魔物RPG

覇気草

1話~15話

第1話 『パンデモニウム・オンライン』


 全ての感覚を電子の世界に持って行くダイブ型VRが誕生し、VRMMOが大流行して早数年。新たなVRMMOのサービスが開始されることになった。


 その名も『パンデモニウム・オンライン』。


 女神ルシエールが創造した王道の剣と魔法のファンタジー世界で、魔物が跳梁跋扈ちょうりょうばっこし、人々は壁の中に街を作って生活している。

 プレイヤーはそんな世界で人間の冒険者――ではなく、魔物として生きていくことになる。自由度が非常に高く、魔物同士の激しい生存競争に加えて人間を襲って食べたりできるので、表現規制の観点から大人向けのゲームだ。


 ずっと、こんなゲームを待ち望んでいた。

 現実の仕事は変わり映えしなくて面白くない。ストレス発散目的でゲーム内で暴れ回ろうにも、人間としてやると狂人でしかない。他の似たゲームは表現がマイルドだったり難易度が低すぎて面白くなかった。

 だからこのゲームに期待している。


 そしてあと一分で、サービスが開始される。


 既に準備は全て済ませた。

 風呂入って飯食ったし、洗濯物を干したりガスの栓を閉めたり戸締りをした。

 歯を磨いてトイレを済ませてベッドに横になり、スマホの電源を切ってVR機器のヘルメットを装備して横になっている。

 誰にも邪魔されない、俺だけの空間。

 この時の為に、親にお願いして家の一つを譲渡してもらった甲斐がある。本当に感謝だ。


「おっ、時間だ。ゲーム起動」


 音声入力でゲームを起動させ、俺は『パンデモニウム・オンライン』の世界へとダイブした。







 ――とは言っても、ゲームの中に入ったら即世界に降り立つわけではない。その前にタイトルメニューとでもいうべき空間で、どうするかを決める必要がある。


 今いる空間はパンデモニウムというタイトルにそぐわない、古代ローマっぽい白い建築物が並び用水路に清らかな水が流れる神々しい場所だ。


 綺麗だ……。

 まぁそれはともかく、まずは体を確認。

 うむ、ジャージだな。


 日本のVRゲームでは、タイトルメニューの空間でアバタークリエイトする前、自分を投影した初期アバターの標準となっている服装だ。企業ロゴが入っていたり、色が違ったりと多少の違いがある。このゲームは黒ジャージのようだ。


「ようこそ『パンデモニウム・オンライン』へ」


 綺麗な女性の声が空間全体に響くと、目の前に光が集まって人型となり、光が消えるとローマっぽい白い服を着た美女が現れた。物理的に後光が射していてちょっと眩しい。


「初めまして。私はこの世界を創造した女神ルシエール。本人確認の為に名前、生年月日、合言葉をお伺いします」


「名前は物部正人ものべまさと。生年月日は平成二十年十二月二十五日。合言葉は、神は死んだ」


「……本人確認ができました。改めてようこそ『パンデモニウム・オンライン』へ。早速ですが、初回ゲーム起動ということでアバタークリエイトに入りたいと思います。準備はよろしいですか?」


「はい」


「それではアバタークリエイトについてご説明します。このゲームではあなた自身となるアバターとして、種族は全て“魔物”となります。また、種族も見た目もランダムで選択されます。質問はありませんか?」


「ない」


「ではアバター変更を開始します。体の変化に気を付けてください」


 女神ルシエールが指パッチンすると、俺の体が光りだした。視界も真っ白になって体の感覚がなくなる。

 数秒ほどじっとしていると体の変化が徐々に収まり、視界も戻って来た。

 ある程度覚悟はしていたが、目線がさっきよりかなり低い。

 あとなんか四つん這いになってる。


「こちらが、この世界のあなたです」


 真横に鏡が現れて姿を見せてくれる。


 おぉ! ネコだ! ネコになってる!


 目が黄色くて、灰色でフサフサの長い毛をしたネコ。

 大きさは大型のイエネコくらい。


「ステータスと念じれば、あなたにしか見えないステータスが表示されます。どうぞ試してください」


 ふむ。

 ステータス!


 すると、目の前にゲームらしいウィンドウが出現した。



 名前:

 種族名:キャット

 レベル:1

 スキル:

 アビリティ:



 おー、今のゲームの流行に真っ向から逆らうシンプルさ。


「ステータスについて、説明は必要ですか?」


「いや、いらない」


 公式サイトで履修済みだ。

 名前が無いのはモブ魔物として当然の仕様だし、スキルは“技”のようなもので、アビリティは“能力”のようなもの。


「そうですか。これよりあなたを『パンデモニウム・オンライン』の世界へ送ります。世界に降りると特定の条件を満たさないと人語を喋れません。心の準備はよろしいですか?」


「はい」


「……では、よい魔物ライフを」


 女神ルシエールが指パッチンすると、俺は光に包まれた。


 いよいよゲーム開始だ。

 ああ、命懸けの戦いをして、早く人間殺して食べてみたいなぁ。



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