第1話 幼馴染の婚約者


4月上旬。


朝、聞き慣れたアラーム音で目を覚まし、寝室のカーテンを開け、軽く伸びをして洗面所に顔を洗いに行く。


まだ朝晩は少し冷え込む季節ではあるが、最近は起きるのが億劫になるほどでもなくなってきたな。


「それにしてもイケメンだよなぁ」


顔をあげ洗面台に写る自分を眺め、一言。


決して、自意識過剰。いや、ナルシストな訳ではない。


黒髪で、ツーブロック。前髪は目に掛からないぐらいで目鼻立ちも整っている。


清潔感もあって爽やかイケメン君がそこにいた。


まあ、おれなんだが。



軽く寝癖を直し、キッチンで食パンをトースターに突っ込みリビングへ向かう。


そのままテーブル席につき、テレビをつけると重婚人数を増やすべきか否かのワイドショーが流れていて、すこしだけげんなりする。


法律では、二十歳までに五人との結婚。


いや、これだけでも時間制限あるからきついと思ってるのに、これ以上増えたらしっかり考えて選び、探し出すなんて無理ゲーじゃね?なんて考えているとトースターがパンの焼きあがりを知らせてくれる。


今日は高校の入学式だ。午前中で終わる予定だし、普段は朝はごはん派ではあるが今日に限ってはパンでもいいだろう。


男子校時代は、母親がなにかと世話をしてくれていたのだが、高校入学を機に一人暮らしになった。


これはなにも珍しいわけではなく、男はみな高校入学を機に婚活に真面目に取り組むように一人暮らしするのが基本になっている。


まあ、要するにさっさと同棲して、面倒見てもらえやっていう圧だな。


稀に一人暮らしじゃなく実家で囲ってる家もあるらしいが、周りからは冷ややかに見られるというか、良くは映らないので俺の家庭もみなに倣って一人暮らしをさせられたって感じだな。


俺もさっさと相手を見つけて同棲しないと家事はそこまで苦じゃないが、間取りが一人にしては広く3LDKもあって掃除が面倒だ。


まあ前世の知識で炒め物とか簡単なもんは卒なくこなせるし、洗濯も一人だからそんな毎回大量に貯まるもんでもないから大丈夫なんだが、掃除は前世が1DKと狭かったのもあり、ひたすらに億劫だ。


早く誰かに住んでもらって部屋を埋めてもらったほうが助かる。


こうやって世の男たちが持て余すようにでかい部屋を割り当てられてるんじゃないかと思う。


例えば、1DKを希望しても最低2LDKからしか住まわせてくれないらしいので、そういった意図は確実にあるのだろう。



そんなことを考え、小さく決意する。


うん。在学中に結婚相手5人決めちゃおう、と。


だって、せっかくなら早くハーレム味わいたいじゃん!それに、今後いいなと思った人が居ても、法律は上限5人じゃなく最低で5人だからね。


上限は特に設けられてないし、良い出会いがあればその時にまた考えればいいんだ!



なんて前世基準で考えたらゲスもいいとこだけど、この世界では喜ばれるしな。


男が少ないためちょっとしたことでも男性が女性になにかしてあげれば喜んでもらえる世界なんだ。


だから、俺がこの世界に生まれ変わった幸運を少しでも、みんなに分けれる存在になれればいいな。


希少な男だぞ!とか驕らずに少しでもこの世界の女性たちに幸せを感じてもらえればと思う。WIN-WINの関係を目指す。



トーストを齧りながら色々考えてしまっていたが、食べ終わった拍子にチラとテレビ上の壁に設置してある時計を見るとそろそろ準備をしなければならなかったので、のそのそとパジャマから制服に着替える。


その後、洗面所にも寄り、髪型をあまり決め過ぎずナチュラルを意識しセットを完了させ玄関に向かい、懐かしくも新鮮な新品のローファーを履き家を後にする。




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「おはよう達也!」



家を出て数分。通学途中に会ったはじける笑顔で挨拶してくるこの子は紗耶。


幼少期に出会い、ずっと交流のある数少ない女友達だ。


学校が別々になったあとも、疎遠にならずゲームとか遊びに行ったりと色々付き合ってくれてる少し抜けたところもある可愛い子。


髪型はふんわりしている茶髪が特徴だ。長さは肩に少しかかるぐらい。


体型は少しだけぽっちゃりしてるかなぐらいで俺的にはちょうどいい肉付きだと感じるレベルだ。


制服を押し上げているバストはたぶんDとかEぐらいはあるんじゃないかと思われる。身長は百六十ぐらいだろうか。


話す時に毎回上目遣いになっていて、ドキっとさせられる。


昔から知っている贔屓目もあるだろうが、外見だけでも、この子は優しいだろうなあと感じさせられる雰囲気を持つ子だ。




また同じ学校に通えることを知った時に、俺から一緒に登校しようと誘っていた。



「おはよう紗耶。それにしても、また一緒の学校に通えるとは思ってなかったよ。」


「ほんとにね~。絶対達也と同じ学校行くんだ!って私は勉強頑張っててよかったよ~」


「日本一の進学校だもんなぁ。大変だったよな…」


「大変に決まってるよ~!ちっちゃい時からずっと頑張ってたんだからね!」



いつも通りの上目遣いながらも、若干責めるような目付きで言う沙耶。


国が選別して振り分けられる高校に関しては、当然ながら、どこの高校に俺が入学するかも幼少期にはわからない。


それなのに、幼少期から俺がどこの高校に入学してもいいように頑張ってきた沙耶の気持ちを思うと


「並大抵の努力じゃないな。ありがとう。」


つい、目の前にあるふわふわな茶髪を撫でてしまった。


すると途端に責めるような目付きから一転、恥ずかしそうに目を細めて頬にも赤みが増した。


「ううん。もう報われたかも」


いくらなんでもチョロすぎるぞ沙耶…。


数年、数十年の努力を頭を撫でるだけでここまでの反応とは。


でも、喜んでくれるのは嬉しいな。


照れながらも、こちらに好意を向けてくれているのをひしひしと感じる。かわいい。



「かわいい。」


「へぁ!?」


「ははっ、なんて声出してんだよ。」


「だ、だって!急にかわいいなんて言うから…」



後半は尻すぼみにボソボソと照れながら沙耶が言う。


驚いた顔もかわいいななんて思いながらも、頭の中は落ち着かず思考してしまう。



うーん、道端ではあるが立ち止まっちゃってるし、他にタイミングもわからない。


ズルズルとあとに延びちゃいそうだしここでいいか。



「沙耶。俺と結婚。いや、まだ先か。婚約者になってくれないか?」



これから、学校生活もとい、婚活が始まるんだ。


沙耶以外と仲良くなって沙耶をヤキモキさせるのも悪いと思ってずっと思い考えていたことを口にした。


もっと気の利いた、一生傍に~とか色々考えはしたが、結局結果的にシンプルイズベストになっちゃった。


まあ、このセリフも頭撫でまわしながらで、ロマンチックさの欠片もないが上手く言えない俺のことをよく知ってくれているであろう沙耶にだからこそ出来ることだと、何より気を許していることだとして、後々なにか言われたら、これで乗り切ろう。いや、許してもらおう。



「!! はい。喜んで!」



手を頭で押しのけ目前に迫った涙目の赤い顔に驚きながらも、俺はそっと沙耶を抱きしめた---------いや、そっとじゃないかも。結構な勢いがついちゃったかもしれん。


心底ホッとした。ここまで親しくしてて好意もある沙耶に断られてたら立ち直る頃には卒業してそうだったからな…。


そしたら、強制三人とのお見合いゴール決めるとこだったぜ。


入学式の今日に言おうと決めてたので指輪の用意もしててよかった。



「沙耶、左手だして」


声掛けしつつ、沙耶の左手をとる。


「あ、うん。」


抱きしめていたので、ちょっと残念そう?名残惜しそう?に返事をしつつ離れてくれた。

制服であるブレザーのポケットから、綺麗な箱を取り出して開け指輪を取り出す。

高校生では買えないような、見るからに高そうな指輪を出し沙耶の左手薬指に嵌めてあげる。

突っかからずちゃんと嵌めれてまたもや一安心。サイズ合ってるかちょっと不安だったんだよね。



その後は、嬉し泣きしている沙耶をまた抱きしめて落ち着くのを待った。


早めに出たつもりだったんだが、結構な時間がたっていて入学早々遅刻ギリギリになってしまったので、若干焦りながら少し急ぎめに学校に向かった。


いつから一緒に暮らそうかとか話そうと思ってたんだけど、そんな時間なかったな…。


帰りにでも聞けばいいし、これからは今まで以上に一緒に居れるんだ。



学校に向かう沙耶の様子はというと、腕に抱きつきながら恥ずかしそうに、それでいて左手薬指を嬉しそうに眺めていた。俺も嬉しいよ。





ちなみに、指輪は決まっているものがあり、申請すれば自宅に届くというここでも男はイージーモードもとい甘やかしモードになっている。


指輪の種類もランク毎にしっかり決まっており、このようになっている。


Aランクは、ピンクダイヤモンド。

Bランクは、ダイヤモンド。

Cランクは、ゴールド。

Dランクは、シルバー。


金属アレルギーの人用に、おもちゃみたいだけどプラスチック製のもある。


指を見れば、パッと見てわかるこの制度には個人的には思うところはあるが、憧れや目標としての側面が大きいのか大して問題視されてもないようだが。



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