第13話 また進化する



 レッドボアが仲間になった俺たちは自己紹介を済ませ、準備をしてから拠点を離れて移動を始めた。

 先頭は俺。少し先を歩いては止まって振り返り、二人――いや二体が付いて来ていることを確認している。

 ブラッドはクマの毛皮を風呂敷代わりにして荷物を纏め、冒険者のポーチに入っていたロープでこん棒に括りつけ、担いで歩いてくれている。

 レッドボアは周囲の警戒。正直、あんまり当てにしていない。





 他の魔物に襲われるといったこともなく移動が続き、木々の生えていない開けた場所が見えた。


 うわっ、くっさ!


 腐った野菜と下水を合わせたような臭いが前方から漂って来る。

 警戒しつつ手前まで近づいて見れば、そこは紫色の毒っぽい煙が瘴気しょうきのように滞留し、広範囲の草木が枯れ果ててぐずぐずに崩れ、水が濁りきってドロドロになっていた。


 なんだここ!?

 毒沼? んー? よく見ればなんかいるな。

 ジーーー…………あぁ、カエルだ。多いな。


 三メートルはあろうかという巨大なカエルの魔物が、毒沼に数十匹ほどいた。すぐにわからなかったのは、顔だけ水面から出して至り、体の色や模様を変えて、周囲に溶け込むように擬態して動かなかったからだ。


 ……これは、下手に手を出したら全部と戦う羽目になるな。

 静かに迂回しよう。


「ドラさんドラさん、何か見つけました?」


 えっ!


 振り返ればレッドボアがすぐ近くにいた。


 ちょっとちょっと、声大きいって!


 言いたいことを飲み込み、ネコの手でしーっとジェスチャー。


「あっ、すいません」


 だから声大きい!


 嫌な予感がして前を向けば、近くのカエルたちが首を動かしてこっちを向いていた。


 ……気付かれていない? セーフかな?


 と思ったら、カエルたちがぴょんぴょんジャンプして接近して来た。


 やっぱりダメだった!!


「レッド、逃げろ!」


「は、はい!」


 俺とレッドボアはダッシュで逃げる。

 すぐにブラッドのところまで来た。


「ブラッド、頼んだ!」


「おう。何が相手――うおわっ!!」


 俺たちを追っている存在に気付いたブラッドが一緒に逃げだした。

 ちらっと振り返れば、数十体の巨大カエルが追って来ている。


「ブラッド、なんで戦わないの?」


「あんなでかいカエルなんか相手にしたくねぇよ。ヌルヌルしてそうだし、毒も持ってそうだし。つーか多すぎるんだよっ!!」


「レッドは? 戦える?」


「遠慮します! なんか丸呑みされそうなんで!」


 わかる。

 俺も戦ったら丸呑みされそうだし。

 でも、逃げ続けるだけなのは面白くない。


 【ドランクブレス】!


 一瞬立ち止まって酒気を帯びた煙を吐き出すが、カエルたちは煙に触れても意に介さず近づき、口を開けて舌を高速で伸ばして来た。


「あぶねっ」


 ギリギリで回避し、俺は再び逃げた。


 効いてないし、これ無理だ。


 諦めて逃げることに専念する。


 ――あっ!


 森の中を逃げ続けていると、冒険者とばったり鉢合わせした。

 数は三人。


 剣と盾を装備し、皮鎧を着た少年。


 トンガリ帽子にマントを羽織り、木の杖を装備した魔法使いの少女。


 へそ出し短パンで短剣を装備したシーフっぽい少女。


 彼らは既に武器を構えていた。


「うわっ、なんだこれ!?」


「こんなの対処できないって!」


「口じゃなくて足動かして!」


 三人は背中を向けて逃げた。俺たちと同じ方向に。

 

 ……これは使える。


 俺はレッドボアの傍に寄った。


「レッド、ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」


「はい、なんです?」


「あの三人、転倒させて囮にできない?」


「……ドラさん、いい考えですね!」


 いやこれくらい普通でしょ。


「できる? できない?」


「できます。つーわけで行って来ます!」


 レッドボアは速度を上げ、逃げている三人を後ろから突進した。

 最後尾の魔法使いの少女、続いて剣士の少年、最後にシーフの少女と倒れた。

 追い抜いて振り返れば、魔法使いの少女が舌に絡め捕られて丸呑みにされ、剣士の少年とシーフの少女が戦い始めた。

 だが、すぐにカエルたちに囲まれて見えなくなった。


 ……お? 追って来なくなった。


「ブラッド、レッド、もう大丈夫そう」


「はぁ、ようやく休める」


「やりましたねドラさん!」


「うん。それよりアレ見て」


 ネコの手で指さした先――カエルの集団がぞろぞろと戻り、その場には一体の死んだカエルが残されていた。


「……死んでるな」


「死んでますね」


「ちょっと食べてみたいのと、もしかしたら人間が一人胃袋にいるかも」


「ああ、そうか……なら解体してみるか。食べるのは遠慮するが」


「俺も食べるのはパスします」


 カエルたちがまだいないかと警戒しながら死体に近づき、ブラッドが石のナイフを取り出して解体を始めた。

 俺はクマの解体で見飽きたが、レッドは興味津々な様子。


「うわ、やっぱりヌルヌルしてる。それに臭い」


「ブラッドさん、毒はどうです?」


「……ちょっと手がヒリヒリしてきたな」


「毒ですよね、それ」


「これくらいなら大丈夫だろ、多分」


 毒か……舐めたら美味しいかな?


 ちょっと興味が湧いたので、邪魔にならない位置でぺろっとヌルヌルを舐めてみた。


 おえっ、腐った魚みたいな味だ。吐きそう。

 ……そういえば、毒は効いてないな。おえっ。

 口直しに――あのキノコでも食べよう。


 その辺に生えていたシイタケっぽいキノコをぱくり。


 おっ、杏仁豆腐みたいな風味。

 ドクターピッカー……飲みたくなってきた。


 癖になる不思議な味の清涼飲料水に思いを馳せつつ、座って解体が終わるのを待っていると、カエルの胃袋から魔法使いの少女が取り出された。


「た、助かっ――」


 魔法使いの少女が言葉を発したが、ブラッドが頭を掴んでぐりっと回して黙らせた。


「はえー、人って丸呑みされても生きてるんですね」


「胃の中に空気があれば、そりゃ暫くは生きるだろ。――で、ドラ。カエルを本当に食べるのか?」


「うん。肉は美味しいかもしれないし」


 というわけで、いただきます。


 ガブリ。


 ふむふむ……臭いけど、味自体は淡白で鶏肉っぽい食感だ。臭みさえ取れれば食用にはなるかも。


「意外とイケる。二人も食べてみたら?」


 勧めたら、なんかブラッドとレッドが顔を見合わせた。


「レッド、先に食え」


「いえいえ、こういうのは強かったり偉い人がまず食べるべきです」


「……なら、一緒に食うぞ」


「……はい」


 妥協した二人は同時にカエルの肉を口に入れた。

 次の瞬間には吐き出した。


「うおぇっ、なんだこれ!?」


「うえー、口の中がヒリヒリする!」


 えっ、ヒリヒリ?


「まさか肉にも毒が入ってた?」


「ぺっぺっ――そうっぽい。ドラお前、毒耐性持ってるだろ。だから気付かなかったんだ」


「うえー、まだヒリヒリする」


「口直しするぞ」


 あっ、俺も食べよう。


 二人が魔法使いの少女を食べようとしたので、一緒にガブリと食べた。


 ピコン。


 〈レベルが上がりました〉


 〈規定レベル以上にて、進化条件を満たしたのを確認しました〉


 〈進化を開始します〉


 ……進化早くね?

 なんかレッドも同時に進化してるし。



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