第2話 特別になりたい

 昼休み、生徒会室には私と雄也の二人だけだった。窓の外からはグラウンドのにぎやかな声が聞こえてくる。


 「今日の生徒総会の資料、確認しておいてくれる?」


 雄也が私の隣に座りながら、プリントを差し出した。横顔が近い。どこから見ても完璧な顔立ちで、こんな風に話しかけられるたびに少しだけ意識してしまう。


 「うん、任せて。……っていうかさ、雄也って仕事を振るのうまいよね。」


 「それ、褒めてる?」


 「まあね。やっぱり生徒副会長だけあるなって。」


 雄也はクスッと笑って、「彩花の方がしっかりしてるよ」とさらっと言う。こういう何気ない言葉に、いちいちドキッとしてしまう。


 ——でも、こういうこと、雄也は誰にでも言うんだろうな。


 ふと、そんなことを思ってしまった。誰にでも優しくて、誰にでも平等に接する。だからこそ、みんな彼を好きになる。でも、その「誰にでも」の中に、私は特別な存在として含まれているのかな——?


 考えても答えが出るわけじゃないけど、胸の奥がモヤモヤしたまま昼休みは終わった。


 ***


 放課後、廊下を歩いていると、健とすれ違った。


 「彩花、ちょっといい?」


 「ん? どうしたの?」


 健は風紀委員の腕章をつけて、真面目な顔をしていたけれど、どこか言いにくそうに視線をそらした。


 「……今、好きな人とかいる?」


 突然の質問に、一瞬足が止まる。


 「……なんで?」


 「いや、別に。ただ気になっただけ。」


 健の表情は変わらない。でも、どこか探るような目をしていた。


 「さあ、どうだろうね?」


 私は軽く笑ってはぐらかした。健はふっと息をついて、小さく「昔みたいに戻れたらな」って呟いた。


 その言葉が、なんだか切なく響いた。


 ***


 生徒会の仕事が終わり、帰ろうとすると、紗奈が嬉しそうに駆け寄ってきた。


 「ねえねえ、彩花! 雄也のことどう思ってるの?」


 「えっ?」


 唐突な質問に戸惑っていると、紗奈はにっこり笑って続ける。


 「私、雄也が好きなのは前から言ってるでしょ? で、彩花はどうなのかなーって思って。」


 「……別に、普通だけど?」


 「ほんとに?」


 「ほんとに。」


 軽く流したつもりだったけど、胸の奥が少しだけチクリと痛んだ。


 「ねえ、紗奈はもし雄也が他の子を好きだったらどうする?」


 ふと、そんなことを聞いてしまった。


 「そしたら? うーん……それでも好きでいるよ!」


 即答する紗奈は、眩しいくらいに真っ直ぐだった。その言葉を聞いた瞬間、私は自分の気持ちに少しだけ迷いが生まれた。


 「私の気持ちは、本当に“好き”なのかな……?」


 わかっているはずなのに、簡単に言葉にはできない。


 雄也の隣にいると、ドキドキする。だけど、それは「特別」なのか、それとも——。



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