桃花からのメッセージ(8-3)
***
――この頃って、どう頑張って思い出してみても
接点なかったよね。私も放送部で、派手で目立つ
活動するのに忙しかったから
(イヤミです)
和佳奈もきっと、私のことなんて意識も認識も
してなかったでしょ?
私は…… どうだろ? あんま思い出せない
あ、だけど部活に入ったのは何となく憶えてるよ
これは本当
***
私が、手芸部っていう地味だけど落ち着ける自分の居場所を見つけた頃。
「派手で目立つ活動」は、この間――桃花がこの教室に来るようになってからだから、本当についこの間だよね――何かの拍子に私がつい口にした言葉だ。
だってホントにそう思ってたし。なんかキラキラしてたし、放送部の子たちって。
短い文章の向こうから桃花の声が聞こえてくるみたいで、こんな時なのに私はくすっと笑ってしまった。次のページもだ。
***
――教室の中で和佳奈が美月と楽しそうに話して
るの、ちらっと横目で見たりしてたよ
最初は、無駄なおしゃべりは好きじゃありません
って感じの子だと勝手に思ってたの
(イヤミじゃないよ)
真面目そうだったし、一人で静かにしてたから
でも、美月と話してる和佳奈はちゃんと笑ってて
へーってその時は思ったな
***
美月とは高校に入って最初に仲良くなって、確かに教室でも部室でも色々おしゃべりしてた。美月は人を見る目っていうか視点が独特なところがあって、話してて楽しかったのは確かだ。
桃から見たら、私そんな感じだったんだ……。
だけど無駄なおしゃべりは好きじゃありませんとか! そういうの全然ないから! 本当、桃の方こそ変わってるよ……。
***
――和佳奈は、「仲良くはないし接点もないけど
気になる子」っていたことある?
ないかな。
私もそんな子、和佳奈だけだったし
なんかね、教室で友達とかと話してて、急に視界に
入ってきたりするの
本読んでるトコとか
美月にちょっかいかけられてるトコとか
基本、和佳奈って静かじゃん?
誰かと話してても大きな声とか出さないし
だから、すごく不思議だった
どうしてそんな子が気になるんだろうって
***
どうかなあ? そんな風に思えた子は、いないかなあ?
桃花の問いかけに、普通に心の中で応える自分がいた。桃花の書く文章は、桃花がすぐ近くにいて話しかけてくるみたいに心に響いて、ちょっとくすぐったい。
会いたいなあ。話したいなあ。だって私も――
ページをめくるたび、ゆっくりと、そして少しずつ、桃花の中で私の存在が大きくなっていくのが伝わってきた。
自分に向かう強い感情っていうのを経験したことがなかったから――だって中学も高校も地味キャラだったし――、感情の持って行き場に困っている。
桃花の語り口調は淡々としてて、どこか自分を離れた場所から見てるようなところがあって、でも時々どきっとするような熱を私に見せる。
意識してるのか、してないのか、桃花の想いをのせた言葉は私の中に入り込んで、今さらのように心を大きく揺さぶった。
***
――和佳奈が、消しゴム拾ってくれたの
通りがかりに
席が一番近かったのって、このときだよね
でも隣とか前とか後ろにはなれなかったね
私の肩をちょんちょんってつついて
「露切さん、これ、落ちてた」って
そのまま自分の席に行っちゃった
「ありがとう」って、ちゃんと言えてた?
さすがに覚えてないか
嬉しかった……。
けど、席が隣だったらもっと話せるのになあ
って思っちゃったよ
***
それなりに楽しかった高校の3年間
それなりに色々あった私のクラス
自分には、これで十分。ずっとそう思ってきたし、今でもそれは変わらない。
だけど……。
あの時の私が気付けなかった、桃花の想い。
教室ですれ違うたびに投げかけられていた、桃花の視線。
単なるクラスメイトの枠を出ることがなかった、桃花とのやり取り。
今、心の中で手が付けられないくらいに大きくなっている「好き」っていう気持ちに戸惑いながら、私は桃花と心を、言葉を交わせていたかも知れない過去の時間を少しだけ惜しいって思っていた。
とことこと走ってきた電車が、結田の駅のホームに滑り込む。
乗り換えの時間は短い。私はノートを閉じると、席を立ってドアが開くのを待った。
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