第三話「ナイスガイ、大人げない口論する」






 ―――、暇奈留有機は困ってしまったが手を優しく振りほどき一応反論。


言葉を編む。


優しく編むか苛烈に編むか悩んだ。


しかし巫女ちゃんがあまりにもキラキラとした嬉そな表情をしていたのでおっさんはムカついた。


ありていに言って苛めに走ったと言っても良いかもしれない。


―――、大人げない演説開始、―――


あなた様は巫女様ですか?


そのですね?


ニート以下なわたくしめにはそんな豪勢な背景はありませ~ん!


ニートですら年齢制限があり、それを越してしまえば労働力としての価値は一気に激減した産廃引きこもりおじさんか産廃勘違いおばさんにしかなれないんで~す。


使命も糞もありませ~ん。


ただの駄目人間で~す。


―――、彼はシャウトする、―――


揶揄っている相手ならばこんなこと百も承知で在ろう。


揶揄っている相手に言葉を尽くすなど馬鹿だ。


だが、もし相手が真剣に勘違いしてるなら止めて上げたかった……


―――、賢い賢い巫女様どうかそんな駄目人間なわたくしめにどうかどうか水源と人の集落位置を教えて、夢見る十代の妄想からサッサと足を洗ってくだあさあ~い、―――


まあ夢見る若者はデブの無能にはとことん偏見と軽蔑を向ける物だから心配は的外れも良い所だった。


 暇奈留有機君三十七歳児遺憾なくその愚かさを発揮。


 熱くパッションのままにワオ~~んと吠えていた。


 大人げなくも指先を巫女様の顔に突き付けドンドン近寄り碌でもない事を宣った。


その言葉を最後まで浴びせられた巫女少女。


彼女は少し気が強いらしく頬を膨らませ駄目おっさんに睨みつける。


目隠しはなんちゃってで薄布のお陰で見えるらしい。


巫女ちゃんは反論しつつ有機の指先を杖で押し戻しにかかる。


「私だって巫女の血筋なだけで辺境の田舎娘にすぎませんがっ」


そうなのっ!?


有機びっくり。


衝撃の事実すぎる。


都会の美女って感じだったのに……


巫女ちゃんのシャウト開始


―――、そんな言葉でおいそれと神託を否定されては巫女の名が泣きます!


―――、確かに昨日の晩、―――


神殿にて、いつものお祈りを捧げていたところ間違いなく……


三柱の神の使いが訪れましたっ!


輝きと共に世界を救う使命を負った戦士が!


このエモネル高原に降臨したので、私が戦士様を神殿まで導けとのお言葉を賜ったのですっ!


―――、演説は終わった。


やさぐれ有機は鼻で笑った。


「へっ」


 ―――、有機君は指先に力を籠める。


彼女の向けて来る杖に指先で押し返し巫女少女の押し戻す力と拮抗させこんな事を宣った。



「だっから俺様っ!コミュ障の運動不足の駄目親父なんだよっ!」


―――、彼は酒の飲み過ぎで短気になっています。


「世界を救うとかできるわけねえだろうが、救命医療ボランティアでもしろってかっ!それともタンカーから漏れた重油拾いでもしろってかっ!良いよそんなの無駄だよっ!」


 巫女の美少女ちゃんはタンカーとかボランティアとかの言葉意味を総ては理解できない。


だが、有機の本意を賢く理解し更に怒る。


彼女は、正面から真っ直ぐ見据えて告げる。


「世界を救う戦士様がたとえ駄目人間でも神様の言いつけがある以上は一緒に来てもらいます」


凛々しく言い切った。


「ここは夜にゴーストが出て昼にはゴブリンが出る危険な高原なんです」


その声には切迫感があった。


「その危険を冒して私は勇気を振り絞ってここまで来たんですから一緒に来てくださいっ!!」


駄目親父は「危険な高原」と聞きハッとした顔つきになる。


言い合いを辞め辺りをキョロキョロ見渡す。


「この高原、ゴブリンがるの?」


怯えたおっさん見苦しい……


「出ますっ!ハイ・ゴブリンがわんさかと出ますっ!」


若者勇敢格好良い。


「……それてヤバくない?」


確認おっさん情けない。


「ヤバいなんてもんじゃないですっ!国の軍団でも撃退する敵対勢力のテリトリーを犯している最中なんですっ!判ったら私にさっさとついて来てくださいっ!!」


若者シャウト雄弁なり。


巫女様の声はそれはそれは大きかったそうじゃ……


(昔話風)


彼女は吠える!


有機は怯えた。


「あの巫女様、もう少しお声を小さく……」


「何ですかっ急に怯えてっ!それでも使命を帯びた戦士様ですかっ!」


彼女は興奮しています。(英語教科書風)


「お願いっお願いっ小声でしゃべって~じゃないと」


彼は怯えています。(英語教科書風)


「そうして欲しくばっ!神殿まで来ると言いなさいっ!」


彼女は怯える彼に気付き勝利の目を発見しました。(英語教科書風)


背後の草原でごそごそと音が鳴った。


其れは地獄マラソンの合図。


もしくは美味しくもぐもぐされるピクニックの食事会合図。


地獄の使者来たれり……


言い争うを二人はぱたりと辞めさび付いたロボットの如く首を背後に向け体ごとひねった。


するとそこにはハイ・ゴブリンが六十体ほど偽装を解いて姿を現し凶暴な見た目の槍と盾と弓を携えて此方を見ている。


そして沈黙のお見合い六秒後に武装を構えさせたリーダーゴブリンがこう叫んだ。


「げぎゃっ!!」大意(突撃)


これを受け、暇奈留有機君は叫ぶ。


「やっぱり見つかった~~っ!!」


こうして暇奈留有機君は急いで立ち上がり復活したその両足で異世界の大地を踏みしめる。


年長者の意地で巫女様を庇うべく担いで突っ走って逃げだした。


次回―――、ナイスガイ鳴いて泣く。


巫女様、怒る。ゴブリン、追う。俺様、逃げる。


世界はまだ救われない。


(たぶんまた怒られます)


星一つで俺様の逃走距離が伸びるかもしれん。

押してくれたら、次回はもっと泣くぞ。

俺様式、異世界逃走譚──続く。



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