【書籍化決定!!】誠実すぎる少年の追放先が、男嫌いな美少女しかいない最強部隊だったら?(旧題:厄介払いで女性だけの最前線部隊に送られた僕、男嫌いと噂の最強美少女たちに好かれすぎて夜が大変な件)

神月@『メイド王女』第二巻発売中!!

第1話 仮入隊

「────フィン・テラウォード……貴殿を、へ仮入隊とする」

「……え?」


 ルーヴァンクルム帝国軍の『実戦訓練仮入隊先任命式』の場で。

 僕は、今目の前に居る上官の男性から、予想外の入隊先を指定されていた。

 聞き間違いを疑いながらも、確認の意図を込めて。


「最前線部隊……ですか?」

「そうだ」


 どうやら、聞き間違いではないらしい。


「最前線部隊は、……仮入隊でも、これは栄誉あることだぞ?」


 最前線部隊は、この国でも最強と謳われている四人の人たちのことを指揮系統の一番上に置いて、大体五十人。

 それも、全てが女性で構成されているというかなり異質な部隊であり。

 上官も言っている通り、このルーヴァンクルム帝国軍最強の部隊であることは間違いなく、そこに名を連ねることができるというだけでもかなり栄誉あること。

 だけど。


「栄誉はありがたく思います。が、僕はまだ訓練中の身です。それなのに、あのと有名な最前線部隊というのは……」

「何を言うか、そのための実戦訓練であろう。魔法学校をした君に、後ろに多くの者が控えているこの場でそのように弱気な発言をされては困るな。確かに険しい道かもしれんが、険しい道を超えてこそ、より強くなれるというものではないかね」

「険しい道を歩むことは勇気と呼びますが、今回のお話は勇気ではなくただの無謀です。どうか、仮入隊先をご再考────」

「軍において上官の命令が絶対であることなど、基本中の基本だ!逆らうことなど許されん!」


 怒声を放った上官は、一度ため息を吐くと。

 今度は、先ほどとは違い声を抑えるようにして言う。


「君は、邪魔なのだよ」

「……僕が、邪魔、ですか?」

「君の能力は実に優秀だ。魔力、学力、体力……魔法学校を首席で卒業したというだけあって、そのどれもが大いに優れている」


 今の所、少なくとも僕が邪魔だと形容されるような部分は一つも無い。


「では、どうして僕のことを邪魔だと?」


 問いかけると、すぐにその答えが返ってきた。


「それは、君が────


 平民。

 それは、この貴族社会において、最も社会的権力が無いとされている人たちのこと。


「僕は、戦場で戦って国を守る軍人を目指しています。その目標に、生まれが関係あるんですか?」

「あるに決まっておろう。君は、訓練生の中でも一人突出した才能を持っており、このままいけばこの国でも屈指の実力者となることができるだろう……しかし、平民がそんな立場に居ては、我々貴族としては面目が立たんのだよ」

「だから、僕のことを死地に送って……若い芽は今のうちに摘んでおく、ということですか」


 僕が、上官の言葉を一言でまとめると。

 上官は、頷く代わりに歪んだ笑みを浮かべて。


「私を恨まないでくれよ?上層部での多数決の結果、そう決まったのだからな……それに、君が仮入隊する部隊は国軍最強の部隊なのだ。君の今までの対人戦を見た限りでは、敵が無数に出てくるかもしれんが、その部隊の者たちと一緒に居れば、少しは長生きできるかもしれん────最も、その部隊の者たちはと噂だがな」

「……」


 死地。

 最前線。

 多数決。

 最強部隊。

 仮入隊。

 男嫌い。


 もはや、避けることのできない死を感じながらも。

 こんな人たちが巣食っている軍の任命式の場で、これ以上何を言っても意味は無いと思ったため。

 僕は敬礼をすると、踵を返して列に戻る。

 その道中、貴族や上官の人たちから視線を感じたけど。

 僕はその視線を気にすることなく、任命式を全うした。



 数日後。

 僕は、最前線へと向かう馬車の中でジッと静かに座っていた。

 馬車の揺れる音と共に、今自分は処刑台に連れて行かれているのだろうか。

 といったような錯覚に陥る。


「……ルーヴァンクルム帝国軍最強の最前線部隊。どんな人たちなんだろう」


 何せ、普段は最前線に居るか。

 訓練生、平民の僕では行けない場所に居るため。

 僕は、その人たちについてほとんど情報を知らない。

 知っていることと言えば、この国で一番強い人たちだということと。

 全員女性だということぐらいだ。

 あと、この間上官から聞いた男嫌いというもの……


「……男嫌い、か」


 男嫌いなら、まず間違いなく男である僕は冷遇されるだろう。

 となると、仮に僕が危機に陥ったとしても、わざわざ労力を割いてまで助けてはもらえないと考えるべきだ。

 あと、もしかしたら命まで奪ってしまうかもしれないからと、ずっとをしていた僕の戦いを見ての発言だけど────


「貴殿の今までの対人戦を見た限りでは、敵が無数に出てくる最前線で生き残るのは難しいかもしれんが」


 上官もああ言っていた通り。

 僕の力がどの程度最前線で通用するかはわからないけど、まだ訓練中の身である僕が本気を出したとしても、敵国の人に太刀打ちできるかどうかすらわからない。

 つまり────


「誰よりも強くなって、この国を守る……そんな、漠然としてるけど、この15年間とても大切にしてきた僕の夢も。ここで、終わりってことか……」


 それなら、せめて。

 これから行く先で、どれだけ邪険に扱われるのか想像もできないけど。

 少なくとも書面上は、この国最強の部隊に仮でも入隊して命を落とせることを、誇りに思うとしよう。

 そう覚悟を決めたところで、ちょうど馬車が最前線手前で停車した。

 ここから少し走ったところで、最前線部隊の拠点があるということらしい。


「……行くか」


 馬車から降りると、そのまま最前線部隊の拠点があるという場所に向かう。

 そのまま、僕が人生であと何度感じられるかわからない、風を切った感覚を味わっていると。

 あっという間に、最前線の拠点らしき塔のような建物がある場所の前に到着した。

 すると────


「ん?」


 そこに居た明るい赤の髪をした女の人が、僕の気配に気がついたらしく振り向く。

 その人は、軍の制服の中でもミニスカートタイプのものを着ているみたいだ。


「どうしたの?君、もしかして迷子とか?」


 言いながら、赤髪の女性は優しい表情で僕に近づいてくる。

 僕と同じ軍の服を着ていて、この場所に居ることからも間違いない。

 この人は、ルーヴァンクルム帝国軍最強の最前線部隊のお一人だ。


「でも、ここ迷子で来るような場所じゃ無いと思うんだけどな〜」

「……」


 まさか、こんなに可憐な人。

 それも、死地の最前線でずっと戦っている人たちだから、もっと厳格な雰囲気なのかな。

 なんて思っていたけど。

 この人はそんな予想とは反対も反対で、とても明るい雰囲気の人だったため。

 少し言葉を失って、相手が軽い口調だったから思わず口調を緩めてしまいそうだったけど。

 軍務中ということもあって、気を引き締め直して。


「迷子ではありません。伝達が届いているかはわかりませんが、本日からこの最前線部隊に仮入隊となった、訓練生のフィン・テラウォードです」

「え……?確かに、今日から訓練生の仮入隊の子が来るって話は聞いてたけど……それが……君?」

「はい」


 頷いて返事をすると、赤髪の女性は驚愕したように目を見開く。

 さっきまでは迷子だと思って、優しく接してくれていたけど。

 男嫌いのこの人にとって、男の僕が仮でも入隊してくるとなれば、色々と事情も変わってくるだろう。


 きっと、今頃頭の中では、僕に対する拒絶反応や嫌悪感でいっぱいになって、今にも罵声を浴びせたいと思っているはずだ。

 でも、僕はそのぐらいのことは覚悟でこの場所にきている。

 ここに来る馬車の中でも、覚悟を決め直していたことを思い出していると。

 目の前の女性は、聞き取るのが難しいほど高い声、かつ早口で言った。


「あの話って男の子だったんだ……!それも、超美少年……!最前線なんて全く出会い無いし、会うことがあっても軍の堅物とか下心丸出しの奴しか居ないから出会いなんて諦めてたのに……!ていうか、嘘!え!?今日からこの子と一緒に生活できるの!?本当に!?」

「あ……あの、どうし────」


 突然様子がおかしくなったため、様子をうかがおうとした。

 その時。


「っ……!」


 僕は、目の前の女性の胸元にある勲章くんしょうを見て、思わず言葉を止める。

 さっきは、距離があったり会話に集中していたりでちゃんと見れてなかったけど。

 この勲章は、この世に四つしかないルーヴァンクルム帝国であることを示すルーヴァンクルム勲章。

 つまり、この人はこのルーヴァンクルム帝国軍最強の最前線部隊のお一人……どころか。

 その中でも、その最前線部隊の中核を成す四人のうちのお一方で────この国でも最も強い力を持っている人物のお一方でもあるということだ。


「……ねぇ」


 目の前に居る赤髪の女性の認識を改めていると。

 なぜか、その女性が頬を赤く染めて話しかけてくる。


「っ?はい、どうしましたか?」


 僕が少し緊張しながらも返事をすると、女性はどこか甘い声色で。


「さっきからずっと私のおっぱい見てるけど、フィンくんも男の子だし……やっぱり────おっぱいとか、好きだったりするの?」



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