第3話 これから始まる日々
放課後。学校を後にした
「そう言えば、お兄ちゃんのクラスに転校生が来たって噂を聞いたんだけど。どんな人が来たの?」
「え、まあ、普通の子かな」
「普通? でも、美人系の子って聞いていたんだけど」
「確かに、美人系の子ではあるな」
柊は振り返りながら話す。
「そうなんだ。お兄ちゃんは、その子と会話したの?」
「一応ね」
彼女とは昨日、帰宅途中に出会い、連絡先まで交換した間柄だった。
普通に会話したり、彼女から直接付き合ってほしいと言われたのだ。
「へえ、でも、浮気はしちゃダメだよ」
「浮気? どういうこと?」
「だって、お兄ちゃんには彼女がいるわけで」
「……」
「どうしたの?」
「その件なんだけど。昨日、振られたんだ」
「……え⁉ そうだったの? なんか、ごめんね」
隣を歩いている妹は驚き、申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
「でも、どうして? 普通に楽しく過ごせてるって、この前まで言っていたのに」
「それがさ、俺とはただの遊びだったみたいで。最初っから付き合う気なんて全然なかったみたいなんだ」
「それ、酷いね。お兄ちゃんが弄ばれていただけなんて」
妹は、自分の事のようにムッとした顔を見せていた。
「しょうがないさ。俺が、彼女の本質を見抜けなかったのが悪かったわけだし。でも、急にフラれるとは思ってなかったけどね」
「お兄ちゃん……でも、そんなに落ち込まないで」
悲し気な顔を浮かべる妹。
「ありがと」
「じゃあ、家に帰る途中にあるコンビニで何か買ってあげるよ。ね、気分転換に寄って行こ」
妹は全力で柊の事を慰めていたのだ。
妹と一緒に会話しているだけでも、幾分心が楽になってきていた。
二人が帰宅途中にあるコンビニに入店すると、店員のいらっしゃいませという声が店内に響く。
二人は店内を移動し、初めにお菓子コーナーまで向かう。
「お兄ちゃんは何がいい? 私はこれがいいな」
妹はポテトチップスを手に取る。
それはサワークリームオニオンのやつだった。
他のポテチとは全然違い、新鮮な食べ応えのある商品である。
今流行りのお菓子であり、妹はこの頃、その商品を良く好んで食べているのだ。
「お兄ちゃんはどうする? 同じサワークリームにする?」
「そうだな……ちょっと待って、もう少し見てから考えるよ」
柊が少々悩みながらお菓子コーナーを移動していると、棚の反対側にいる人の後ろ姿がチラッと見えた。
その人の後ろ髪はポニーテイルで、どこか見覚えがあり、少々考えてみると一つの結論に辿り着く。
もしかして……月渚さんかな?
月渚は黒髪のポニーテイルだった。
水色のシュシュで髪を縛っており、何となくそれを覚えていた事で、柊の中で確信に変わったのである。
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
「丁度、見覚えのある子を見つけて」
「そうなの? もしかして、あっちの方にいる子?」
「そ、そうだね」
「もしや、お兄ちゃんのクラスに転校してきた人だったり?」
妹は気になったようで、ポテチの袋を持ったまま棚の反対側まで向かって行く。
柊は妹を追いかけ、黒髪ポニーテイルの子がいる場所まで向かう。その場にいたのは、
「ん? あれ? 柊もこのコンビニにいたの?」
月渚の方も気づいたようで、すぐに笑顔で柊へ話しかけてくる。
「そちらの子は?」
月渚の視線は、妹へと向けられていた。
「この子は、俺の妹で」
「そうなの? 柊にこんなに可愛い妹がいるなんてね」
月渚は妹に対し、好意的な話し方をしてくれる。
「は、始めまして。篠原真白と言います」
妹は簡単な自己紹介をする。
「真白ちゃんね。もしかして、緊張してるのかな?」
「そ、そうですね。噂に聞いてましたが、鳥居さんは美人ですよね」
「え、そうかな? ありがと、そう言ってくれて。改めて自己紹介すると、私は鳥居月渚よ。よろしくね」
月渚は妹に対して、優しく話しかけていたのだ。
「そう言えば、柊。あの返事はまだかな?」
「あの話というのは、昨日の件?」
「そうよ」
月渚は、柊の近くまでやって来て、耳元でこっそりと話していた。
「それなんだけど、友達として」
「友達?」
月渚はつまらなそうな顔を見せていたが、しょうがないかと一呼吸ついていた。
「お兄ちゃん、何の話をしてるの?」
「それは」
柊が話し始めたところで、月渚が混ざってくる。
「柊と付き合うかどうかの話なの」
「そ、そうなんですか。じゃあ、お兄ちゃん、付き合ってみなよ」
「付き合う?」
「うん、お兄ちゃんも辛いことがあったわけだし、気分を変えるためにもね」
柊の中では、まだ付き合うという心の準備は出来ていなかったが、妹の後押しもあり、少々強引な形ではあったが月渚と付き合う形になったのである。
「じゃあ、今日からよろしくね、柊」
「う、うん」
付き合うって……でも、大丈夫かな。
月渚は人付き合いも得意で、普段から明るく裏表のない性格をしている。
悪い人には全然見えず、むしろ、親切な面が目立つほどだ。
月渚は手を差し伸べてくる。
柊は少し悩んだ後、勇気を持って一歩踏み出し、彼女の手を軽く握り返す。
「これで私も安心かも。お兄ちゃん、この頃色々あったようで落ち込んでいたんです。鳥居さん、お兄ちゃんの事をお願いしますね」
「ええ、分かったわ」
軽く頭を下げている妹の真白。月渚は任しておいてと笑顔で返事を返していた。
「これで一件落着的な感じだね、お兄ちゃん」
妹は、柊の方を見てウインクして合図していた。
「まあ、そうかもな」
妹がいなかったら月渚と付き合う流れにはなっていなかっただろう。
これはこれで良かったのだと、柊は内心思うのだった。
「鳥居さんはデザート系が好きなんですか?」
妹は、月渚が手にしているティラミスケーキを見て話題を振っていた。
「そうなの。私、コンビニスイーツにハマってて。特にティラミスが好きなんだよね」
「私も好きなんです」
「本当! じゃあ、一緒に同じのを買う?」
「はい、あと、今ってクレープも人気なんですよ」
「そうみたいね。ここのコンビニにはないのよね」
妹と月渚は、意外とすぐに打ち解けていたのだ。
柊は、そんな二人の姿を眺めつつ、自分が購入したいモノを選び始めるのだった。
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