第11話 2人だけの世界



 週末、私たちは水族館デートに来ていた。もちろん、付き合っていることは学校のみんなには内緒。だから、人目を気にせずデートできるのが嬉しかった。


 「秘密の恋人、初デートだな。」


 チケットを渡しながら、雄也がニヤッと笑う。


 「その言い方、やめてってば……。」


 「だって本当だろ?」


 そう言って、私の手をさりげなく握る。


 (ちょっ、外でこれは……!)


 「学校ではできないから、今のうちにしておこうと思って。」


 「……もう。」


 そう言われると、何も言えなくなる。でも、つないだ手の温かさが心地よくて、私もぎゅっと握り返した。


 ***


 水族館の中は涼しくて、幻想的な青い光に包まれていた。


 「わぁ……綺麗。」


 大きなトンネル型の水槽の中を、色とりどりの魚たちが優雅に泳いでいる。


 「彩花、あれ見て。」


 雄也が指をさした先には、ゆったりと泳ぐウミガメ。


 「なんか、雄也っぽいかも。」


 「え、どこが?」


 「落ち着いてて、優雅な感じ?」


 「そう? じゃあ、彩花はペンギンかな。」


 「ペンギン?」


 「元気でかわいいとこが。」


 さらっとそんなこと言うから、心臓がドキッとする。


 「もう……そういうの、禁止。」


 「彩花が照れるの、かわいいから言いたくなる。」


 「だから、それが禁止だってば!」


 慌てて顔を背けたけど、雄也はすごく楽しそうだった。


 ***


 イルカショーを見終わり、水族館の外の展望デッキに出ると、ちょうど夕日が沈みかけていた。


 「いい景色……。」


 潮風が心地よく吹いて、空はオレンジと紫のグラデーション。そんな美しい光景の中、隣には雄也がいて——。


 「彩花。」


 「ん?」


 「……こっち向いて。」


 言われるがままに振り向くと、雄也の顔がすぐ近くにあった。


 「えっ、ちょ——」


 言葉を遮るように、そっと唇が重なる。


 柔らかくて、あたたかい。


 驚いたけれど、不思議と嫌じゃなかった。


 「……好きだよ。」


 キスの後、雄也がそっと微笑む。その顔があまりにも優しくて、胸がいっぱいになった。


 「……私も。」


 幸せすぎて、夢みたいだった。だけど——。


 「えっ、今の……もしかして……。」


 少し離れた場所で、知らない生徒が私たちを見ていた。


 ——バレた!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る