第二十二話「二十五秒。バッドガイ罪を負う」



           


 孤児君は、正確には孤児ちゃんだった。


 孤児のぼさぼさ短髪ヘアが改まり女の子らしい手入れされたミドルヘアまで伸ばしよく似合う。それから女物の服を着ている。


 ああ、、、戦闘痕だけで何が起きたか想像できる。


 孤児ちゃんの両足が急に傾いたドラゴンの死体に引きつぶされ挟まり逃げられなくなる。


そこに助けに来た近代装甲化騎士団の分隊と、侵攻軍であった王の首を狙う敵特殊コマンド軍が偶然遭遇し激戦開始。


 近代装甲化騎士団の分隊は全滅するまでに多くの孤児を逃がした。


激闘の果てに、王城本体に通報成功。


これにより敵特殊コマンドの王都中枢浸透を根拠に友軍を魔道高速化歩兵大隊と迫撃砲部隊で引き出し他射撃婚が多いな……


魔道バーニアレッグを装備した歩兵の速度と器用さで現場に急行成功・銃撃開始。


交戦で敵コマンドの足を公園内で止めさせた。


そこに、自動車化迫撃砲装置群の高機動展開終了。


「孤児が避難し友軍分隊が全滅して無人のはずの公園に入り込んだ敵に猛砲撃を加えた」


 これで、王城を密かに狙う浸透コマンド軍は無駄な戦闘を嫌い撤退。


 魔軍の王城突入という王手は躱され戦闘は一進一退の状況になったわけだ。


 そうとしか読み取れない戦闘痕を呆然と眺め、俺は高速移動を辞め歩む。


ドラゴン墜落現場に近付く。


たどり着けばそこには孤児ちゃんが居て……


魔族の高い生命力で命脈を保つ。


顔含め全身が迫撃砲弾の爆発炎で焼かれ小銃弾の弾幕直撃で体を無数に貫かれてもも孤児ちゃんは生きて居た。


 つくづく思う。


人に踏みつけられて生き、死んで行くのが孤児なのだろう。


そう思ってから俺は思い直した。


違う、孤児でもうまくやって生き残る奴は大勢いる。


その証拠にここに孤児の死体はどこにもない。


つまり孤児がどうのじゃなくて此奴はどこまでも、そういう、人に踏みつけられる運命だった気がした。


 公園は無数の迫撃砲弾と銃撃で崩れ焼け燃え上がっている。


 孤児ちゃんは長く保つ傷でも救援が間に合う症状でもない。


 死んで死んで死にまくった俺には手に取るように彼女の残り時間がわかる。


 二十五秒。


 あとは助かる可能性が時間とともに減少するだけ。


 俺の持つ幽鬼兵のランタンは魔道具であり消耗品でもある。


幽鬼兵のランタンを全力起動した後、大勢の魂を刈り取らせ、ランタン内部に収穫した無数の魂を集めている。


これを使う為にランタン裏側の蓋を開けば集約された魂が純粋な生命エネルギーの塊として取り出せる。


取り出したエネルギーを対象の生命に注ぎ込めば、魔道進化を促し強力で従順な戦闘生命に対象生命を作り替えることが可能だった。


只の戦闘生命ではない……


神話で語るに相応しい従順で強力な戦闘生命が作り出せる。


他の機能はない、エリクサーも嫁に貢いで今はない。


只の回復魔法や魔法薬では瀕死の重傷にある魔族は救えない。

今の手持ちはこれしかない、そのはずだ。


俺はチートで強化された頭脳でそんな判断を刹那で終えた。


残り二十四秒と小数点切り捨て。


震える手で魔族の混血児に、まだ名前も知らない女の子さんに……


幽鬼兵のランタンが集めた敵魔族の魂を総て注ぎ込んだ。


その瞬間、巨大な魔法陣が輝き発生。


焼き焦げて唇を失い炭化して髪ばかり無事なまま全身を小銃弾で射抜かれ腹が裂け内臓を零し尚生きる孤児ちゃんの体が膨らみだす。


彼女は肉塊に変異。


自分の両足を潰すドラゴンまでも飲み込み肉の巨大球に一大膨張。


そのまま脈動以外動きを辞め沈黙した。


それを見届ける様に俺がダンジョンで集めた希少な魔道具。


幽鬼兵のランタンがボロボロと崩れ砂となり風もないのに宙を漂いより細かくなり散って姿を完全に消した。


残された巨大な脈動する肉の球体と残存魔力が尽きて気絶寸前の俺は少しだけ寄り添い合う。


少し座って俺は肉の球体に触れこう言った。


「俺って糞だな……」


 答える者はいない無人の燃えて壊れた公園から、大きな叫び声が聞こえる。


王都は戦闘に勝利し戦場の勝利者となり多くの民兵と義勇軍と王都守備隊と近衛師団は嬉しそうに大歓声を上げている。


戦旗を振り祖国の勝利を大いに祝っている。


魔軍が引いて行きどんどん使い捨てのテレポート陣地から撤退して行く。


テレポート陣地を守る魔軍守備隊ばかり魔道砲撃と機関砲射撃を続け他の部隊は戦意乏しく撤退して行く。


 今更の様に空中艦隊が集結完了。


王都防空の為に艦隊は突き進む。


王都の民は皆勝利の駄目押し到来に感激のあまり祖国の歌を歌い始めた。


歌詞の大意はこうだった。


 ♪無人のゴーレムばかりで運営される王都に人は地下から這い出て生まれ整備された都市と装置と行政機構と農地と住居と工房と大学とすべてのものを神々に祝福され与えられた♪


♪我らこそ世界樹に選ばれし選良の民、神の威光汚さぬように正義と共に進軍する。我ら進む先に敵は無し、ただ道ができるのみ、その道はすべて平和の王都に続く。光の栄光と繁栄に我ら永遠に歩む♪

 

 ―――、損で割に合わない趣旨の国歌が歌われて行く、―――


孤児であった肉の球体も、引きこもりであった鼻つまみ者の俺も白けた無関心で国歌なるものを一緒に聞いた。


 到底、歌う気にも覚える気にもなれなかった。


 だが旋律が力強く胸に響き、情熱を俺に与えようとする。


 気づいて俺はスキットルに収めたブランデーを飲んだ。


 リンゴから作った焼けるような果実酒で、俺はどこで買ったか思い出せない。


 久しぶりに現実逃避に酔いつぶれるまで一人で、いいや二人で飲んだ。


 孤児ちゃんだった肉塊を見上げ呟いた。


「おめでとう、君は死を免れたのだ」


 その先は胸にしまった。


 強大な生命へと生まれ変わり脆弱な肉体を捨て強大不老の肉体を再構築中だ。

 

 それが成ったら一緒に転生を喜び合おう。


次回―――、ナイスガイの行動結果洒落に成らん。


唸る砲撃の吐息、呼ばれる親御さん。


擦り付けられる責任。


怒号飛び交う職員室。


へへ汚い大人になっちゃった。


星一つで俺様の罪が少しだけ赦されるかもしれん……


星三つで肉塊ちゃんが笑ってくれるかもしれん……


星五つで俺様がもう一度、誰かを救えるかもしれん……いや、無理かもしれん……でも押してくれ。


俺様、酔い潰れながら星を待ってるぞ~~

ビバ肉塊、ビバ罪、ビバ星っ!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る