英雄の影を追って
ザレンの住む村が魔王によって活性化した魔物達に襲われてから、二年という月日が経った。
妹を残し他界した両親の墓を立て、魔王を討伐して世界に平和をもたらす事を決意したザレンは、まだ幼い妹を村の生き残った人に預けて旅に出る。
本当なら妹の成長を見守りたかったが、ザレンは親の仇を選んだのだ。
幸い、ザレンには類まれなる才能があった。
普段から農業の手伝いばかりをして、その手に剣を握ったことが無かったから彼は知らなかったが、ザレンは天才と呼ばれてもおかしくない程に剣の才能があり、そして高水準の魔法の才能も持っていた。
ザレンの旅は順調に進むかと思われたが、やはり子供一人での旅は何かと危険が伴う。
路銀を稼ぐために冒険者という職に付き、1人で全てをこなしていたザレンであったが、1人では限界を感じていた。
特に、夜の火番は辛いだろう。いつでも動けるように浅く、そして座って寝るために十分な休息を取る事が出来ない。
寝不足のまま魔物との戦闘になった時には、軽くだが傷を負った。
そこで、ザレンは仲間を募ったのである。
「魔王討伐の為に旅をするだぁ?馬鹿げてんのか。他を当たれ」
「魔王討伐?悪いけど興味無いわ」
この世界を恐怖に貶める魔王。
そんな魔王を倒して平和をこの世界にもたらそうと言う話をしても、誰もまともに取り合ってくれない。
それもそのはず。冒険者という職業は、魔物を狩ったり薬草を採取したりと、街の外での仕事を請け負う組織だ。
特に儲けの出る魔物の討伐の仕事は冒険者から人気が高く、魔物が活性化して人里に顔を出すことが増えた昨今となっては魔王は金稼ぎの道具とすら言われている。
そんな稼ぎ口を易々と潰すような愚か者は少ない。
そして噂に聞く魔王の脅威が人智を超えたものであると耳にした彼らが、命を投げ出すような選択を取るはずもないのだ。
「........今日もダメか。魔王が出てきてくれたお陰で稼ぎ口が増えた?ふざけるなよ。その稼ぎ口のために、何人の人々が犠牲になったと思っているんだ」
ザレンは強く拳を握りしめて、どうして理解されないんだと思ってしまう。
彼はまだ11歳の少年であり、この世界のことをよく知らない。
活性化した魔物によって全てを奪われたことがある者ならば、その志を理解するだろうが、大きい街に住む者達は被害に遭っているものが少ないのだ。
だから、魔王という驚異を正確に理解していない。
「見つけた。貴方ね?魔王討伐を掲げてパーティーを誘う変人ね?」
「........冷やかしなら帰ってくれ」
「そう。折角面接に来たのに残念だわ」
しかし、世の中には様々な人がいる。
弓矢を背負った一人の少女が、ザレンに声をかけた。
ザレンは昨日、面接に来たと言ったはずの冒険者が実は冷やかしに来ただけだったと言う事もあり、警戒してしまう。
が、その目を見て考えが変わった。
凛とした静かな目。獲物を決して逃さないであろうその目は、あまりにも鋭い。青白く光る長い髪を揺らしながら、後ろを振り向くその少女をザレンは引き止めた。
「ま、待ってくれ!!」
「何?面接はやってないんでしょう?」
「やっている!!冷やかしなら帰れと言っただけ!!本気でパーティーに入ってくれる事を考えている人は、ちゃんと面接するから!!」
「そう。良かった」
少女はそう言うと、ザレンの前に立つ。
「年下に面接されるのに抵抗は?」
「無い。あったらここにいないわ」
「それもそうか。よし、なら適当な店に入ろう。そこで、僕の話を聞いて欲しい」
「........面接って質問されるんじゃないの?」
少女は可愛らしく首を傾げつつも、ザレンの後に続く。
適当な店に入った2人は、夕食がてらに軽い料理を注文すると早速面接が始まった。
「まずは自己紹介からだね。僕はザレン。冒険者だ」
「アリナ。同じく冒険者よ」
アリナはそう言うと、先に出された水を飲む。
「パーティーに入りたいという話でいいんだよね?」
「そうでなければ話しかけない」
「僕は魔王を討伐するために旅をしている。その旅路はとても辛く、困難な道だ。それでも着いてくる気はあるのかい?それと、命の保証はしないよ」
「それも分かっていて面接に来ている。私は、魔王を狩ってみたい」
その言葉はあまりにも衝撃的だった。
魔王を“倒す”のではなく、魔王を“狩る”。
まるで狩人のような言い方だ。ザレンは言葉の綾かと思い、一旦その言葉はスルーした。
「........僕は魔王によって家族を失った。必ずこの手でその仇を打ち、そして世界に平和をもたらそうと思っている。アリナはどうして魔王を討伐したいんだ?」
「今言った。魔王を狩ってみたい。私はね、強いやつを狩ってみたいの。ここら辺で聞く強い魔物達は粗方狩り尽くしちゃったし、次は魔王でも狩ってみようかなって」
言葉の綾ではなかった。
ザレンはてっきり、自分と同じ志を持った高潔な魂を持った正義感溢れる少女だと思っていた。
しかし、そこにあったのは単なる好奇心のみ。
人によっては頭の心配をしてしまうほどに、彼女は狂っていたのだ。
「そんな理由で?」
「魔王を狩るのに、悲劇の物語が必要?貴方は魔王を倒したい。私は魔王を狩りたい。利害は一致している」
「1人でやらない理由は?」
「おそらく貴方と同じ。1人では限界がある。戦闘の面ではなくて、旅の面で」
そこには絶対的な自信があった。
自分は強いが、それでも旅となれば1人では厳しい。だから、利害の一致している相手と組む。
それだけなのだ。
「好奇心だけで魔王を倒したいのか........」
「悪い?」
「いや、僕にそれをどうこう言う資格は無い。多くの冒険者達からすれば、魔王討伐の為に旅をしている僕も同じだからね」
「そう。笑わないのね」
「笑うところ、あった?」
ザレンは少しばかり志が違うことを残念に思いながらも、贅沢は言ってられないとしてアリナをパーティーの一員に加える決断をした。
魔王討伐の為に、必ずしも皆が同じ理由を持つ必要は無い。
結局のところ、魔王を倒せさえすれば世界は平和になるはずなのだとして。
『おい!!お前魔王討伐を目指しているんだって?アタシも入れろよ!!』
『君も魔王に家族を奪われたのかい?』
『は?何言ってんだ?アタシはアタシよりも強いやつと戦ってみたいだけさ!!魔王ってのは強ぇんだろう?アタシとどっちが強いか勝負したいのさ!!』
『........はぁ?』
それは奇しくも、かつて魔王討伐の為に立ち上がった勇者ザレドの最初の仲間大剣豪ゾーイとの出会いと似たようなものであった。
その物語はザレドの英雄譚には描かれていない。
物語とは、できる限り綺麗に、そして読む者が気持ちよくなるために作られている。
英雄譚に出てくるゾーイとの出会いは、高潔な心を持った正義に溢れた剣豪として書かれているのだ。
偶然、村を襲っていた魔物たちを討伐していた所で出会い、仲間になったとされている。
だから、ザレンはこの出会いが勇者と似たような状況であることを知らない。
「取り敢えず、魔王を倒したいのは分かった。今は贅沢も言ってられないからね。よろしく、アリナ」
「よろしく。貴方が話のわかる人でよかった。ところで、好きな食べ物は何?」
「え?........えーと、パプルっていう野菜を焼いて塩で食べるのが好きかな。家でよく食べてたから」
「そう........お肉なら狩って来てあげたのに。パーティー結成の記念として」
「意外と真面目だね?」
「そうかもしれない」
こうして、英雄譚では語られなかった本当の勇者の物語を辿るザレンは一人の仲間を手に入れた。
英雄の影を追い、果たして彼は何を成し遂げるのか。
その結末がどうなるのかは、まだ分からない。
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