第7話 最前線拠点②
「……む……無理です」
「え?」
こんな、女性特有の話が平然と行われている場所に。
というか、それ以前に……!
「無理です!皆さんと同じお風呂に入るなんて、僕、そんなの、恥ずかしいです……!」
想像しただけでも恥ずかしくて、顔が熱くなってきた。
でも、皆さんのような綺麗な人たちと一緒にお風呂に入る。
なんてことを言われたら、こうなってしまうのも至極当然だ。
「可愛────じゃなくて!えっと……最初は恥ずかしいかもしれないけど、この拠点の装飾と一緒でいつかは慣れるから大丈夫だよ!」
「そ、装飾とお風呂は全然違います!」
百歩譲って、長い間生活していればこのラグジュアリーな感じの装飾は、背景として溶け込んで慣れていく日もかろうじて想像することはできる。
けど、皆さんと一緒にお風呂に入っていて、全く心を動かさないほど慣れている自分の姿。
なんていうのは、想像すらすることができない。
「それに……僕は嫌とかではなくて恥ずかしいという感じですけど、むしろ皆さんの方が僕とお風呂に入るなんて嫌なんじゃないんですか?」
皆さんは、僕のことを部隊に歓迎してくださった。
とても優しい人たちしか居ないということも、既にわかっていること。
だけど、それと一緒にお風呂に入ることができるかどうかは、また話が別のはずだ。
「他の男だったら、確かに嫌……っていうか、それを超えた何かだけど、フィンくんだったら嫌どころか過ごせる時間が増えてむしろ嬉しいよ!」
「……エレナさんがそう思ってくださっていたとしても、他の方々は────」
「みんな同じだって!なんなら、今から私が確認してきてあげる!」
「えっ!?エ、エレナさん!?」
明るく言ったエレナさんは、扉の先にある脱衣所が見えてしまうこともお構いなしに扉を開けようとしたため。
僕が、慌てて後ろにある螺旋階段の方を向くと。
扉の閉まる音がすると同時、扉の奥から声が聞こえてきた。
「あれ、エレナ先輩?どうしたんですか?」
「今、フィンくんにこのお風呂について案内してたんだけど、この拠点ってここしかお風呂ないでしょ?だからフィンくんもみんなと一緒に入ることになるって言ったら、みんなが自分と一緒にお風呂に入るなんて嫌なんじゃないかって心配してるみたいなんだよね」
「え〜!全然嫌じゃないですよ!ていうか絶対楽しいじゃないですか!」
「むしろ良いよね」
「テラウォードくんとお風呂……私、入りたい!!」
え……!?
予想外の反応に驚いていると、継いで。
「ん、今お風呂について案内してたってことは、テラウォードくん今このお風呂の前に居るんですか?」
「うん!居るよ!」
「嘘……!だったら、今からでも一緒にお風呂────」
「エ、エレナさん……!僕、一つ上の階に上がって待ってますね……!」
「えっ!?フィンくん!?」
エレナさんや皆さんには申し訳なかったけど。
今から皆さんと一緒にお風呂に入る、なんてことをできるほどの胆力を僕は持ち合わせていない。
……皆さんと、お風呂。
「っ……」
自分自身が、女性と一緒にお風呂に入ることなんて、今まで想像すらしたことがなかったため。
僕は、今まで感じたことのない感情を抱きながらも一つ上の階に上がった。
すると、そこには────
「あれ、テラウォードくん!」
「え!?テラくん!?」
「テラウォードさん!ようこそであります!」
「み、皆さん……?」
たくさん人が居て、一体何事かと思ったけど。
よく見ると、テーブルの上にはたくさんの料理が広げられており。
皆さんは、それを食している様子だった。
つまり……
「ここは、リビング……のようなところですか?」
「うん、ここでご飯食べたり、あとはトランプとか人によってはチェスしたりもするかな。ソファもあるから、たまに寝てる子とかも居るけど」
「なるほど……」
とても軍の最前線拠点とは思えないような過ごし方に聞こえるけど、なんていうか……これからそうして皆さんと一緒に楽しく過ごせると思うと、本当に嬉しいな。
「テラくんはエレナ先輩に拠点案内してもらうって話だったと思うけど、今は一人なの?エレナ先輩は?」
「エレナさんには、さっきまで……」
お風呂の場所を案内してもらっていました。
と言いかけたところで。
皆さんと一緒にお風呂に入る、ということを想像してしまったことまで思い出して、思わず顔を熱くしてしまうと。
僕は、一度そこで言葉を止めた。
「え……?」
「テラウォードくん……?」
「もしかして……」
そんな僕のことを見た皆さんが、一瞬静かになると。
その次の瞬間には、僕の近くに駆け寄って来て。
「テラウォードくん!エレナ先輩と何かしたの!?」
「もしそうなら、どんなことしたの?」
「変なこととかされなかった?大丈夫?」
「え?え、えっと……」
皆さんが騒然とし出したことに、僕が困惑していると。
僕が今登って来た階段から、今度はエレナさんが姿を見せて。
「あ!フィンくん!もう、今私が案内してあげてるんだから、一人で勝手に行ったらダメ────」
僕に駆け寄っていた皆さんは、今度はエレナさんの方に駆け寄って。
その言葉を遮ると、各々口を開いて言った。
「エレナ先輩!テラウォードくんに何したんですか!」
「え……?何って、何の話────」
「テラくんと二人きりだからって、変なことしたらダメですよ!」
「変なこと……?ごめん、本当に何の話?」
「テラウォードくんがあんなに赤くなってるのに、言い逃れなんてできませんよ」
「赤く……あ〜!違う違う!別に私が何かしたとかじゃなくて、フィンくんは恥ずかしくなっちゃってるだけ!」
「やっぱり、テラウォードくんが恥ずかしくなっちゃうようなことしてるんじゃないですか!」
皆さんがさらに一歩エレナさんに詰め寄ると、エレナさんは慌てて首を横に振りながら。
「だから違うって!フィンくんにはさっきまでお風呂の場所案内してたんだけど、お風呂は一つしかないからみんなと一緒に入ることになるよって言ったら、それが想像以上に恥ずかしかったみたいなんだよね」
「え……?」
「あ、そういうこと……?」
「……ていうか、それ……」
エレナさんの言葉を聞いた皆さんは、僕の方を向くと。
今度は、また僕の方に駆け寄って来て。
「可愛い〜!」
「本当癒し……」
「テラウォードくんくん、私たちとお風呂入ってるところ想像して恥ずかしくなっちゃったんだ〜」
「っ……!ご……ごめんなさい」
「謝ることじゃないよ!」
は……恥ずかしい。
けど、皆さんがお優しい方々ばかりで、本当に良かったな。
そのことをしみじみ感じながら、皆さんと少しの間言葉を交わしていると。
エレナさんは、両手を合わせてパンッ、という乾いた音を響かせて。
「はいはい!フィンくんにはまだ案内してあげたいところあるから、みんな今日は一旦そこまでにして!」
同時にそう声を響かせると、皆さんは僕に「またね」と声を掛けてくださってから、元居た場所へと戻って行った。
「ここがどこかは、もうみんなに聞いた?」
「はい、食事をしたりトランプをしたりするリビングだと聞きました」
「うんうん、その通り!じゃあ、このまま上の方も案内────の前に、ちょっとだけ下に戻っても良いかな?」
「はい、わかりました」
どういう理由かはわからなかったけど、エレナさんが下に戻りたいというのなら僕にそれを拒む理由は無いため。
一緒に下の階へ足を運ぶと、そこは個室フロアの中では最上階となっている階で、四枚の扉があった。
「ここは、私たち四人の部屋がある階」
私たち四人とは、エレナさんやセフィアさんを含む、このルーヴァンクルム帝国軍最高戦力の四名のことだろう。
「で、ここに来たのは、せっかくだから今日のうちにあと一人ぐらいは、フィンくんに私たち四人のうちのもう一人を紹介したいなって思ったからなの」
「っ……!」
エレナさんやセフィアさんと同じ、ルーヴァンクルム帝国軍最高戦力の四名のうちのお一方に、今から……!
「急ぎってわけじゃないから、今日じゃなくてまた明日とかの方が良いならそれでも良いけど、どうかな?」
「今日で大丈夫です!」
「そっか!じゃあ」
エレナさんが歩き出したため、僕も一体どんな人なんだろう、という思いを抱きながら、エレナさんについていく形で足を進める。
そして、エレナさんは一つの扉の前で足を止めると、その扉をノックした。
「ん〜?誰〜?」
すると、部屋の中からはどこか甘い、大人っぽい女性の声が聞こえてきて。
内側から扉が開かれると、中から出てきたのはピンク髪の女性だった。
声から受けた印象通り、顔立ちや全体の容姿もかなり大人びていて、垂れかかった前髪や艶のある唇がよく目立っている。
「あ、エレナちゃん?どうし────あぁ、私のところに男の子連れて来たってことは、情報抜き出したいってことね」
ピンク髪の女性は、僕に手をかざす。
……情報?
「待って!違────」
「魅了《チャーム》」
女性が言った瞬間、その手から僕の方に向けて魔力が発せられた。
エレナさんの声と重なって何と言っていたか聞こえなかったけど、一体何の魔法なんだろう。
「って、違ったの?」
「違う!この子はこの部隊に今日から仮入隊することになった男の子!」
「あれ、そうだったんだぁ」
「そう!っ、よりにもよってフィンくんが……早く、早く解除して!!」
焦ったように言うエレナさん。
今のところ特に体に変化は無いけど、僕はそんなに危ない魔法をかけられてしまったんだろうか。
「はいはい、わかっ────え……?」
先ほどまで、とても大人びた雰囲気で話していたピンク髪の女性。
だったけど。
僕の目を見て、なぜか困惑の声を上げる。
「どうしたんですか……?」
「っ!?」
聞き返すと、女性は驚愕したように声を上げる。
本当に、一体どうしたんだろう。
と思っていると、僕の隣に居るエレナさんも、驚いた様子で言った。
「フィンくん、もしかして────
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