ダ天使VT!~となりのダ天使と始める動画勢VTuber~
森野 のら
ラキというダ天使
第1話 ダ天使がきた!
美大を中退し、六畳一間のやっすいボロアパートの管理人をしながら細々とイラストを描いて暮らしていると、時折、将来が不安になる。
先月21歳になり、社会経験もなく、大学は中退。
中退理由も、バイトと精神的なものでサボったりしてたら留年が確定したのでまあ、いいかと辞めただけだ。
それが理由で親に勘当されたりしたが高い金を出して通わせてくれたんだから、残念ながら当然だと思う。
不安な将来をなんとかできるほどの才能もなければ、やる気もない。
だから今日もこの狭い部屋でイラストを描いて、SNSにアップし、いいねが徐々に増えていくのを眺める。
酒を飲んで、甘いフレーバーの電子タバコを吸って、寝て、昼に起きる。
代わり映えのない退屈な毎日。いっそ死んでしまった方が楽で、でも死ぬ勇気なんてあるはずもなく、今日もただ絵を描いて気を紛らわせていた。
フォロワー3289人。特別に上手くもなく、好きなようにお絵描きをするだけで、偶に伸びても、結局誰からもフォローされることもなく、黙々と絵を描いて面白い呟きもしない有象無象の木っ端。
それが現時点での
だが今日はそんな代わり映えのない日常に少し変化が起きるみたいだ。
このボロアパートに新しい入居人がやってくる。
大家をしている祖母は、ちょっと変わった子だけど良い子だと言っていた。
祖母の言う変わった子は信用ならない。そもそも内見もこないで、入居者がくるって聞かされたのが昨日だ。
これまで入れた
しかもネットにはこのアパートを事故物件だという噂まで広まり、昔ここには処刑場や精神病院があったことになっている。
ねえよ。たぶん。
そんな悪い噂も広まり、このアパートに住んでいるのは残念ながら私だけだ。
ボロいし、家賃は別にめちゃくちゃ安いってわけでもない。
101の角部屋、立地はそもそもほとんど周りになんにもない片田舎だからどうでもいいが、汚いし古い。知らんタイプの虫も出る。
風呂があり、トイレ別なだけで、良物件だと納得するしかない程度の家だ。
これからどうしようっかなぁ。
就職……?いやぁ、働きたくないな……
___ピンポーン。
物思いに耽っていると、入居者がやってきたらしい。
時刻は朝の八時で、宅配も頼んでないしまあ間違いはないだろう。
インターホンカメラなんて便利なものが存在するわけなく、まあ女の子だと聞いているし大丈夫だとチェーンを外して扉を開けた。
「あ、どうも、越してきた堕天使です。これはつまらないものですが、バジリスクの目です」
扉を閉める。
……婆さん、これ、ちょっとか?
扉をゆっくりと再度開くと、先ほどの堕天使と名乗った
「バジリスクの目はメデューサと違って、死んだらその効力は発揮しないので大丈夫ですよ?インテリアにでもどうぞです」
こてん、と可愛らしく首を傾げる小柄な少女。
金髪の髪に、眠たげな空色の眼、白いワンピースを着ていて、煤のようなものでくすんだ白い翼が背中から見えている。そして手にはおどろおどろしい爬虫類の目。
外国人だろうか?だが日本語は流暢だ。
電波系というべきかなんというか、まあどっちにしろ、家賃を払ってくれる貴重な住人ではある。
あんまり無下にはできない。
私はできるだけ笑顔で対応する。
「そ、そうなんですね。ありがたくいただきます」
バジリスクの目とやらを受け取ると、明らかに生物由来の感触がして、叩きつけるように靴箱の上に置く。
キ、キモすぎる……
靴箱の上においてあったぐちゃぐちゃの雑巾で手を拭い、できるだけ関わらないようにしようと隣の部屋の鍵を渡す。
隣の部屋なのは祖母がおススメしたらしい。
孫が管理人をしてるから頼ってね、と……っち、余計なことを。
「ありがとうございます」
では、とこのまま扉を閉めて鍵を掛けても良かったが、残念ながら管理人をしている以上、なぜか内見もしてない住人をこのまま放っておくことはできない。
「じゃあ、ぱっと案内しますんで」
サンダルを履いて、隣の部屋の鍵を開けてもらう。
扉を開けると狭い玄関と、奥のワンルームへ続く通路。
通路の左側はキッチンがあり、右側にはトイレと風呂の扉が二つある。
奥はフローリングの床に、ベッドは備え付きで置いてある。
「見ての通りのワンルームです。鳴くタイプ以外のペットは可ですがデカい蛇とか飼う場合はちゃんと管理してください」
隣を見ると、自称堕天使は口を開けて「おー」と見ていた。
「これが人間の家ですか……何やら見覚えのないものがありますね」
設定に忠実に、きょろきょろと辺りを見回す堕天使。
てか、この羽根はどうやってくっつけてるんだ?
白いワンピースの肩甲骨辺りから小さな羽根が飛び出ているが、時折羽ばたくように動いていて、仕組みはわからない。
「わっ、これ捻ったら水が出るですよ!?」
徹底してんなぁ……
だが顔が良いから絵になる。
アイドルでもやってるんだろうか?地下ドル的な。
……ん?
ふと、下を見るとフローリングの床が汚れていることに気づいた。
掃除ちゃんとしてなかったのか?
玄関から続く汚れを目で追うと、土で汚れた白い足が見えて、後ろを振り向く。
玄関には私のサンダルしか置いてなくて、ということは今までこいつは素足だったのか……?
「おい、あんた」
「おいでもあんた、でもないです。僕にはラキという名前があるのです」
ぴしっ、と指を向けるラキに、若干の苛立ちを覚えながらも視線で足を差す。
「……なんで靴を履いていない」
「靴……ああ、僕には必要のないものですから」
閉め切られたはずの部屋に、ふわり、風が舞う。
やがて起こったのは、現実離れした事象で。
思わず呼吸を忘れた。
そこに重力など存在しないかのように、浮き上がり、時折、くすんだ羽を羽ばたかせる少女の姿。
フローリングに影だけ残して、ふわりと浮かび、部屋を軽く飛んで見せる姿は、まるで本当の……
「天使……」
「正確には堕天使です」
「幻覚……じゃないよな……」
「僕が飛んでいることは事実ですよ」
そう言いながら、ラキはゆっくりと床に降りる。
「天界を追放され、人間界に堕とされたのが3日ほど前。この体がほとんど人間と変わらないため、まず居住区が必要になったところを優しいお婆さんに拾われて住まわせてもらうことになりました」
私が驚き、動けないでいると、ラキは「ふむ」と顎に手を当てる。
「随分と変わった人間界の様子を見てもしやと思いましたが、この世界で天使や悪魔を見たことは?」
「あ、あるわけがない。天使も悪魔も、空想上の存在だ」
空想上の存在のはずだ。
だが今、それが私の前にいる。
「僕が天界を追放されたのは仕方がないことなのでいいですが、まさかこんなに人間界が発展しているとは……なんですかこれ?」
スイッチを押し、電灯がついて、驚きの声を上げるラキ。
「……電灯のスイッチだ。それを押すと光るから夜になるとつける」
「なるほどです。っとまあこんな風に僕は常識のない堕天使なので、色々教えてくれませんか?」
ラキがそう言って、困った顔で笑う。
軽く太ももを抓り、これが現実であるということを確認して、息を吐いた。
_____こいつが本当に堕天使かなんてどうでもいい。
大事なのは、この退屈なくそったれな日常を、彼女が変えてくれるかもしれないということだけ。
それだけで、今の私にはベットする価値が十分にある。
「家賃は入れろよ」
「お金とかありませんよ?」
「見りゃわかる」
これがラキとの出逢い。
これからなんだかんだで長い付き合いになる堕天使様との出逢いだった。
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