誠意はお金で買える
ちびまるフォイ
お金という感情
「ちょっとコンビニ寄っていい?」
「あうん」
何を買うでもなくコンビニをふらついていると、
奥まった棚に見たことがない商品がある。
「おっ、あった。誠意。ちょうど切らしてたんだよ」
「せ、誠意!?」
「なんだお前。誠意、買ったこと無いの?」
「いや売ってることすら知らなかった……」
「普通にコンビニで売ってるじゃん」
「だとしてもなんで買う必要が……?」
「なにかと便利なんだよ。現代人の必需品だぜ」
「そうなんだ」
その売り文句に負けてつい誠意を購入した。
そんなに高くない価格設定も買いたくなる理由になる。
カバンに誠意を忍ばせて使うタイミングを伺っていた。
ある日のこと。
電車が遅れてバイト先に遅刻してしまった。
「君ね、また遅刻したのか?」
「すみません! 店長!」
「なんかその言葉も……誠意が感じられないよ」
「あ」
ふと思いついて、カバンに忍ばせてある誠意をぶつけた。
すると店長の険しい顔がすこしやわらいだ。
「……まあ、反省はしているようだな」
「え、あ、はあ」
「今後は気をつけるように!」
「説教1時間コースだと思ったのに……。
誠意でこんなにショートカットできちゃった……」
友達が誠意は何かと便利だと言っていた理由がよくわかる。
現代はどこまで言っても人との関わりは絶てない。
他人とのあつれきも避けては通れない。
となれば、誠意をぶつけて緩和するのが現代人のスマートな生き方。
誠意を買って使うようになってからは、
ますます使える範囲を広げていった。
それは例えば誰かが失敗したとき。
「すみません! お皿を割ってしまって……!」
「いいんだよ。俺もよく割ってたし」
「でも……」
「次で気をつければいいんだよ」
そう言いながら誠意をぶつける。
気づかう言葉と誠意の合わせ技は効果的。
自分の好感度がぐんと上がるのがわかる。
他にも誠意はいくらでも使える。
「お客様、いらっしゃいませ!!」
来店した客にうむを言わさず誠意をぶつける。
すると、客はいきなりほほえんだ顔になる。
「あら素敵な店員さん」
「誠意を感じる接客ね」
「口コミで高評価しておかないと」
「ありがとうございます!」
ダメ押しにもう1回誠意をぶつける。
気づけば誠意を使い倒していた。
そんな誠意をフルで使い続けていた頃。
家に届いたクレジットカードの請求書に青ざめた。
「な……なんだこの金額……」
自分史上最高額を記録した請求額。
出費の原因はなんだったのかを頭で回想する。
「やっぱり……誠意買いすぎだよなぁ……」
コンビニを見つけるたびに誠意を買っていた。
しだいに誠意を使う頻度が増えると、買う頻度も増える。
誠意のインフレ無限ループが今の高額請求をまねいてしまった。
「よし! これからは節約しよう! お金も、誠意も!!」
そう決めたが、もって1日だった。
デート中に彼女が急に冷めた口調で告げた。
「私たち、もう終わりにしましょう」
「え。急に!?」
「だって、あなたからはもう誠意が感じられないもの」
誠意を湯水のごとく使っていただけに、尽きたときの落差は劇的。
急な塩対応をはじめたことが原因でフラれてしまった。
やっぱり誠意は必需品なんだ。
「誠意をもっと安く買えないものか……」
ネットショッピングを探していると、
ちょうどセール中の誠意が売りに出されていた。
「1箱でこの価格!? めっちゃ安い!!
コンビニで誠意1個買ったときはもっと高かったのに!!」
迷う理由などなかった。
コンビニでちまちま買っていたから損をしていた。
箱買いすれば1つあたりの誠意は安く済ませられる。
大容量の誠意を箱で何ケースも購入した。
「これでまた前の生活に戻れるぞ。
それに誠意を買いすぎて散財する心配もない。無敵だ!」
数日後、家にはたくさんの箱が所狭しと届けられた。
「誠意が届いた! ようし、さっそく……ってなんだこれ」
箱を開けてみて目を疑った。
よくみると誠意じゃない。誠意が込められていない。
「
安く買えるのには理由があった。
そして家には大量の使い切れない「城意」が山積みになっている。
「どうしよう……。誠意もう買わなくていいと思って
すべてのお金をこれに使っちゃった……」
返品するにも開けちゃったからムリ。
誠意を買い直す資金も無い。
もう誠意ストックが無い状態で過ごすしか無い。
「ああどうすれば……」
悩んでいるうちにすっかりバイトの時間を過ぎた。
誠意で許してもらうことに慣れていたので、遅刻が当たり前になってしまっていた。
タイミングが悪いことに今回に限っては誠意が無い。
バイト先では店長が顔を2倍に膨らませて怒っていた。
「君ね!! また遅刻か!!」
「す、すみません!!」
ためしに
ここに誠意なんて込められていない。
「毎回あたりまえに遅刻しては平謝り……」
「申し訳ございませんっ!」
「誠意が感じられないんだよ、誠意が!!
どうせ謝れば済むとでも思っているんだろう!?」
「そんなこと思っていません!」
「じゃあなんで誠意が感じられないんだ!!」
誠意誠意って。
こんなに謝っているのに。
これ以上追い詰めてなにがしたいのか。
苛立ったのでつい口が動いてしまった。
「そんなに誠意が必要なんですか!!」
「当たり前だ! 誠意がないなら反省していない!」
「反省はしてます! 誠意を切らしてるだけです!」
「そんなわけあるか! 反省してるなら、誠意が自然とにじみ出るだろう!?」
「このっ……!」
どうしてわかってくれないのか。
今は誠意が底をついているだけだというのに。
「来月になればちゃんと誠意ある謝り方をしますよ!」
「ばかやろう! 今、誠意をもって反省しろといってるんだ!」
「だからそれは金がないから誠意がないんです!
どうしてわかってくれないんですか!」
「君は感情がないのか!! 誠意を見せろ! 誠意を!」
「ないっつてんだろーー!!」
その言葉に店長の堪忍袋が風船のように爆発。
「じゃあもういい!! お前はクビだ!!!」
「ひ、ひどい!! 来月になれば誠意みせるのに!?」
「今誠意を出せない人間なんかいらない!!」
「店長、それはひどすぎます!!
あなたには感情がないんですか!
思いやりが! 優しさがないんですか!?」
自分の反論に店長は自分のカバンを開いて答える。
カバンはすっからかんで何も入っていなかった。
「優しさも、思いやりも、今はストック切らしてるんだよーー!!」
誠意はお金で買える ちびまるフォイ @firestorage
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