再会は、ホワイトデーに。

はづき

再会は、ホワイトデーに。

 3月14日――今年もホワイトデーがやってきた。ショッピングモール内のアクセサリーショップで働く塩津しおつ真悠まゆは、せわしなく開店準備を進めていた。


(そっか、もう今年もここまで来ちゃったか……)


3月に入ってから、ホワイトデー仕様のラッピングを受け付けている。その袋とリボンの補充をしながら、真悠は溜め息をついていた。


――何故なら、彼女はホワイトデーという日が、1番嫌いだから。


 開店後、ぼちぼちとお客さんがやってくる。平日にも関わらず、何組かのカップルが来店してきた。彼女が欲しいものを選び、彼氏が代金を支払いプレゼントする――そんな光景ばかりだ。笑顔で接客はするけど、1日が早く終わって欲しいと心では嘆くばかり。


 真悠がこの日を嫌うようになってしまった原因は――元カレ・郡山こおりやま幸弥ゆきやだった。


***


 大学の同じゼミで知り合い、意気投合し付き合うことになり1年半。3年前のバレンタインデーの時、大学卒業前ギリギリに内定を取った幸弥のために、労いも込みで手作りチョコを作ってあげた真悠。


「ありがとう! ……ん~、美味いっ! めっちゃ染みるわ~」


待ちきれなかったのか、真悠の目の前で袋からチョコを取り出す幸弥。美味しそうに食べる彼を見て、真悠はとても嬉しかった。


「このお礼はホワイトデーにしっかりお返しする! 今欲しいものとかある?」


「うーん……卒業してからあんまり会えなくなっちゃうし……幸弥とお揃いのものが欲しい! こないだ機種変して、幸弥と同じものにしたんだ! もしあれば……同じものが欲しいな」


「分かった! ホワイトデーの時に一緒に選びに行こう!」


 しかし、1か月後――幸弥が他の女の子と待ち合わせしているのを見てしまった。


「……え? 俺、そんな約束したっけ?」


真悠が1か月前に"一緒に選びに行こう"という約束を間違いなくしたと言っても、とぼける幸弥。幸弥と腕を組んでいた女の子が黙って彼を待ち続けている。


「……いくら粘っても、無駄だぞ。君はもう用済みなんだから。……さようなら」


そう吐き捨て、女の子と仲良く歩いていった。真悠はその姿を黙って見ていたが、突きつけられた彼の言葉に深く傷つき、その場で泣き崩れてしまった。


***


 それから3年の月日がたったが、真悠は毎年ホワイトデーが来る度に憂鬱だった。男性客が彼女のためにプレゼントを買っていく様子を、仕事柄当たり前のように見ていく。だが自分には。……居ても立っても居られない。ただただ悔しい。この嘆きを押し殺し、今日も人前に立つ。


 夜6時。あと1時間もすれば閉店時間になり、客数も少なくなってきた。真悠が倉庫で作業をしていると、先輩社員が彼女を呼ぶ。


「真悠ちゃーん」


「はーい、どうしました?」


「真悠ちゃんに用事あるお客さんが来てるみたいだけど……?」


「……分かりました、すぐ行きますね」


だが、思い当たる人がいない。


(一体、誰だろう……?)


疑問を持ちながら倉庫から出ると、レジの前にいたのは――幸弥だった。


「……久しぶり、真悠」


「……」


突然のこと過ぎて、すぐに言葉が出ない真悠。


「……久しぶり、だけど……何しに来たの、幸弥」


「そ、それは……」


先輩が何か察したのか、1歩、また1歩と下がる。


「あ、先輩。この人、私の元カレなので。変な目で見ないでくださいね……」


「大丈夫。用が済むまで付き合ってあげな」


と、自分の持ち場に戻っていく先輩。


 そして、2人きりになる。


「……彼女と別れた。同棲までいったのに、追い出された。傷心でこのショッピングモールに来たら、そういえば真悠がここに就職したはずだったよなと思い出して、来たんだ」


幸弥はあの時一緒にいた彼女と、別れたのだという。


「今更許してもらえるとは思ってない。真悠と交わした約束は忘れてなかった。だけど……あの時は彼女が大切に思えたから……あんなことを言ってしまった。本当に、ごめん」


「……私の就職先、覚えててくれてるなんて思ってなかった。あんなこと言われて……ずっと、立ち直れなかった。このまま幸弥と一緒にいられると思ってたから……」


「そう思っててくれたのに……俺は……何てこと言ったんだろう。あの時の自分を殴りたい。……真悠がよかったら、仕事終わりに果たしてあげる。それが終わったら、家まで送るよ」


「……うん、いいよ」


 その後、近くの家電量販店でスマホケースを買ってもらった真悠。元カレとの突然の再会で戸惑ったが、この年のホワイトデーは、元カレのおかげでいい日になった。よりを戻そうとは思っていないけど、元カレからのこのプレゼント、大切にしなければと決めて。




―完―

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再会は、ホワイトデーに。 はづき @hazuki_com

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