才能サブスクマスター〜チートアプリで理想の人生〜
卯月 幾哉
序:インストール
「今なら、この動画と音楽の配信サービスがセットで、更にお安くなります!」
「……え、ホントですか?」
大学生になって一人暮らしを始めた才賀
入学当初は節約を心がけていたのだが、携帯電話会社の抱き合わせプランを熱心に売り込まれ、押し負ける形で契約を結んだ。後で個別に契約するよりは良いだろう、と思ってのことだ。
しかし、いざ
結局、楽しみにしていた動画配信サービスを視聴することはあまりできなかった。学業やバイトで忙しかったせいだ。
†
「才賀君、おはよう」
「お、おはよう。
大学の講義室にて。
わざわざ朝の
年齢=彼女いない歴である寧人は、叶わぬ望みと知りながらも夢想する。
(……あんな美人が彼女だったらなぁ)
そうすれば、きっと
ついつい美麗を目で追う寧人は、彼女が他の男子と長く談笑していると、ドス黒い
今回、その嫉妬の対象となった男子の名は、天堂
……何を話しているんだろうか? やけに楽しそうだ。
天堂は話も上手いのか、美麗はころころとよく笑い、あまつさえ親しげに天堂の肩を叩いていた。それを
――イケメン、死すべし。
(……もしこの世が呪いで人を殺せる世界だったら、俺は真っ先にあいつを殺すだろうな)
寧人はそんな黒い
††
「今日もつっかれたー……」
そんなある日の二十三時ごろ。
アパートの自室に帰宅した寧人は、シャワーも浴びずにベッドの上に倒れ込んだ。居酒屋でのアルバイトに慣れてきた頃だったが、この日は団体の予約がいくつか入っており、ホールスタッフの寧人はてんてこ舞いだった。
「生きていくのって大変なんだなぁ……」
一人暮らしを始めた結果、一人言が増えた寧人である。
「なーんか、もっとラクして上手くやれる方法ねぇかなぁ……」
根が
(――そうだ。あのAIに
それを思いついたのは、寧人が無料で読める漫画を読み終えたときだった。
〈
昨今話題の生成AIとやらがベースのサービスらしいが、寧人はそれがどういったものか詳しくは知らなかった。
サイトの見た目は、全体的に黒っぽい画面に、プロンプト入力欄があるだけのシンプルなものだ。
プロンプトは英語でも入力できるが、日本語にも対応している。英語が不得意な寧人は、深く考えずに日本語で入力することにした。
さて、何を訊こうか。
『私は日本の大学生です。簡単にお金を稼ぐ方法か、女の子にモテモテになるための良い方法はありませんか?』
何度か試行錯誤を繰り返した後、最終的に寧人が完成させたプロンプトはこのようなものだった。
AIはいくつかの案を回答として返してきた。
アルバイトや自己啓発といったありきたりな内容もあったが、その中に紛れ込んでいた一つの回答に寧人の目が止まった。
『才能レンタルシェアサービス。個人間で才能を貸し借りできるプラットフォームサービスです。不要な才能を貸し出し、女の子にモテるための才能をレンタルすることができます』
(なんだよ、そのサービス。AIの
寧人の第一印象はこうだった。
人と人の間で才能を貸し借りするなんて、常識的に考えて実現不可能だと思った。
AIの回答には引用元として当該サービスのURLが添えられていた。寧人は、そんなサービスなんかあるはずがないと思いながらも、冷やかし気分でURLをクリックした。
『サブスクリプション式・才能共有サービス「サガツク」』
モノクロのシンプルなホームページだった。
ロゴすらなかったが、ホームページの名称は確かにAIの回答に沿っているようだった。
「――え、これだけ?」
よく見ると、スマートフォン用のアプリをダウンロードするための小さめのテキストだけのリンクがある。しかし、それ以外には何のコンテンツもないウェブサイトだった。
気になった寧人はテキストリンクをクリックした。すると、画面はアプリストアに遷移する。
『サブスクリプション式・才能共有サービス「サガツク」――不要な才能を貸し出し、ポイントを稼いで必要な才能をレンタルしよう! 思い通りの人生をあなたの手に』
何の説明もなかったホームページとは打って変わって、そんなきらびやかな
ダウンロード数は一万以上。人気アプリには及ばないが、決して小さくはない数字だ。
レビューの点数は4.2。なかなかの高評価だ。
レビューのコメントとしては、次のような言葉が並んでいた。
『このアプリのおかげで、諦めていた夢が叶いました』
『まさか自分にこんな才能があったなんて……。貸し出そうかと思いましたが、せっかくなので自分でチャレンジしてみました。――おかげで、新たな道が開けました!』
『原理はよくわかりませんが、便利で愛用しています。もう、これ無しでは生きていけません』
『人気のある才能はポイントが高いのが難点ですが、公平だとは思います』
(……マジかよ)
それまでサービス内容に懐疑的だった寧人だが、レビューの内容を見たことですっかり気持ちが変わった。なぜ今まで自分は、こんな良さそうなアプリの存在を知らなかったのだろうか。
その後、寧人は明確に自分の意思で以って、アプリを自身のスマートフォンにインストールした。
それが全ての始まりだった。
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