VR学園ラブコメ~ゲームの中で恋人になった相手がリアルでは同級生だった件~

粛々と宿泊するシュークリーム

第一章:縮まる距離とすれ違う心

第1話

本日からちょこちょこと投稿していきたいと思います。

拙い文章ですが暖かい目で見守って頂けると幸いです。

気に入ったら♡ください(直球)

誤字・脱字報告や感想など貰えるとモチベ爆上がりしますのでナニトゾ。

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「――おやすみ、ユウ


 甘い声が耳元で響く。


 俺の目の前にいるのは、銀髪の美少女『ルナ』。大きな瞳に淡い光が揺れ、微笑む表情がなんとも愛らしい。


 美少女に見つめられながら「おやすみ」なんて言われる状況――普通なら、こんな夢みたいなシチュエーションが現実に起こるわけがない。


 だが、これは夢ではない。VR学園シミュレーションゲーム『Virtual Academy』の世界。俺は今、ゲーム内の自室にいて、ログアウトする前のルナと夜の挨拶を交わしていた。


「おやすみ、ルナ。また明日」


 俺がそう返すと、ルナは嬉しそうに微笑んでログアウトしていった。


 画面が切り替わり、システムの表示が出る。


《あなたの恋人・ルナがログアウトしました》


 このゲームでは、プレイヤー同士が仮想の学園生活を送りながら交流を深めることができる。恋愛要素もあり、気の合う相手とカップルになることも可能だ。


 ――そして俺は、ルナとゲーム内で恋人関係になった。


 最初はただのゲーム仲間だったが、一緒に過ごすうちにお互いを意識し始め、数週間前に正式に付き合うことになったのだ。


「はぁ……ゲームではこんなにリア充なのにな」


 俺は小さくため息をつきながら、ログアウトボタンを押した。



▽▲▽▲▽▲▽▲



「……悠、お前また昨日も夜更かししてたんじゃないのか?」


「ん……まぁ、な」


 翌朝、俺――藤宮悠斗ふじみや ゆうとは、学校で親友の橘颯真たちばな そうまに呆れた顔を向けられていた。


「お前、最近やたらと『Virtual Academy』にハマってるよな。もしかして、彼女でもできたか?」


「ははっ、そんなわけないだろ」


 思わず苦笑いしながら言う。……いや、正確には「ゲーム内では彼女がいる」のだが、リアルの俺に彼女なんているはずがない。


「まぁ、いいけどよ。せっかくの高校生活、ゲームばっかじゃもったいねぇぞ?」


「お前が言うなよ。昨日も女の子と連絡取ってただろ」


「それはそれ、これはこれだ」


 颯真はニヤリと笑う。こいつは学校でも有名なモテ男で、女の子からの人気も高い。俺とは正反対の人種だ。


「それより、お前さ……」


 颯真が急に声を潜めた。


「……桜井さんと何かあったか?」


「桜井さん?」


 名前を聞いた瞬間、俺は思わず背筋を伸ばした。


 桜井玲奈さくらい れな。俺のクラスメイトで、学校一の美少女。黒髪のストレートに整った顔立ち、成績優秀でスポーツもできる才色兼備の完璧超人。


 だけど、俺とは特に接点はない。


「いや、別に……なんで?」


「いやな、桜井さん、なぜかお前のことチラチラ見てる気がするんだよ」


「は?」


「ま、俺の気のせいかもしれねぇけどな」


 そんな馬鹿な。


 桜井玲奈みたいな完璧女子が、俺みたいな地味な男子に興味を持つ理由なんて――


「……藤宮くん」


「っ!?」


 不意に後ろから名前を呼ばれて、俺は驚いて振り向いた。


 そこには、桜井玲奈が立っていた。


 ……え? なんで?


「ちょっと、いいかな?」


 玲奈は俺の目をじっと見つめてくる。その表情はどこか探るような、期待しているような……。


「え、えっと……」


「大丈夫、少しだけだから」


 俺が返事をする前に、玲奈は歩き出した。俺はその後ろをついていく。


 周囲の視線が痛い。廊下の生徒たちが俺たちを見て、何か囁いているのがわかる。


「……ここなら、誰にも聞かれない」


 玲奈は校舎の端、ほとんど使われていない階段の踊り場まで俺を連れて行った。


「えっと、俺に何か用……?」


「……急に変なこと聞くようだけど、『悠』って名前に聞き覚えはない?……例えばゲームなんかで」


「…………え?」


 俺の思考が止まった。


 ――待て、今なんて言った?


「ゲーム……?」


「……Virtual Academyの『ルナ』は私よ」


「っっ!!?」


 心臓が、耳を突くように激しく鼓動を刻む。廊下に薄明かりが差し込む中、俺の前に立つ玲奈の瞳は、ゲーム内での柔らかいルナのイメージとはあまりにも異なって見えた。彼女の口元にかすかな微笑みが浮かび、しかしその奥にはどこか儚い決意が感じられる。


「……やっぱり、そうなのね」


 玲奈の一言に、呆然と立ち尽くす。教室でいつもは冷静で完璧な彼女が、今、こんな形で自分に近づいてくる。俺は思考が混乱し、ゲーム内で交わした数多の甘い言葉や、ルナとしての優しさが、どれほど幻想だったのかを痛感する。


「玲奈……君は……」


 声はかすかに震えていた。どうしてこんなにもギャップがあるのか。画面越しには笑顔で、心を開いてくれていたルナ。その正体が、まさか現実の桜井玲奈であるとは……。胸の中に、期待と不安が入り混じった感情が渦巻く。


玲奈は一歩、また一歩と近づき、低く柔らかな声で話し始める。


「私ね、最初からずっと……あなたに会いたかったの」


 その言葉は、どこか重く、切実な響きを持っていた。俺は、ふと自分の中にあった、VRの中だけで感じられる安心感や喜びが、現実ではどれほど儚いものだったのかを実感する。


「でも……どうして、こんなにもゲームと現実で、君は全然違うの? ゲーム内のルナは……優しく、明るく、時には甘えたりしてくれる。それなのに……」


 夜遅くまでログインし、ルナと交わした何気ない会話の数々。あの時は、彼女がどれほど素直で、そして本気で自分に向き合ってくれていると感じたはずだ。しかし、現実の玲奈は、どこか影を潜めたような、遠い存在のようにも見えた。


玲奈はゆっくりと目を伏せ、そしてまた俺の目を見返す。


「現実の私は……ずっと、あなたに近づく勇気がなかったの。ゲームの中なら、私も本当の自分をさらけ出せると思った。あなたと笑い合い、心を通わせられる……だから、あのときはルナとして接していた。でも、現実では……」


 彼女の声が一瞬途切れ、廊下に響く足音とざわめきが、二人だけの世界を乱す。玲奈の内に秘めた孤独や不安、そしてほんの少しの期待を感じ取り、胸が締め付けられる思いを抱く。


「俺は……」


 口ごもりながらも、内心で確信していた。ゲームの中で君と過ごす時間は、どんなに夢のように美しくても、現実のこの瞬間の重みは別物だ。

 

 俺は深呼吸をし、震える声で続ける。


「俺は、君と一緒にいるとき本当に幸せなんだ。だけど……現実に戻ると、どうしても心が乱れてしまう」


 玲奈は、しばらく黙った後、優しく微笑んだ。その微笑みは、クラスの完璧な桜井玲奈ではなく、ただ一人、俺にだけ見せる弱々しい温もりに満ちたものだった。


「私も、あなたといると安心できる。だけど、現実は……怖い。弱い自分が、そのままさらけ出されるのが怖かったの。だから、つい……つい、ルナの方であなたに話しかけていた」


 俺はその言葉を聞きながら、胸の中で確かな決意が芽生えるのを感じた。これまで、ただ画面越しにしか存在を感じられなかった君が、今、こうして目の前にいる。ゲームの中の甘い約束も、リアルでの真実も、どちらも捨てることはできない。

 

「俺は……『ルナ』となら、現実の不安も乗り越えていける気がする」

 

 俺は、静かにしかし確固たる口調で告げた。玲奈は、その言葉に、ほんの少し涙ぐむような表情を浮かべる。

 

「ありがとう……『悠』」

 

 周囲では、遠くでクラスメイトたちのざわめきが聞こえ始めていたが、二人の世界はそれとは別の静寂に包まれていた。

 

 しばらくの沈黙の中、玲奈は小さく手を伸ばす。そして、俺の手に触れたその瞬間、二人の心は、ゲーム内の甘美な世界と現実の冷たい世界との境界を、ひとしずくの温もりで繋いだように感じられた。

 

「これから、もっとお互いのことを知っていきたい。ゲームの中でも、現実でも……あなたと共に」

 

 俺は玲奈の言葉を受け止めながら、心の中で静かに誓った。たとえこれからどんな困難やすれ違いがあっても、彼女とともに歩む未来を、必ず掴んでみせると。


 その夜、廊下の隅で交わされたほんの短い会話は、ただの偶然の告白ではなく、これから始まる長い物語の序章であり、現実とゲーム――二つの世界を繋ぐ大切な一歩となったのだった。

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