第7話 進化する



 トロールとの取引で共生することになって翌日。

 俺たちは予定通り川を伝って森の奥まで歩いていた。

 周りは太い木々が多く、苔が生え、地面の枯れ葉は湿り気を帯びている。


「ここらでいいか」


 そう言ってトロールが立ち止まった場所は、細くなった川の傍。いい感じに平らで広い空間があり、近くに黄色いキウイの低木が生えている。


「いいね。空気が美味い」


「俺は拠点を作るから、その間に周辺の探索を頼む」


「りょーかい」


 トロールの肩から降りて、探索に出掛ける。


 ――あっ。


 早速、魔物と遭遇してしまった。それもばったりと。

 子供のような小さな体躯に緑色の肌、醜い顔の人型の魔物――どう考えてもゴブリンだ。腰に布を巻いており、右手には粗末な石の槍が握られている。


 こいつは斥候か?

 俺たちのことを見に来たのなら、やっておいた方がいいのか?

 ――おっと。


 ゴブリンが動き出し、槍を俺に向けて振るってきた。


 お?

 前より体の動きが良くなってるかも。

 レベルが上がった影響か?

 まぁ、どちらにせよ、やらないとやられる。


 軽々と避けつつ倒すことに決め、隙をうかがう。

 ゴブリンは何度も槍を振るったのか疲れ始めた。俺が木を背にして止まると渾身の突きを放ってきたが、見てからひょいっと余裕の回避をして近づき、俺の間合いになる。


 【ネコパンチ】!


 醜い顔にクリーンヒット。

 前より威力が上がっている為かゴブリンは人間に殴られたかのように数歩後ずさった。殴られた頬には痛々しい引っかき傷がある。


 ――行ける!


 勝てると踏んだ俺は追撃に移る。


 【ネコパンチ】!


 槍を叩き落とす。

 これで脅威はかなり下がった。


 【ネコパンチ】!  【ネコパンチ】!  【ネコパンチ】!


 連続してゴブリンを殴る。威力があるからゴブリンは怯みまくって動けない。


 【ネコパンチ】!  【ネコパンチ】!  【ネコパンチ】!


 ゴブリンの顔が血まみれになり、木の根につまずいて仰向けに倒れた。

 ここぞとばかりに俺は体の上に乗ると、その首にガブリと噛みついた。

 強く強く噛んで確実に太い脈を傷つけて血を噴き出させたところで、反撃されないように一旦離れる。

 痛みに悲鳴をあげたゴブリンは首を片手で押さえて逃げようとするが、気が動転して立ち上がるのにもたつき、背を向けて逃げようとしたが足をもつれさせて倒れた。

 なおも逃げようとするゴブリンだが、出血多量の為か動きは次第に緩慢になり、数メートルほど地面をって移動したところで力尽きて死んだ。


 よしよし。

 では早速、いただきます!


 ガブリ。


「おえー」


 なにこれ!?

 表現のしようのない不味さだ。おえー。

 今すぐに口直ししたい。

 戻ろう。


 俺は来た道を引き返し、拠点予定の広場へ戻った。

 そこでは大きな物音がしており、トロールが細い木を見つけては叩いて折って一カ所に集めていた。


「おうキャット。もう戻って来たのか?」


「うん、ちょっとゴブリンとばったり出くわして倒したんだけど、食べたらめちゃくちゃ不味かった。だから口直しに水を飲みに戻った」


「ハハ、不味かったか。けどまぁ笑ってはいられないな」


「というと?」


「ゴブリンが一体だけということはないだろう。近くに巣があるはずだ」


「まぁそうだね」


「俺は大丈夫かもしれないが、お前は食料としてさらわれるかもしれないから気を付けろよ」


「大丈夫。寝る時はトロールの傍だから」


「……まぁいい。ゴブリンに周辺をうろちょろされると鬱陶うっとうしいから、いずれ巣は潰す。だから巣を見つけておいてくれ」


「あいよ。その前に水飲ませて」


 拠点から川へ移動し、ペロペロ水を飲む。


 ふぅ。

 口の中スッキリ!

 ではもう一度探索に――ん?


 川を挟んでなんかいた。

 こっちをジッと見つめているのはカメレオンみたいな魔物。オオトカゲ並みに大きいが、その場と非常に似た色や模様になっていて、輪郭りんかくが認識しづらい。けれど目だけははっきりと黄色く見えていて、目立っていた。


 じーーー…………ファッ!?

 こっち来たぁっ!?


 見つめ返していたら、カメレオンは急に動き出し、川の上を二足歩行で走って接近し始めた。


 恐いというかキモいっ!

 やらなきゃ!!


 数歩下がってしまったが逃げずに留まり、「シャー!」と威嚇しながら身構えた。

 カメレオンが口を開けると、紫色の煙を俺に向かって撒き散らした。


 っ、毒か!?


 あからさま色合いに急いで下がると、その中をカメレオンは通ってすぐ近くまで来た。

 喉が膨らんでいるのが見えた。カメレオンは再び口を開き、紫色の粘液を飛ばした。


 今度は毒液!?


 回避し、粘液が付着した箇所を見れば白い煙を発していた。


 うわぁ、絶対に触ったらヤバイ奴だ。


 カメレオンの目がギョロギョロ動き、俺の方に向き直るとまた突っ込んで来て毒の煙を吐いた。


 これはマズいな。

 長期戦になると周りが毒だらけになって立ち行かなくなる。

 逃げるのもダメだ。トロールを巻き込んでしまう。

 であるならば……短期決戦だ!


 近くに来て毒液が吐かれ、俺は斜め前に回避し間合いに入った。


 今だ! 【ネコパンチ】!


 大きな目に向かって攻撃し、片目を潰す。

 痛みに暴れ出したカメレオンの動きを読み、すぐさまもう片方の目に向かって攻撃。


 【ネコパンチ】!


 よし。これで両目を潰せた。

 ――が、やべー!


 両目が潰れたカメレオンは毒の煙をがむしゃらに出し始めた。風の流れによっては大量の毒がトロールの方に行きかねず、至近距離にいた俺は逃げ遅れて既にちょっと吸ってしまった。


 毒が軽めなことを祈る!


 意を決して俺は煙の中に入り、暴れるカメレオンの首に噛みついた。そのままガブガブと首を沢山噛んで出血させ、倒した。


 よ、よし。なんとか勝った。

 勝ったけど……やばい、体調が一気に悪くなってきた。


 ピコン。


〈レベルが上がりました〉


 あっ、レベル上がった。って、そんなことより死にそう。

 どうせ死ぬのなら……あそこに実ってる黄色いキウイ食べて死のう。


 気力で辿り着き、ぱくっと一口。


 フワ~。

 気持ちいい~。


 ピコン。


 〈規定レベル以上にて、進化条件を満たしたのを確認しました〉


 〈進化を開始します〉


「えっ」


 有無を言わさず体が光って、進化が始まった。



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