第19話 新・お米とわたし
備蓄米購入が全国報道されるようになって1週間過ぎたころ、俺が通っているスーパーでも売り出し予告があった。チラシ広告ではなく店頭での貼り紙であり、他の店舗に先駆けての売り出しであった。
本来入札でコメ価格が決まり、問屋などいくつかの流通経路を経て店頭に並ぶのだが、今回は大手小売業者に対して随意契約で価格を決定されるという異例の出来事があった。かなり消費者寄りの政策である。
大手資本のスーパーは隣町まで行かなければならず他人事に思えたが、要件が緩和されたのか地元資本のスーパーで買えると知り、買い物競争に参戦を決めた。
家族や友人にラインを送り備蓄米を購入すると宣言する。といってもこの時点ですでに勝ち筋は見えておりただの自慢であった。
通常平日の午前中のスーパーは閑散としており平均年齢は非常に高い。特に俺が通う店は前日の売れ残りを安くするケースが少ない。値引きシールを貼る時間帯がずれているので主婦や労働者という俺のライバルとかち合うことはない。余裕である。
そして売り出し当日となり開店5分前に家を出発。道は空いており信号に引っかかりはしたがスムーズに駐車場に到着。満車で店舗から離れた駐車スペースを使うこともなく混雑もなく列に並ぶ。若い店員が列を整理して耳の遠い年寄りに何やら説明している。何やら残り僅かとか一家族一つまでなど・・・
最後尾に並んだ俺の後ろに次々と客が並び前に進む。もう一方の入り口からは米を抱えた爺さん婆さんがどんどん吐き出され帰って行く。どうやら余計な買い物をせずレジに直行しているようだ。回転率が速いわけである。
結果からいえば備蓄米を入手出来た。俺の番で残り8袋であった。開店して5分で完売したようだ。レジが混んでいたので店のなかを一周する。精肉コーナーと地場野菜コーナーで特売品を入手。ライバル不在なので余裕だったのだが、見知った人が備蓄米を購入できず悲しそうだったので罪悪感がわいた。
それから一ヶ月後のことである。友人から通販サイトで備蓄米10キロ購入出来たとラインがきた。俺はまだ購入した備蓄米に手を付けていなかった。動画配信サイトで備蓄米の検証動画を見ながらどう食べようと悩んでいたのである。前にあった米は押し麦でかさ増ししながら少しずつ食べていたのでなかなか減らなかった。
朝はパンやパスタあるいは素麺ですまし昼飯はとらなかった。無職の高齢ニートは三食とる必要はないと思っていたのもある。
ふとなんため備蓄米を購入したのだろうと虚しくなった。そもそも一年前は今の半値で買えたのだ。インフレ率が高いとはいえ急激に値上がりしたためパニック買いしてしまったのである。むかし教科書で読んだオイルショックを思い出した。
トランプ大統領が貿易協定をめぐって、日本はアメリカの米を買わない不公平だとまたいいだした。何度もいうがカルフォルニア米はスーパーで普通に買える。地元の米よりもはるかに安いが売れ行きはいま一つだ。
日本人にとって米とはライフラインである。そして田んぼはインフラ設備だ。この一月でそう思うようになった。先進国でも食料自給率が低く離農者も増えている。そして消費者の財布のひももかたい。それでも守るべきだろう。
精神論じみた感じになってきたがここは屈してはならない。極論いえば工業製品は食べられないし金融やサービス業は幻である。食べ物を分けるために派生した仕事が富の大部分を占めるようになった。飢えないため日本はこの経済システムにのり世界中から利益を得てきた。
しかし最低限の食糧を確保した上でないと意味がない。かたい言葉でいえば食の安全保障である。これがなければ国民は不安になる。フードロスは由々しきことだが、多少余るぐらいでないと下々まで回ってこないと思う。
6月になって田植えされた田んぼが増えたような気がする。何年も使用されていない休耕田は相変わらず荒地となっているが、今年は作付けしないだろうなと思ってた田んぼに水がはられていた。(俺が住んでいる地域は、4月下旬~5月の連休が田植えのピークである。)
誰がどのような判断をしたのか知らないが、この時点で減反政策を廃止したのだろうか?農水大臣が交代した時期と一致してはいるが・・・
正直いって備蓄米放出も増産指示もタイミングが遅かったと思う。市場メカニズムを妄信したのだろうか?それともわざと放置したのか。いずれにしても食糧法の精神とはかけ離れている。
7月に入ってから石破総理が突如として米増産の話をぶち上げた。ネットでは今からやって間に合うの?という疑問の声が続出。そりゃそうだ。もし本当に今からだったら間に合うわけがない。発表しなかっただけなんだろうなと思う。
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