第6話 俺が今付き合っている彼女は…実は――

 篠原柊しのはら/しゅうは、月渚と一緒にいる。

 街中に到着した頃には夕暮れ時になっていて、アーケード通りを歩いている多くの人らとすれ違う。


「柊って行きたいところってある? あるなら、そこにするけど」


 一緒に街中を歩いていると、隣を歩いている彼女が問いかけてきたのだ。


「だったら……本屋とかでも?」


 柊は少し考えた後で、パッと思い浮かんだ事を提案してみた。


「本屋ね。いいね」


 鳥居月渚とりい/るなはすぐに受け入れてくれて、アーケード通りにある本屋へ向かう事となったのだ。


 アーケード通りには喫茶店やファミレス、コンビニやデパートなど生活に困らない程度の一通りのお店が出揃っており、学校帰りの遊び場所としては優秀である。


 街中を歩いていると、会社帰りのサラリーマンが裏路地の方へ入って行く。

 裏路地を通過した先に、居酒屋があるのだ。

 非常にコスパの良いアーケード通りだと思う。


「そう言えば、本屋ってどこら辺にあるの? 私、こっちに来たばかりだから。できれば案内してほしいんだけど」

「じゃあ、こっちについて来て」


 柊は案内してあげる事にした。


 現在地から一番近い場所にある本屋はアーケード街の端っこの方にあり、今歩いている道をまっすぐ歩いた先にある。




「本屋はここだよ」


 柊が紹介した書店は、アーケード街通りの中でかなり大きな方だ。


 二人は入店する。

 夕方頃という事もあって、店内には結構人がいる感じだ。


「柊は、何の本を買うの?」


 店内を歩き始めると、柊は月渚から問われた。


「漫画とかかな。一応、欲しいのがあったら購入するかもしれないけどね。月渚さんは?」

「私も漫画を見たいかな。じゃあ、一先ず行こ」


 月渚も漫画を読みたいらしく、柊の手首を掴んで先へと進もうとする。

 彼女は積極的だ。


 月渚も漫画が好きなのだろうか。

 どんな漫画を読むのか気になるところだ。


 明るい性格をしているが、真面目なところもある為、もしかしたら、哲学的な漫画を読むのかもしれない。


「ここかな。漫画コーナーって」


 現地に到着するなり、月渚は辺りを見渡していた。


 本棚にはジャンルごとに分けられた漫画の単行本が揃っている。

 本棚前の平台のところには、新刊や雑誌などが山積みになっていた。


「柊は雑誌派? それとも単行本派?」

「俺は単行本派かな。その方が一気に読めるし」

「普段は雑誌とか買わないって感じ?」

「そうなるね」

「まあ、そうだよね、今はネットでも見れちゃうし。毎回雑誌は買わないよね」


 月渚は難しい顔を浮かべていたのだ。




 近頃は書店の本の売れ行きが悪いと言われているが、ある程度の人気店であれば普通に売れているらしい。

 ただ、今の状況的にネットで売り出した方がコスパが良い為、昔と比べれば書店に置いている本の数は若干少なくなった気がする。


 電子書籍だと、運送費用や印刷代もほぼかからないのだ。

 作者に入る売り上げも増える為、今の時代はネットなのだと思う。


 本を集めたい気持ちもあるが、家によっては収納できる場所にも限りがある為、本を購入しようか迷うことがたまにある。

 電子書籍のいいところは、画面自体が光る事で暗い場所でも本を読む事が出来る事だ。


「柊って、どんなジャンルの漫画が好きなの?」

「俺はこういう感じのジャンルかな」


 柊は一冊の単行本を手に取ってみる。

 それはオタク系の人が好んで読む漫画雑誌に連載されている漫画の単行本だ。

 いくら電子書籍が良いと言っても、やはり、本当に集めたい本は紙で購入したいと思っている。


「そういうの読む感じ? 意外ね」


 柊が持っている単行本の表紙には萌え系の美少女キャラが描かれているのだ。


「そうかな?」

「まあ、そうね。もしかして、隠れオタク系とか?」

「そうなのかな? でも、俺、本格的なオタクではないよ。ネットで言う、萌えを追求するような類ではないから」

「そんなに焦って話さなくてもいいのに」


 月渚は、柊の方を見てはにかんでいる。

 彼女は続けて、別にいいと思うよと自然な表情で言ってきた。


「私は他人の趣味を批判するとかしないし。よっぽど変じゃない限りね」

「多分、俺、そこまで変ではないと思うから」

「自分で言っちゃう感じ?」


 月渚から少し笑われてしまっていた。


「他人からは変だと思われているかもしれないけど。それは自分ではわからないからね」

「そうだよね。まあ、他人から変だと思われても、それが好きなら、それでいいと思うよ。本当の自分と向き合えない方が辛いと思うし」


 月渚は柊の気持ちを察してくれているのか、否定する事も肯定する事もしてこなかった。

 むしろ、受け入れてくれている感じである。


「ちなみに月渚さんは、どんなジャンルが好きなの?」

「それはね、こういう雑誌の漫画とか」


 彼女は青年向けの雑誌を手に取っていた。


「月渚さんって、そういうの読むの⁉」


 女の子が青年向けの雑誌を読むのは珍しいと感じる。

 意外と男っぽいモノを良く好んでいるのだろうか。


「最初は読む気はなかったんだけど。色々と経験している内に読むようになったの。そう言えば、この雑誌ってグラビア系があるでしょ」

「そ、そうだね。そういうの見る感じなの?」

「確認のためにね」

「確認って?」

「私が掲載されているからよ」

「……えっと、どういうこと? 掲載?」


 何の事について言っているのか柊はわかっていなかった。


「私、実は、モデルとかやっているんだよね」

「え? モデル? そ、そうなの?」


 月渚の見た目からは全然想像もできない。

 彼女からのまさか過ぎる返答に戸惑ってしまう。


 見た目からして、芸能人っぽい雰囲気は漂っていたが、まさかモデルだったとは――


「一応見せるけど、こういうのなんだよね」


 と、彼女は雑誌のグラビアページを見せてきた。

 そのページには水着を身に着けた爆乳系の美少女が掲載されていたのだ。


「実は、これ私なの」

「え……え⁉ そ、そうなの?」

「しッ、そんなに大声を出さないで。他の人にバレたら困るの」


 月渚は、柊の口元を軽く抑えていた。


「でも、いずれかはバレるんじゃ……」

「そうなんだけど。でも、あまり公言したくないの。だからね、これからは柊にだけ私の秘密を終えるね」


 彼女は意味深な表情で、柊の耳元近くで囁くのだった。

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