夢の中の人

天蝶

第0話

ある町に住む小さな家族がいました。彼らは普段は平穏な日々を過ごしていましたが、震災が起きる前夜、奇妙な夢を見ました。夢の中で、彼らの家が揺れ、一人一人が分かれていく様子が描かれました。特に、幼い娘が一人で暗い廊下を歩いているシーンが印象に残りました。


翌朝、地震が発生しました。大きな揺れに家が壊れ、家族は無事だったものの、周囲はひどい状況になってしまいました。気を紛らわせるため、家族は近くの避難所に向かいました。


避難所での数日間、家族は互いを励まし合いながら過ごしましたが、娘が時折、遠くを見つめることがありました。「ママ、あの人が来る」と呟くのです。しかし、周りを見渡しても誰もいません。


ある晩、家族が寝静まったとき、再び娘が話し始めました。「夢の中の人、私はもう一緒に行ってしまうよ」と。その言葉が家族に不安をもたらしました。


次の日、娘は行方不明になってしまいました。家族は必死に探しましたが、どこにも見当たりません。避難所の人々も手を貸してくれましたが、時間が経つにつれて希望は薄れていきました。


数日後、娘がついに見つかりました。しかし、彼女はまるで夢から覚めたかのように、穏やかに微笑んでいました。「あの人、とても優しかったよ」と言い残して、彼女は再び眠りにつくかのように静かに息を引き取りました。


その夜、家族は避難所を後にしました。娘と共に過ごしたはずの夢は、実は彼女の運命を予知していたのかもしれません。そして、家族は震災の後も、その町の復興を手伝い続け、娘のことを忘れずに心の中に生き続けていましたが、彼らが抱える悲しみの深さは、決して癒えることがありませんでした。

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夢の中の人 天蝶 @tenchoo

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