第14話 旧友との再会
――数日後。
慌ただしく準備を整えた俺とフローラは、彼女の故郷を目指して旅立った。地図や物資の提供を惜しまなかったシェリルのおかげで装備は万全だが、道中は決して穏やかではない。
フローラの領地はここから数日の距離。馬車が通る街道を進んでも、後半は山岳地帯や濃い森林を越えねばならず、魔物の出現が多いと噂されている。彼女の父や旧友のファルナがどれほど苦戦しているのか、それを思えば足取りも自然に速まった。
二日目の昼下がり、薄暗い林道を通る最中、フローラが立ち止まって地面を凝視した。
そこには獣のような足跡がいくつも重なり、爪痕も深く刻まれている。普通の狼より倍は大きい。
「……こんな痕跡があちこちにあるなんて。やっぱり、魔物の活動が活発化してるのかも」
「だろうな。しかも足跡が新しい。気を抜くと襲われかねない」
俺は腰に手をやりながら辺りを見回す。風で揺れる木々の奥から、小さな視線を感じる気がするが、今のところ気配は遠い。
フローラは唇を引き結び、「父が必死で軍備を整えても足りないわけですね」と呟いた。領内はさらに深刻なのだろう。その思いが伝わり、俺は剣の柄に自然と力がこもる。
夕刻近く、道すがら見つけた小さな集落の跡地は、まるで荒れ果てた廃村のようになっていた。
壊れた家々と倒れた柵、焼けたような痕跡まであり、住民たちが逃げ出した後が痛々しい。
「……ここ、父と一度訪れたことがあるんです。昔は人が住んでいたのに……」
「やっぱり魔物絡みか……こんな光景を見ちゃうと、父上が借金までして軍備を固めたのもわかるな」
フローラは静かに目を伏せる。悔しそうな気配をにじませながら、俺の方を振り返った。
彼女の瞳には焦りが宿っている。もしこの惨状が広がっていれば、父の苦労は計り知れないだろう。
俺は剣先をそっと撫でながら胸の内で決意を固める。ガルドンを倒したときに見せた進化が、今こそ役に立つはずだ。
その予感はすぐに現実となる。荒れ果てた集落を離れ、山道に差しかかったとき――獰猛な唸り声が響き、突如として巨大な狼型の魔物が茂みから飛び出してきた。
赤い瞳を光らせ、二匹、三匹……続々と姿を現し、こちらを囲むように襲撃してくる。
「フローラ、下がれ!」
「はい!」
俺は素早く剣を抜き放つ。この数か月でさらに進化を感じる相棒は、刃先にごく淡い光を宿している。
一匹が鋭い爪を振りかざして飛びかかるところを狙い、斬り込む。まるでバターを切るかのような感覚で、骨や筋を断ち切った手応えが走る。
「すごい……!」
フローラが息を呑む声が聞こえる。俺自身も驚くほどの切れ味だ。次の魔物が突進してきても、刃を振りかざすだけで圧倒できる。
「こちらも任せてください!」
フローラは訓練の成果を見せるように剣を構え、巧みに魔物の横をすり抜けて一撃を入れる。二人がかりの連携で、数匹の狼型魔物はあっという間に息絶え、残りは怯えたように逃げ去った。
ひと息ついたのも束の間、遠くから一団が駆け寄ってきた。先頭に立つローブ姿の女性が、フローラの姿を見つけると声を上げる。
「フローラ! 無事でよかった……!」
「ファルナ……!」
彼女こそ、フローラの旧友であり、この領地を救うために呼び寄せられた魔術師・ファルナだ。フローラとは幼い頃からの縁があり、今回の緊急手紙を送った本人でもある。
ファルナはフローラの元へ駆け寄り、思わず抱き合うように安堵の息を漏らしたあと、俺にも視線を向ける。
「あなたがレイね? フローラからの手紙で聞いていたわ。父上を救いたい気持ち、私も同じよ。ありがとう、こんな危険な道を越えて……」
「おかげで無事ここまで来られました。ファルナこそ大丈夫? 領地は……」
「正直、大変よ。魔物被害がさらに広がって、借金の返済も迫っているし……。落ち着いて話したいから、とにかく領主様の館へ急ぎましょう」
ファルナはローブを翻して合図し、周囲の仲間たちと合流する。彼女の表情には疲れがにじんでいるものの、旧友との再会に僅かな希望を見出しているようにも見える。
こうして俺たちはファルナの案内で、フローラの父のいる館へ向かうことになった。
道中、彼女が話すには、すでに兵士も資金も底をつきかけ、領地は風前の灯火だという。父は休む間もなく討伐隊の指揮を取り、ファルナは魔術的調査や指揮系統の補佐に回っているが、どちらも限界が近い。
「でも、フローラが戻れば、おじ様も少しは気力を取り戻すと思う。あなたの剣があれば、魔物の被害も軽減できるはずよ」
ファルナが強い期待を込めた口調で言い、フローラは心を決めたように頷く。
「ええ……私も、父のために力になりたい。レイさんも一緒だし、何とかなるよ」
「俺も全力を尽くす。この剣があるから、魔物だろうと借金だろうと、何とか突破口を見つけよう」
進化した剣に手をかけると、かすかな熱量が伝わり、決意を後押ししてくれる気がした。
険しい道のりを越え、夕刻には館へ到着できるだろう。
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