第10話

「青い海! 白い砂浜! ここか! ここが天国に一番近い島か!」

「天国に近いかはともかく、赤道に近い南国ではあるね。ヤシの木も生えてるし」


 目的地にほど近い名も無き諸島。その中でも一番大きな島の砂浜にギガントもどきを降ろし、野営の準備をはじめる。

 といっても、馬車を降ろしてギガントもどきを消し、少し草の生えている高台にテントやタープを張って簡易ハンモックを置いたら終了だ。いつものルーチンだから十数分で終わる。

 キッカの魔法とボンちゃんの【水生成】のおかげで、水回りを気にしなくていいのはありがたい。キャンプでの水の確保は最重要だからな。


 島に降りてから、妙にボンちゃんのテンションが高い。ワンコが風呂上がりに興奮しているのに似ている。カーペットを掘ったりするんだよな。掘れないけど。


「いやぁ、あっちの世界の海は年中荒れ荒れでさ。外洋に出れないんだよね。行けるのは湾とか内海ばっかで、青い海がないのよ」

「そうなんだ? 確かに、外洋の島じゃないと海は青くないって話は聞いたことがあるけど」

「そうなんだよ! 内海にもでっかいイカがいたりしてさ、あっちの海は全然リゾート向きじゃないんだよ!」


 でっかいイカって……それ、もしかしてクラーケン? いるんだ。怖いな異世界の海。

 いや、俺が見たことないだけで、この世界にもいるかもしれないな。ドラゴンやスライムはいるし、そのあたりのメジャーモンスターは一通り網羅していそうだ。

 なんなら、シーサーペントやリヴァイアサンなんかの超大物も……


「あっ、ビート! あっちでイルカがでっかいウナギみたいなのに追われてるぞ!」

「ええっ!?」


 早速出たのかシーサーペント!? フラグ回収が早すぎるよ! まだ考えただけだよ!


「どこ、見えないよ?」

「あっちあっち! えーっと、大体五キロくらい先?」


 ウーちゃんに咥えられたままのボンちゃんが種の一部を変形させて方向を示すけど……見えないな。しょうがない、カメラを飛ばして……あー、なんかいるな。水上に細長く身体を伸ばしている。ウナギっていうよりチンアナゴ?

 その手前を白黒ツートンカラーのイルカが飛び跳ねてる。なんでわざわざ跳ねる? 挑発してるの?


「遠いなぁ。よく見えたね? それも技能スキル?」

「おう、大魔王だからな! 【千里眼】って技能だ!」


 大魔王は関係ないと思う。

 けど技能はやっぱり凄いな。遠くが見えるっていうのは、地味だけど役に立つ。


「どうしよう? 助けようか?」

「んー、助けたら乗せてくれるかな? イルカに乗るのってロマンじゃね?」

「どうだろう、野生だからなぁ?」


 人に慣れていないなら乗せてくれないかも?

 でもボンちゃんには【調教】技能があるし、ワンチャンある?


「なによ、何かいるの?」

「ジャスミン姉ちゃん。うん、でっかい細長い魔物が、ちょっと沖にね」

「海の魔物ね! 美味しいのかしら? 食べてみたいわ! ビート、獲ってきてよ!」

「あれ、ジャスミン姉ちゃんは行かないの? 自分で獲ってくるって言うかと思った」

「海の上じゃ剣を振れないもの。だからあんたに任せるわ! 大急ぎでね!」


 ジャスミン姉ちゃんが話に割って入ってきたと思ったら、シーサーペントを獲ってくることが決まった。食べる気満々だ。ブレないなぁ。

 イルカは……まぁ、ついでに助けるか。



 ほほう、なかなかの巨体ですな! 水面に出てる分だけで三十メートルくらいあるか? 全長は百メートル超えてるかも。

 それにしても、ビートの魔法は本当に便利だな。この距離を一瞬で移動できるんだから。

 俺の亜空間を使ったワープも凄いと思うけど、単純な速さというのもやっぱり凄い。シンプルなだけに使い勝手がいいし。


「見た目はウナギっていうよりアナゴだね」

「そうだな、ヌルヌルしてる感じはないな」


 ウナギじゃなくてアナゴさんだった。茶色くて脂ぎってる。『どうだぁーいイソノくぅーん、帰りに一杯ぃー? ブラァ』とか言いそう。


「じゃ、どうしようか? 俺がやろうか?」

「うーん、いや、僕がやるよ。そんな手間じゃないし。ほら」


 うおっ、一瞬でアナゴさんが首チョンパ!? 海山商事を解雇されました!? 何も見えなかったぞ? いつ公示が出た?

 こいつの魔法なんだろうけど、意味分かんねぇな。気がついたら首を刎ねられてるとか、ガードのしようがないじゃん。ガード不可の即死攻撃なんて、修正待ったなしだな。

 現に、斬られたアナゴさんの頭は海面でまだパクパクしてるし、身体の方もビッタンビッタン暴れてる。まだ自分が斬られたことに気付いてないんだろうな。


 あ、追われてたイルカたちがアナゴさんの頭に群がってきた。おー、喰ってる喰ってる。さっきまで喰われる側だったのに、一瞬で喰らう側へ。これも自然の摂理だなぁ。

 あ、ちっちゃいのもいるな。子イルカだ。

 あー、跳ねてたのは大人か。子供を守るために注意を引き付けてたんだな? やるじゃん。


「それじゃ、鮮度が落ちないうちに持って帰って食べようか。シーサーペント並みに首を長くして待ってる人がいるしね」

「あはは、だな。じゃ、あの頭はどうする?」

「うーん、あれはもういいかな? イルカたちへのお裾分けってことで」

「わかった。おいお前ら、その頭はくれてやる! よく味わって喰えよ!」


 イルカたちに声をかける。俺は何もしてないけどな。見てただけ。


『わかったー、ありがとー』


 イルカたちがクケクケと返事をする。うむ、良いことをしたあとは気分がいい。


 ……ん?


 ……ええっ、イルカがしゃべったーっ!?



「へー、この子たち、独自の言語で会話してるんだね」

「うむ、どうもそうらしい。俺の【言語理解】技能が発動してるからな」


 まだ暴れているシーサーペントの胴体を島まで引っ張っていって、内蔵やら骨やらを切り分けた。三枚におろしたら、ようやく動きが止まった。生命力強すぎ。

 この作業は、流石に獲物が大きすぎるってことで、全部俺が平面魔法で処理した。いくらなんでも、このサイズの魚をおろせる包丁なんて持ってきてないからな。というか、この世界には存在しないと思う。

 食べられる部位は、さくに切ってルカが焼いてくれている。料理名的には白焼きになるんだろうけど、ひとつの塊が大きすぎて丸焼きみたいにみえる。食べるときには、さらに切り分けることになるだろう。


 シーサーペントの魔石はでかかった。昔狩った巨大ザメの魔物のジョーさんのものより一回り大きい。これはいい値で売れそうだ。

 いや、逆に大きすぎて売れないか? お金には困ってないし、記念品として飾っておくか。


 内蔵や骨、皮なんかの食べられそうにない部位は、細かく刻んで海に捨てた。小魚が群がってたから、すぐに自然へと還るだろう。

 なんて思ってたら、その小魚を狙ってまたイルカたちが集まってきた。食物連鎖が眼の前で繰り広げられている。

 そのイルカたちを見ていたボンちゃんが『お前らうるせぇ。静かに喰え』とか言うから、その理由を聞いたらそういうことだった。


「俺等みたいに複雑な言葉じゃないけどな? 『そっちー』とか『おいしー』とか『ソレは食べちゃだめー』とか、簡単な会話だけっぽい」

「ふーん。でも、ちゃんとした言語体系があるんだね。これは新発見かも。ちなみに、ウーちゃんたちは何か話してる?」

「いや、ウーとかワンとかヘッヘッヘッとしか言ってない」

「そっか、残念」


 ウーちゃんたちと話せたら、もっと仲良くなれたのにな。ワンコと話すのは異世界でも夢のままか。

 まぁ、言葉は分からなくても気持ちは分かるからよしとしよう。心が通じていれば問題はない。


「うーん、高知とか伊豆とかじゃイルカを食べるっていうけど、会話ができる相手を食べるのは抵抗があるなぁ。この世界のイルカは、食用にはできそうにないね」

「だなぁ。精々ペットにするくらいじゃね? いや、最初はお友達からかな?」

「友達からペットって、立場悪くなってるじゃん(笑)」

「いやいや、三食昼寝付きだからペットのほうが上だって(笑)」


 なんて話をイルカを見ながらしていたら、焼けたシーサーペントの白焼きを咥えたアーニャがやってきた。塊肉のまま、両手で持ってかぶりついている。なんて豪快な。


「この魚、脂が乗ってて美味しいみゃ! それで、次はあいつらを焼くみゃ? どんな味か楽しみだみゃ!」


 その発言が聞こえたのか、イルカたちはクケクケ鳴きつつ、一斉に沖へと逃げていった。何匹かは跳ねて注意を引きつけている。偉い。


「あー、『あの黒いのはヤバい!』『喰われる、逃げろ!』だってよ」

「だろうねー。それは僕でも分かったよ。アーニャ、あれは魚っぽいけど魚じゃないから、焼かないし食べないよ?」

「うみゃ? そうなのみゃ? 大きくて美味しそうなのに、残念だみゃ」


 そう言って、手に持った白焼きをムシャムシャと頬張りながら戻るアーニャ。

 ルカのほうから漂う魚脂の焼ける匂いが美味しそうだ。お腹が催促の声を上げる。アーニャに食べ尽くされる前に俺も食べてこよう。

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