魔王vs勇者
世界の命運を賭けた戦い。
勇者が魔王を倒せば、少なくとも魔王の驚異からは世界は開放される。
しかし、私も私でその信念を曲げることは無い。心の奥底で間違っていて欲しいと思っていたとしても、その信念が歪むことは無いのだ。
全ては、友の為に。かつて友が“あとは任せた”と言ったのならば、私はその言葉に答えてやるしかないのだ。
たった三人。あれが私の生涯の親友達。彼らの無念のためにも、私は世界の平和の為に剣を振るう。
まぁ、振るっているのは杖だが。
「はぁはぁはぁ........」
「どうした勇者よ。その程度の力で世界に平和を等と口にしていたのか?飛んだホラ吹きだな」
「黙れ。僕はまだやれる」
戦闘が開始されてから約15分が経過した頃、その場に立っていたのは勇者1人だけであった。
私の魔法を受け止めきれず、盾使いは撃沈。死んではいないが、少なくともこの戦いで立ち上がることはもうない。
そして聖女もそれは同じ。
神の力を使い切ったのか、既に力無くその場で倒れていた。トドメをさしても良かったが、勇者がそれをさせてはくれない。
そして、勇者に気を取られている間に弓使いが2人を逃がした。
良い判断だ。動けない者が人質となる前に逃がす。かなり雑な逃がし方だったように思えるが、それでも弓使いは自分の役目を果たしていた。
かつての私と同じだな。ゾーイもクリスティナも倒れた戦場から、死ぬ気で2人を放り投げて戦線に復帰した覚えがある。
結局、私も倒れて足でまといになっていたのは否めなかったが。
「ザレン!!2人は逃がした!!」
「アリナ、良くやってくれた。後は、僕達だけで魔王を倒すぞ。少なくとも、多少なりとも消耗はしているはずだ」
「分かってるし、その為の狩人」
刹那、天井を突き破って上から矢が降り注いでくる。
なんと........!!城の外まで仲間を逃がした後に矢を放って攻撃していたのか!!
随分と私達と似たパーティーだとは思っていたが、どうやらそれは訂正する必要があるらしい。
どうやら、彼には最後まで隣で立ち勝利を目指し続ける仲間がいるようだ。
結局、私達のパーティーはザレドにおんぶに抱っこだったからな。
勇者も弓使いが何もしないわけが無いと信じているのだろう。矢が天井から降り注ぐよりも前に、素早く動き出していた。
両方の対応を迫られる。
対応自体は簡単だが、先程から勇者の動きが徐々に早くなっている。
あまり時間をかけすぎるのはマズイか。
「ふむ。ここは1つ、本気を見せると────」
「させない。私を舐めるな」
私が魔法の行使に入ったその瞬間、私の腕に衝撃が走る。
痛みには慣れているので悲鳴をあげることは無かったが、その攻撃してきたものを見て驚きを隠せなかった。
矢だ。
床をぶち抜いて、矢が飛んできていた。
上から降ってきた矢は囮だったのか。これは一杯食わされたな。
恐らくは、下の階に何らかの仕掛けを作ってタイミングを見計らって矢を放ったのだろう。
矢に魔力が大きく付与されているため、床一枚ぐらいは簡単に貫通できるはずだ。
このパーティーの心臓は、あの弓使いか。
「喰らえ!!」
「っぐ!!」
弓使いによる予想外の一撃により、動きを停められた私は勇者の剣をモロに食らう。
肩から心臓にかけて一振。
普通ならば即死する攻撃だが、私はこの程度では倒れない。
再生は........いや、いいか。これを使ってしまっては、反則というものだろう。
「油断するなよ!!アリナ!!」
「分かってる!!“超光射”!!」
勇者は油断せずに、私を確実に殺そうとその首に向けて剣を振り下ろし、弓使いは最後の最後まで取っておいただろう必殺の一撃をここで見せる、
いい連携といい仲間だ。最後の戦いで、私もこんな風にザレドと共に隣に立ちたかったものだよ。
だが、まだここで負けるのは早い。勝利を前に、敵が最後に見せる絶望にお前達は抗えるのか?
「
「「─────っ!!」」
次の瞬間、その場にあった全てが消滅する。
私の操る魔法の中でも破壊力に特化した魔法。
普通の人間ならばいとも容易く死にいたり、これに耐えられるのは人外と呼ばれるような化け物達だけである。
「ゴホッ........くそっ........」
「........」
どうやら、勇者は化け物の類だったらしい。弓使いも生存はしているが、ここで退場だ。
全身から溢れんばかりの血が流れ出し、今にも倒れそうな勇者。
私も身体を切られており、普通ならば死んでいる状態。
勇者の武器は無く、私にはまだ魔法がある。
さぁ、どうする勇者よ。
「ハッハッハ........私の勝ちなようだな」
あえて、勝利を宣言する。そうして勇者の瞳を見た時、彼はまだ諦めていなかった。
あぁ、その目だ。どんな絶望的な状況に置かれても、決して折れることの無いその目。
私はザレドの見せるその目が好きで、憧れて、未だに未練を引き摺っている。
今はなき友の幻影が僅かに見える。
奇跡は起こらない。だが、それでも手を伸ばしたものには、力が宿る。
「まだ、負けて、ない!!」
「ゴホッ、そんな体で何が出来る?」
「復讐、ぐらいなら、できる」
拳を握りしめて、ゆっくりとこちらに歩いてくる勇者。私はそんな眩しい輝きから目を背けるように、勇者を殺す気で魔法を放つ。
一発、肩を貫く。僅かに急所をずらして、即死を免れた。
二発、太ももを貫く。歩けなくなるはずなのに、勇者はそれでも前へと進む。
三発、腹を貫く。口から大量の血を流すが、英雄となる者の足が止まることは無い。
そうだ。それだ。その輝きが世界にはまだ必要なのだ。
私の友は、その輝きを上手く使う事が出来なかった。魔王を倒せば平和になると思い込んでいただけに、その輝きを最後まで平和のために使えなかった。
次は、次こそは。そんな失敗はあってはならない。
二度と同じ過ちを繰り返してはならない。
だから、勇者よ決して────
「うらぁぁぁぁぁ!!」
「ゴハッ........」
鋭い拳が私の顔面に突き刺さる。
これは痛い。肉体的にと言うよりも、精神的に来る痛みだ。
私は玉座から吹き飛ばされ、裏にあった壁に激突する。
まだ魔法は使えないことは無いが、これ以上の戦いは不要。
魔法を使う元気があれば、彼らに忠告してやらねばならない。
私が魔王になった理由は、世界平和の為なのだ。
「........よく、やったな。勇者達よ」
「うぐっ........まだ終わって────」
「終わりだ。私は世界征服のために、ここにいる訳では無いので、な」
そう言いながら、最後の魔法を使う。
神の奇跡を模した魔法による回復。失った血を戻すのは難しいが、その傷口を塞ぐ事は出来るのだ。
これを習得するのに何年かかったか数えたくもないが。神という曖昧なものを形にするのは、骨が折れる。
「なっ........!!」
「最後に、忠告だ勇者よ。かつての勇者は魔王を倒したが、世界が平和になることは無かった。むしろ、悪化したのだ........その力の使い方をよく考え世界の為に使ってくれ........私が間違っていたと、証明してくれ。城の裏にある小屋に行くといい。物語の結末がどのようになっているのか、それを知ることが出来るだろう」
流石にもう力が残っていない。私はそう言うと静かに目を閉じた。
どうせ真の意味で私が死ぬ事は無い。
彼らがもし........万が一歴史を繰り返すようなら、また魔王としてこの世界に現れなければならないのだから。
だが、その役目は一旦終わりだ。少なくとも、魔王が存在していた時よりは平和な世の中を作ってくれ。
私はそう思いながら、静かに目を閉じるのであった。
後書き。
次回最終回です。
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