第二十九話「バッドガイ、最後の托卵を試みる」





故郷を焼き払われると言う事に納得しかねるものは多かったという事でしょうか。彼らの主張も判りますがそれで政治運動にまで発展したのはいただけない。


 そのせいで王都の防衛に裂く軍隊すら不十分な政治取引が行われ先の苦戦を招き、今まで王領穀倉地帯保守の決断が覆されてこなかった。


 結果は神託に在ったように、貴方の手で竜化した娘が穀倉地帯も人も焼き払ってしまいました。


 この国は神聖アスカロン王国、神託の巫女がいる国です。


 巫女の降ろす神託を疑い対策を怠ればこのような悲劇も起きると言う事実をこの国は受け止めるでしょう。それは洗脳にも似て王国は神託に更に依存する道を開きます。


 結果この国はさらに私を手放せなくなり私の意のままになる国となります。


 これが、、、これこそが人間が神託の巫女に成ってはいけない理由です。


 もし人間の巫女に神託を授ければいずれ長い時をかけ野心ある巫女が現れ場悪夢が待つ。


必ずや神託の運用に私的な独占を夢見るでしょう。


 悪の心を持たない人間など存在しません。


例え善なる心でもそれが私的野望と気づかない近視眼的な未熟者が踊らされる事は必ずや発生します。


 数千年以上巫女をしてきた私だからこそ断言できます。


 この地位には私は愚か、人にも過ぎた物です。


時の流れの残酷さから、人に任せば野心はいずれ手に負えなくなるでしょう。そうなれば巫女は己の意のままに神の権能を操りたがるでしょう。

 

 結果は予測にすぎませんが、必ずや今までにない巨大な神罰が下り、ティアマット様のブレス以上の悲劇が世界を覆い、時に人類壊滅を促すでしょう。


 つまり私の仕事は人間に任せる訳に行かない物です。


 そのお役目ももうすぐ終わります。


 俺はその言葉に不思議がりながら彼女の体を磨いた。彼女はすぐに種明かししてくれた。


 ―――、現在人類連合軍は、深く魔大陸に侵攻し連戦連勝を重ねています。


相応の損害を出していますが、許容範囲内で収まりつつあります。


そう、神託の因果律を乗り越える魔王の努力は水泡に帰しました。


乾坤一擲の連合軍作戦総司令本部への百万軍団によるワープ襲撃もまた勇者様である貴方の手で防がれた。


 さらに今、貴方が我々のところに従順にも帰還しティアマット様の改良を受けた竜兵器であるティアまで連れて来た。


 あとは総攻撃の合図をいつ出すかと言うタイミングの問題です。


 戦争は継続中ながら戦略の盤面で言えば決着はついた格好なのです。


 そこまで言うと彼女は俺を連れ体をタオルで拭かせ服を着せるように命じた。


 俺様大ピンチ。


 裸の美女にそんなことしたこと無いし、女物の巫女服の着付方なんか知る由もない。


 それでも俺は話し御続きが聴きたくてできるだけ頑張った。


 ―――、ふふふふっ下手くそさんですねナルちゃん。


 そうですね、話の続きとしては魔軍が勇者召喚の秘密に手を掛けなければこのまま我々が押し切って終わりでしょう。


 敵軍は未だ神の秘密を知りません。


崇める邪神が未だ生きて居ればあるいは邪神の勇者とでもいうべきものを得たかもしれません。


が―――、それは貴方が既に滅ぼして不可能です。


 そこまで言うと彼女は俺に手を伸ばす。


 まだまだ半裸じみた姿なのに着替えはもう良いらしくガウンのようなものを自分で着ると俺の頬に手を当てた。


「私との結婚とは勇者様が私の配下に成るという事です。それが嫌なら……私と別れてもかまいません。その為に貴方をこの二年間放置して考える時間を与えてみました。どうですか?愚かな勇者様、暇奈留有機様、このまま私の者に成るのは嫌ですか?」


 そう言ってシルバーナは俺を撫でるが顔はうつむいている。

 言葉もどこか力がない。

 もしこれが演技なら俺は永遠に此奴に勝てない気がした。


「う~ん、あんまりヤバい運用はティアも俺も拒否権が欲しいかな?」


「判りました。他には?」


「ティアの処遇」


「彼女はこのまま心を封印してしまいます。兵器に童女の心は不要です」


「それは同感だけど可哀そうだ」


「では、どうしますか?」


良い質問ですね!


返事はこうだっ!


「お前がパパに成るんだよっ!!」


「へ?」


「良く判った。俺にはあの子を制御できない、だが君ならやれるっ!彼女の立派な親に成ってくれ」


 そう言って俺は彼女の俺を掴む手を外し手の甲にキスを落としてイケメン角度でそっと流し見た。


今の俺は糞デブ中年ではなく、大体見た目十七歳くらいの誠実そうな少年の姿。


日本ニート時代、見た目詐欺と言われた俺のイケメンアタックを喰らえっ!

 

 二人は二十秒見つめ合ったがシルバーナは頬を赤らめた物のプイと視線をそらされた。


「そのように見つめても無駄です。私から譲歩を引き出したかったら配下として活躍し成果を出しなさい」


「どのような成果をお望みで女王陛下?」


「女王ではありません、巫女です」


「俺が唯一逆らえず傅くしかない巫女様、どのような成果をお望みで……」


 そう言って凛々しく傅いて見たわたくしビンタ喰らった。


 解せぬ。


「もうぅっ!巫女を誘惑するとは不埒なっ!」


 巫女様胸を押さえてぷんぷん怒った。


難しいもんだ。


が、手ごたえあり。


俺はにやりと笑った。


次回―――、グレイトナイスガイ灌漑工事させられる。


灌漑工事其れは巨大帝国の始まり、文明の夜明け。


文明の夜明けと言えばマンダム。


マンダムの意味最高です。


星一つで俺様の灌漑工事が始まるかもしれん……


星三つでティアちゃんが「パパ、文明って何?」と聞いてくるかもしれん……


星五つで巫女様が「マンダム……素敵」と言ってくれるかもしれん……


いや、無理かもしれん……でも押してくれ。


俺様、托卵と灌漑の狭間で星を待ってるぞ~~

ビバ托卵、ビバ文明、ビバマンダムっ!


 


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