒板に記されてある文字をノートに書き写していたのだ。


 机に広げたノートを閉じた後、皆と同様に終わりの挨拶をし、放課後を迎えたのであった。




「今日はどこに行く?」

「そうだ、月渚さんに街を案内してあげたいし、今日は皆でどっかのお店に行かない? 少し遠いかもだけど、アウトレットパークとか」

「まあ、バスで二〇分くらいだし、大丈夫かも? でもさ、あと一〇分くらいでバスが来るんじゃない?」

「そ、そうだね。だとしたら急がないと、月渚さんは来てくれる?」

「わかったわ。行く」

「ほんと。じゃ、早速」


 クラスの陽キャ男女らが、月渚の周りに集まって遊びに誘っていたのだ。


 そんな中、月渚の隣に座っている柊のスマホに連絡が入る。


 今日は遊びに誘われたから遊びに行ってもいい?


 ――という一文が、柊が手にしているスマホへアプリメールで送られてきたのだ。


 柊は右側の席に座っている月渚に対し、無言で親指を立ててグッとサインをする。


 月渚にも色々な交友関係があるのだ。


 柊はアプリメールで楽しんできなよと、その一文を入力して送り返した。


 月渚の方にも伝わったのか、簡単にウインクしてきたのである。


「月渚さんって、篠原とはどうなの?」

「え?」

「だって、転校してきた時に、篠原と月渚さんが知り合い的な話になっていたし」

「それはまあ、色々あってね。転校してくる前にちょっとだけ道端で出会って会話する事があったから」


 月渚は慌てながらも冷静に対処していたのだ。


「それより、早く学校を出ないと間に合わないんでしょ」


 月渚はそう言って立ち上がる。


「そうだな。今のバスを逃したら遊んでいられる時間が無くなるしな」


 月渚を含めた数人の陽キャらは、すぐさま準備を終えると教室を後にして行くのである。




 陽キャらが教室からいなくなった事で、かなり静かになった。


 そろそろ、俺も帰宅するか。


 柊も学校を後にしようと席に座りながら準備をしていると、丁度咲奈が席を立ち、誰とも関わることなく教室を出ていく。


 え、もう帰るのか⁉


 柊は急いで教科書を詰め込んだリュックを背負い、彼女の後をこっそりと尾行し始めた。


 今日は、咲菜が誰と付き合っているのかを知るチャンスなのだ。

 気づかれないように、そして、ある程度の距離感を保ちながらも後をつける。


 今日の昼休み、咲菜にバレないように陰から彼女の話し声を聞いていた。

 放課後に付き合っている人と街中で会う事までは把握している。


 どんな奴が咲奈と付き合っているのか、この目で確かめたいのだ。


 柊は怖いもの見たさ的な感じで、校舎の昇降口を出た後も街中まで尾行を続けた。


 ん? あのお店に入るのか。


 咲菜は街中のアーケード街に到着するなり、ハンバーガー店に入店していた。


 柊は少し時間をおいてから入ろうと歩き出した時、視界の先に柊よりも若干身長の高い男性の姿が映る。


「……柊か」

「え……」


 その人から話しかけれ、柊は一瞬誰かと思っていたが、よくよく見ると、どこか懐かしい面影があった。


「もしかして、明人か……?」

「そうだな。久しぶりだな」


 彼は、片山明人かたやま/あきひと。立ち姿からして中学の頃とは異なり、別人のようになっていたのだ。


「今の柊の事は知っているよ」

「……え?」

「だって、僕に教えてくれる人がいたからね」

「教えてくれる人?」

「まあ、簡単に言えば君が通っている学校の人だよ」

「もしかして……長谷部はせべからってこと……?」

「そうだよ。その子から君の事を教えてもらっていたんだよ。君はさ、中学の頃と比べて結構落ちぶれたみたいだね」

「……」


 柊は過去の事を振り返り、疚しい気分になる。

 咲菜と付き合っていた相手がまさかの、昔の親友だったからだ。


「僕さ、昔の事を忘れたわけじゃないから。君が僕にした事はね」


 彼は柊の事を睨んでいた。


「でも、まあ、長谷部さんから色々と教えてもらっていたし。それに、君が苦しんでいる事を知れて僕的には嬉しかったんだよ」


 明人は嬉しそうにニヤニヤしていた。


「ごめん……俺にも非はあったよ」

「今さら謝られても僕は許す事はしないから。過去はもう変えられないしね。僕の心の中には一生残っているだろうね。それに僕の事を最初に裏切ったのは君の方だろ」


 彼から真顔で拒絶される。


「それに関しては……俺も悪いと思ってて」

「もういいよ。僕は忙しいんだ。僕はもう君とは関わる事はしないさ。これからは楽しく過ごさせてもらうから」


 明人は柊の横を素通りして、ハンバーガー店へと入って行く。


 柊は、肩を落としたまま過去の自分の行為に押し潰されそうになっていたのだ。


 咲菜の裏の顔を追求しようと考えていたのだが、これ以上踏み入ったことはできなかった。


 柊は俯きがちになりながら店内に入らず、そのまま帰宅する事にしたのである。

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