第12話 球技大会
それから蘭堂は悠真やその周囲に対して一切動く素振りを見せず、おかげで動向の調査も十分には出来なかった。
黒サンタが経歴不明という情報を得てから以降続く重大な情報は得られず、露城もかなりグレーな方法で探るがやはり経歴は不明のままだった。
勇翔は何か知っていそうだったが、その硬い口を開く事は出来ず、球技大会当日を迎えた。
※ ※ ※ ※ ※
5月17日。
絶好の球技大会日和の快晴は、まだ春真っ只中だが夏を思わせるような蒸し暑さも感じさせる。
1年生は高校から700メートル離れた場所にある〝九里ヶ崎屋外競技場〟で現地集合し、それぞれに支給された本格的なサッカーウェアに着替える。
この球技大会はスポーツを通してどれだけ
悠真が駆使する機会は無いだろうと自身も分かっているため、今回は蘭堂の方に集中する。
「なぁこの硬い奴って何に使うんだ?」
「レガースな、ソックスの中に入れてスネ守るんだよ、左右と形違うから確認しとけ」
「サンキュー」
B組のユニフォームは上とソックスが緑色で下が白色、ゴールキーパーは全身黄色だった。
またサイズはユニフォーム、ソックス、スパイク、キーパーグローブに至るまで完璧に作られている。
(身体測定の時に身長体重だけじゃなくて色んな部位の計測してたのって、このためか)
金色で描かれたフィールドプレーヤーの背番号と違い、悠真のユニフォームには黒色で「31」の番号が記されている。背番号は出席番号なので特に意味は無い。
男子全員が着替え終えたところで、ウォーミングアップのためにグラウンドへ集合した。
女子と合流し、軽いストレッチで体をほぐした後にランニングで体を温め、ボールを使って練習を始めようとした時にようやくA組がグラウンドに出て来た。
A組は上下ソックスと赤色のユニフォーム、ゴールキーパーは全身シルバーで、B組とはっきり見分けがつくようになっている。
「よう、無駄に頑張ってるなB組」
「何だと?」
余裕気なA組の挑発に乗りそうになったB組の生徒を、別のB組の生徒が肩を置いて「相手にするな」と伝える。
この勝負、誰がどう見てもA組の勝利は見えているだろう。
身体能力では互角でも、
当然だ、
B組に分があるとすれば、サッカー経験者がA組と比較して多いのと、悠真がいるため人数が多い事くらいだろうか。
「ゆ……悠真……」
「何だ」
緑色のユニフォームを袖に通した背番号「30」の水希は、心配そうな面持ちで悠真に話し掛ける。
「……無理はしないでね」
「そうなることを願うばかりだ、水玖は大丈夫か?」
「うん、おばちゃんが見てくれてるし……一応お父さんにもメールは送っておいたから」
「そうか」
A組を倒すためにこの日まで練習をしてきたクラスメイトには申し訳なく思っているが、悠真はやはり自身の命を最優先に動きたい。
幸いにも出番は最後の3試合目だろうし、2試合目が終わるまでに片を付けるのが最善だ。
キックオフまで後1時間、悠真は周囲を警戒しながら練習を続ける。
※ ※ ※ ※ ※
同日、同時刻。
2年生のバスケットボールが行われる〝九里ヶ崎総合体育館〟のスタンド席にて、メアリーとゴリマッチョのボディーガードは蘭堂の姿を確認する。
「あれね、ホントただの高校生にしか見えないわ」
悠真のボディーガードをしていたゴリマッチョがいたのは僥倖で、メアリーはすぐに顔を覚えてマーキングする。
「にしても多いわね人、高校生の大会にそんなに熱くなれるのかしら」
客足は基本的に2、3年生に集中し、特に企業スカウトの面々は進路を決める直前の2年生を観るために最も集まる。
1年生のスタンド席には注目株がいない限りスカウトは数名、客も保護者と1年生を観るだけのコアなファンしかいない。
そんな1年生のスタンド席にてインカムを取り付けて連絡を待つ勇翔は、サッカーを観たことが無いらしく興味津々だ。
3年生のソフトボールが行われる〝九里ヶ崎スタジアム〟には、一応何かがあった時のために黒サンタと細マッチョのボディーガードが着いていた。
露城は警視庁にて待機、通報後すぐに動けるように準備は整えている。
万全の態勢で対蘭堂包囲網を形成するメアリー達の作戦は、今のところ順調に進んでいる。
※ ※ ※ ※ ※
「A組とB組ってどんだけ差あるんだ?」
「まあA組は1年でも即戦力レベルだしな、高校生とは思わない方が良い」
悠真と共にキーパー練習のためにゴールのそばで待機中のクラスメイトは、無知な悠真に色々と教えてくれていた。
まず大前提として、中3の10月時点で
日本全国から数十人が集まり、基本的に定員割れをする九里高は皆合格する。
この1年生は偶然にも定員ピッタリだったため30と30で分けられているが、通常ならば2、3年生のように定員割れが起きる。
それほどまでに
そこから
定員が割れていれば、年に3度ある
逆に基準値を切り、さらに下位30人の中に入れば繰り下げられ、B組の上位陣は繰り上げによりA組になる可能性もあるのだ。
2年生のA組は19人、3年生のA組は15人なので今年度の新入生は人数の上では大変優秀だが、基準値を超えた者が8人だけと不作の年だった。
「その8人がヤベぇから、俺らはほぼ負け確なんだよ」
この基準値を超えられたら〝
学年関係なく、A組という肩書きは
「けど負けらんねぇよ、俺たちは別に落ちこぼれって訳じゃねぇ、8人を除けば僅差なんだしよ」
「……そうだな」
球技大会に向けて強い意気込みを見せるクラスメイトは、呼ばれたためキーパー練習に向かっていった。
悠真は普段気にしていないが、クラスメイトの彼──
サッカーの練習を見た感じでは、両クラスとも差はあまり無さそうに見える。
しかし
ふいに勇翔の方に視線を向けた悠真は、まだ蘭堂に動きは無いらしい。
そしてそのまま蘭堂は動く事無く、午前10時に第1試合のキックオフのホイッスルが鳴り響いた。
「──始めようか、嶋内悠真」
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