平凡で勇者で賢者による魔王討伐譚
@koikage
第1話 プロローグ
勉強に運動、個性なんて何一つない平凡な高校生である悠月鳴海は地獄の中にいた。
つまるところ五時限目の古文の授業中である。
睡魔に絶えながら受ける授業は全国の高校生にとって絶え難い苦痛であろう。
少しでもそんな現実から目を背けるため、窓際の席に座る鳴海は外の景色を眺めていた。
勉強が将来なんの役に立つのだろうか?
英語、社会ならまだしも古文だと?
いつ使うんだよ。時間を無駄にしているとしか思えない。
なぜというべきか必然というべきか、こんなときには天才的なIQがあったらとか、圧倒的な運動能力で女子達からきゃーきゃーと黄色い声援を浴びたりとありもしない妄想が捗ってしまう。
才能があるやつはいいよなぁ、努力なんてせずに結果が出せるのだから。子供の頃大人たちは鳴海くんだって才能はあるよまだ発揮できてないだけ、これからだよとか誤魔化すばかりだ。
子供をだった頃の自分さえ分かっている、才能は平等ではない。自分にはなんもないのだ。昔もいまも、
そして、急に我に帰り大きな溜め息をつくまでかワンセットだ。
気づけば再び外を眺めていた鳴海の目に映ったのは、校庭を埋め尽くすほどの魔物であった。
右手に大きな棍棒を持ったオークや小汚いゴブリン、狼のような魔物までがゆっくりと校舎に向けて迫っていた。
目の前に広がるあまりにも現実味のない光景に恐怖の感情すら湧いてこない。
しかし、いつのまにか眠って夢を見ているのか現実なのか確かめる必要があった。
仮に現実であった場合、今すぐにでも逃げ出さなければ奴らに喰い殺されるかなぶり殺されるのが落ちだろう。
「これって現実だよな?」
「 . . . 」
試しに隣に座るクラスメイトに聞いてみたが、もちろん無視された。
名前も知らないし話したことは一度や二度くらいしか記憶にないから当然と言えば当然の対応だろう。
昔から友達はいないかった、自分より優れた人ばかりで関わると何もない自分が惨めになってくるからだ。
念の為もう一度、窓の外を確認して見たがやはり魔物たちは存在しさっきよりこちらに近づいてきている。校内に入り込むのも時間の問題だろう。
今更になってがこれが夢か現実どちらであろうとここから逃げ出すべきだと気づく。
「みんな今すぐ逃げろ!!」
立ち上がると同時に走り出す、ついでにクラスメイトたちに危機が迫っていることを伝えたつもりだったが誰一人反応することなく授業が続いて行くのだった。
鳴海は颯爽と誰もいない廊下を駆けていた。
「体育の授業サボるんじゃなかった。」
普段全く運動しない彼は、颯爽と言えるほどの速度は出ていないしスタミナもないため数分で徒歩と変わらない状態になっていた。
衣服が汗を吸って体に纏わりついてくる感覚が気に食わない。運動が嫌いなのはそのせいだ。
途中、下駄箱を通り過ぎたときにはもう魔物は目の前に迫っていた。
小さいと思っていたゴブリンさえ目の前にすると想像よりはるかに大きく、165cmしかない鳴海とほぼ変わらなかった。
ゴブリンなんて序盤の雑魚だろ素手でも勝てるわなんて思っていた自分が恥ずかしい。
そうこうしているうちに、校舎を飛び出していた。
校舎の裏には雑木林が見えたちょうど身を隠すにはいいだろう。
久々の全力疾走にもう体は限界を迎えてしまっていた。休憩がてら校舎に目を向ける。
「こっちくるな!」
「なによこれ?!」
魔物の存在に気づかず校舎に取り残された生徒、教師の悲鳴が聞こえた。
悲惨な状況が窓越しに確認できる。
巨大な狼に喰い殺されるもの、オークに棍棒で潰されぺちゃんこになったもの、ゴブリンに出くわした女子生徒に関しては本当に残念だ。
何も見なかったことにして雑木林へ歩み始めるのだった。
雑木林の中を歩き始めて数分進んだところで、音が無くなってしまったと不安になるほどに静寂な雑木林のなか歩むことを忘れ、禍々しく巨大な扉の前に立ち尽くしていた。
「戦車や戦闘機さえ通れそうだな」
なんでこんなとこに扉があるのか、そんな疑問を持つこともできない迫力があった。
「雑木林だ、みんなこっちに逃げろ!」
魔物から逃げてきたのだろう。他の生徒や、教師の声が聞こえる。
つまり、魔物は彼らを追って雑木林に来るだろう。
このままでは自分も追われることになってしまう、あえてこの扉のなかへ行ってみようか。
いい案に思えてきた。もう走って逃げるほどの体力は残っていないし魔物も禍々しい扉をくぐるとこに躊躇するかもしれない。
しかし、この扉ドアノブがない。押したら普通に開くのだろうか?
魔物がこちらに迫ってくる音が聞こえるほど近づいてきていた。
躊躇っている余裕はない扉の先で即死するかもしれないそもそもこの扉を開けられずに魔物に襲われて死ぬかもしれないがもう考える時間はない。
覚悟を決め扉を強く押し込んだ。
扉は音も立てずにスムーズに開く、その先は何も見えない真っ暗だ。
いや、何も存在しない空間かも知れない。
それに扉を潜り生きていてもこの世界とはお別れか、最愛の彼女であるゆあに会えなくなるのか。
俺に彼女なんていなかったわ。ハハ、もしかしてこの世界に未練なんて一つもないかも?いや、むしろこんな世界から逃げ出したい。なのに、全てを投げ出して逃げる覚悟すらない。
「ガウゥゥ」
なんてこったもうすぐ後ろにヤツがいるじゃないか!考えている暇などない。
「お邪魔しまーす」
思考を停止し恐怖を振り払い扉の先へ進むのだった。
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