第15話 また会おう
ブラッドがトロールの群れのボスになり、洞窟で一晩暮らして次の日。
外に出ると森は薄暗く、空は灰色で、パラパラと雨が降っていた。
「……いい天気だ」
雨は嫌いじゃない。むしろ好き。
うにょ~ん、とネコらしく伸びをし、雨に打たれながら毛づくろい。
そうしていると、ブラッドが洞窟から出て来た。
「おはよう。早いなクレイ」
「おはよう。昨日は泊まることが目的だったから聞かなかったけど、これからどうするの?」
「当然、この森を離れるさ」
「手下にしたトロールたちは?」
「誰が一番強いか競わせてそいつをボスにさせる。移動はその後だ」
「りょーかい。ここ崖下だけど、どこ向かうの?」
「……その時決める」
「そう」
俺もブラッドも黙り、雨の音しかしない静かな時間が流れる。
暇だがこういう時間も嫌いではない。
「んじゃ、ちょっくら他の奴ら起こして来るわ。クレイは周りを探索してくれ。可能なら何体か魔物を狩って、食料の確保を頼む」
「あいよー」
指示されたので俺は動き、森の中の探索を開始した。
進化したからか前より動きはさらに
――見つけた。
視界の悪い森の中、少し離れた位置に動く魔物が見えた。
立派な角を生やしたシカの魔物だ。それも十数の群れで動いている。
静かに素早く接近するが、流石にこの紫の体色では目立って気付かれた。
一斉に逃げ出すが、遅い。
【ドランクブレス】!
充分に接近したところで酒気を帯びた煙を吐き出し、一網打尽に眠らせる。
「よし。これで食料は確保できた」
あとはブラッド経由でトロールたちに運ばせればいい。
でもその前に、シカ肉ってどんな味か気になる。
ちょっとだけ食べて――ん?
つまみ食いしようと思ったら、何かが走って来る足音がかすかに聞こえた。振り向けばマントを羽織った人間がかなりの速さでこっちに来ていた。
長く綺麗な金髪をポニーテールにしており、エメラルドのような緑の瞳、長く尖った耳を持つ美人な若い女性だ。
マントがずれて見えた服は、ブラウスとスカートの上からレザーアーマーを着ていて、足は膝まで覆うロングブーツ。
左腰にはしっかり意匠の施された細剣が白い鞘に納められており、今、それが引き抜かれた。
エルフか? ――うわっ!
エルフだと思われる彼女が剣を振るえば、薄緑の細い衝撃波のような物が高速で飛んできた。ギリギリで回避して当たった木を見れば、深い切り傷ができていた。
飛ぶ斬撃かよ!
また剣が振るわれる。今度は連続。
まだ距離があるからなんとか避けられた。
これ以上近づかれるのは危険だ!
【ドランクブレス】!
酒気を帯びた煙を吐くが、彼女は止まらず左手を前に出した。
「《ウィンドストーム》」
手から薄緑の竜巻が出て煙を吸い込みながらこっちに飛んで来たので回避。
避けた先の木を見れば、直撃した箇所が削れるように抉れていて、ゆっくりと倒れ始めた。
すんごい威力! 今のは魔法かな?
そんなことより、これはどうだ! 【狂気の瞳】!
――あれ?
スキルを発動してジッと見つめるが、彼女に変化が現れない。
ダメだ効いてない。
勝機がないのでさっさと逃げる。
「待て新種!」
「誰が待つかばーか」
「っ! やっぱり人間を食べてる。逃がさない!」
斬撃が沢山飛んでくるが、遮蔽の多い森の中なので当たることはない。
……引き離せない?
彼女がずっと追い掛けて来ているが、速度が拮抗しているのか付かず離れずのままだ。
体力勝負か?
それとも単純に速さが同じ?
或いは……他の脅威があることを想定して、同時に倒そうと泳がせている?
…………どちらにせよ、俺が生き残るなら合流しか手はないか。
命懸けの追い掛けっこをして洞窟に到着。
入り口前にはブラッドとマッスル、生き残ったトロールたちがいた。ブラッドが手本となって、何故かラジオ体操をしているが。
でも、そんなの気にせず報告。
「ぶらっどー、まっするー。冒険者の襲撃だよー!」
「なにっ!? 早いな」
「俺がやりましょうか?」
「いや待て。クレイ、そいつは強いのか?」
「かなり強い。あと、もう来るよ」
言ったところで彼女がやって来た。俺たちを
軽快に素早く、心臓を突き刺し首を切断し、トロールの再生能力を発揮させずに殺していく。トロールたちはまるで対応できていない。
俺もブラッドもマッスルも動かない。いや動けない。彼女の身のこなしが上手すぎて、舞うような美しさすら感じられて、勝てる気がしないからだ。
ほんの少しの時間でトロールたちが全滅し、息一つ乱していない彼女がこっちに向いた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
どうする?
とブラッドを見れば、代表するかのように一歩前に出た。
「ああ、いいぜ」
「この森に二組の冒険者パーティーが入ったはずなんだけど、知らない?」
「知ってる。俺たちがやった」
にわかに彼女の目つきが鋭くなる。
「……そう。嫌な予感がすると思って急いで来てみたんだけど、遅かったか」
まるで落ち着こうとするかのように深呼吸し、剣を構えた。
――来るか。
「……答えてくれてありがとう。そして死ね」
動いた――って、速っ!?
予想以上の速さで接近し、ブラッドが【ブラッドオーラ】を発動して立ち塞がるように動いたが、間に合わずに通り抜けて俺に斬り掛かって来た。ネコとしての反射神経でなんとか避け、続けざまに振られて飛んでくる斬撃も柔軟性を活かして回避する。
「っ、ならこれで――」
「うおおおおおおおっ!」
彼女は俺に左手を向けたが、マッスルが叫びながら突進して回避行動を取らせた。さらにブラッドが濡れた土を掴んで力強く投げ、彼女はマントで顔と体を守りながら下がった。
「お前の相手は俺だぁっ!」
ブラッドが声を張り、土を掴んでは投げて、土を掴んでは投げてと繰り返す。勢いのある土の散弾に彼女は下がりに下がって木の後ろに隠れた。
「マッスル! クレイ! お前らは逃げろッ!」
「ブラッドさん!?」
「ブラッド……」
いいの? 死ぬよ?
マッスルも俺も突然のことで立ち尽くしていると、彼女が隠れている木が抉れて竜巻がブラッドを襲い、避け損ねて
「――ぐっ、これくらい!!」
多量の出血により、【ブラッドオーラ】の効果で赤いオーラが一気に増幅して強くなったブラッドは、土を投げることを続行した。その威力は草を引き裂き木の皮を割るほどであり、彼女は別の木に隠れた。
「ブラッドさん!」
「俺のことは心配するな! さっさと行けぇ!」
……うん、わかった。
君の献身に甘えよう。
「マッスル、どうやらここでお別れみたいだね。私たちは別々の方角に逃げて、生き延びる必要がある」
「でも!」
「大丈夫。ブラッドは強い。どうせ死亡フラグ立てても生き残るよ」
そーいうわけだから、別れの挨拶をしておこう。
「ブラッド、別に倒してしまってもいいから、また会おう」
「……勝った時の話、聞かせてください!」
「お前らなぁ! さっさと行けよ!」
怒られた。
でもまぁ、湿っぽくなくていい。
「じゃあ、また会おう」
「はい、また会いましょう!」
マッスルと反対の方向へ走り出す。振り返りはしない。
徐々に戦いの音が聞こえなくなり、雨が木の葉に当たる音しか聞こえなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます