和佳奈 答えを知る(8-5)


***

――人を好きになるのって、何なんだろうね?

私、自分の性格は絶対に一目惚れとかしないタイプ

だと思ってたし、もし好きになるならその人とは

まず友達になって、少しずつお互いを知って、時々

けんかとかして、何か距離が近づく出来事とかが

あって、あ、それか他の子がその人を好きとか噂を

聞いたりして、自分の中の恋心に気付く……

みたいなのだと信じてた。

だけど、違ったね

「私の好きな本を読んでた同じクラスの子」って

確かに特別な何かの始まりって感じはするけど、

そこから二人が仲良くなることはなかったし、ただ

の同じクラスの子って関係がずっと続いてたし

どこからかなあ?

「気になる」が「好き」になったのって

距離が近づくエピソードとか、本当になかったよね

私たち

でも、和佳奈のことが好きかもって気付いちゃって

からはね、和佳奈のことがどんどんかわいく見えて

きちゃって、美月と話して笑ってるとことか見て

うらやましいって思っちゃって、そういうのって

マンガとか小説で読んだのとびっくりするくらい

同じで笑っちゃった。友達ですらないのに独占欲

とかやきもちって、ウケるよね

***


 放送劇の次の月は全然リアルなエピソードがなかったから空白の多いページだった。そこにはびっしりと、緑色のインクで書かれた桃花の言葉が踊っている。

 桃花の語りかけに、私の心が自然に応える。

 私だって、全然わかんないよ。最初に言ったけどさ、恋愛とか告白とか付き合うとか、そういうの自分とは別の世界で起こってることだって本気で思ってたんだから。


 ニセモノの過去

 ニセモノのお付き合い

 ニセモノのエピソード


 後輩の片想いを応援するなんて筋書き、今から思い返してもホントに意味わかんない。意味わかんないけどさ…… やっぱ楽しかったな……

 それに……

 今さらだけどさ! 私も桃のコトが好きになっちゃったんだけど!

 どうしたらいい? 今、もしかしたら桃より私の好きの方が大きいかも知れないんだけど、桃がもう過去の終わった恋とかにしちゃってたらどうしよう。

 まだ、間に合うかな…… 私の気持ち、伝えるチャンスってまだあるかな……


 ――いけない。もう時間がない。私は急ぎ足に残りのページをめくる。

 3年生になってからはクラスのイベントが減ってしまったから、冬になるまでエピソードはほとんどなかった。

 空白が多いページに書き込まれた、答え合わせを――桃花の私に対する思いを――確かめていく。1カ所だけ、「美月に相談した 和佳奈のこと」ってさり気なく書いてあってこれだけが予想外だった。

 マジか、美月……。今度どこかで問い詰めなきゃ。


 それから冬。私たちに残された、高校生活最後の時間。

 「これは嘘です」って約束しながら、桃花が私に言った言葉はほとんどがそのままの意味だったことに、改めて驚く。

 付き合ってって言った時も、肩を寄せ合ってささやきかけてきた時も、二人で抱きしめ合った時も――。


 ぱたん。思い出ノートを閉じて、窓の外に広がる山々の景色を仰いで、それから目を閉じた。

 桃花が緑色のペンでつづった思いの一つ一つを、本当はもっと確かめたい。からかうような、振り回すような言葉と態度の裏にどんな気持ちが隠れてたのか、もっと知りたい。それに、私の想いも……。

 だけど、時間だ。


 電車に乗ったときは永遠に着かないんじゃないかって思った目的地まで、あと少し。春ののどかな陽射しが、トコトコと走る電車の窓から私のところにも差し込んでいる。

 桃花の言葉が、その向こうから見え隠れする想いが、それから、桃花を好きだっていう私の中の恋心が、春の陽射しに優しく包まれている。

 焦燥と、戸惑いと、確かな想い。そんなごちゃ混ぜの感情を抱えた私を乗せて、電車はゆっくりと目的地に近づく。


 ぴこん。電車を降りる支度をしてたら、通知に気付いた。美月だ。いつも以上に何の説明もない、短いメッセージだった。


 ――頑張れ


 うん、がんばる。私もそれだけ書いて美月に返した。今度ゆっくり、色々聞かせてもらうからね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る