和佳奈と桃花(3-4)
ぱら、ぱらとノートのページをめくる。桃花の言ったとおり、枠線だけはきっちり3年分引かれてたけど中身はこれからって感じだった。
これ、1行ずつ書いてくだけでもけっこうかかりそうだね……。思い出すのも時間かかりそうだし……
「ね、そっちに行ってもいい?」
「ほぇ? あ、こっち? いいけど……」
また考え事に気を取られそうになっていた私に、桃花が声をかけてきた。答えを聞く前に立ち上がると、隣の机を動かして私の席にくっ付ける。
そっちって、なるほどそういうことね。
「へへ~。お隣。初めてだね」
「そう……、そうだっけ? あ、確かに席替えとかでも一緒になったことないね」
「こういうの、憧れてたんだよね」
桃花はさっきのノートを開くと2つの席の間にぱたっと置いた。椅子をちょっと動かして、私の方に近づける。
ふわっと、桃花の髪が淡く香る。近いよ。今までで一番近い。体の右側に、桃花の体温が感じられるような気までしてきた。
恋人って、こんなに近くでお互いのコトを見たりするんだね……。初めてだよこんなの……。桃花の整った横顔に、しばしうっとりする。
「和佳奈、どしたの? もしかして、私に見とれちゃってた?」
「ちょっとそうかも」
「えっまじで」
「うん。愛華も美月も……、あ、この二人は手芸部の友達ね、こんなに近くで恋人のコト見てたのかな~って」
「見るだけで、いいの?」
ぐいっと桃花がこっちに身を寄せてきて、それから目を細めた。
「恋人どうしなんだから、色々してもいいんだよ?」
「桃……」
桃花の肩が、私の肩とかすかに触れ合う。首をかしげるように私にもたれかかって、そのままもっと近づいて――。
「なーんてね。でも、ちょっとドキドキした?」
「し…… したよ! ていうか私、こういうのに免疫ないって言ったよね? ホントに免疫ないんだからね!? びっくりするくらい免疫ないから!」
「免疫免疫って、あー生物やってたんだね今日は。和佳奈、分かりやすくて面白いねえ」
「からかって遊ぶなー!」
何か一瞬、ちょっと本当の恋人っぽい空気になりかけた気がしたけど、気のせいだ。これは絶対気のせいのやつ。
「それでさ、ノート。どうしようか」
あー。ノート。そうでしたね。からかわれてばっかりだけど、ノートがありましたね。それじゃあ……
「いきなり細かいトコは無理だからさ、まずイベントとか、そういうのから埋めてかない?」
「イベント?」
「うん。修学旅行とか、林間学校とか、体育祭とか文化祭とか、そういうやつ。大体でいいからさ」
「へー。さすが和佳奈だね。やっぱりできる子って感じする」
「はぁ? いや別に普通でしょ。ていうか3年分だからね? これ書き出すだけでも大変なんだから」
単純に計算しただけでも、36ページ。淡々と出来事を書いてくだけでも間に合うかどうかってくらいだ。
残された時間、本当に短いね……。そう思って、ちょっと寂しくなったりして。
「時間は? いつまで大丈夫?」
「この後は用事ないから、桃の電車の時間まで大丈夫だよ」
「ありがと。そしたら…… あと30分くらいだ。一緒にいられる時間、意外に短いよね」
「まあ受験生だしねえ。あんまり遅くなってもアレだし、桃は家まで遠いしね~」
「おけ。じゃあ、取りあえずイベントやりますか」
それからしばらく、二人で思い出せるだけのイベントを「思い出ノート」に書き出していった。何月何日、まではもちろん分からないけど、何月、くらいまでなら意外に覚えててちょっと驚く。残りは――この後は何をどう書いていこうか――、桃花と私の宿題ってコトにした。
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