マホウツカイゲヱム ~自分探しの果てに俺が神になるまで~
@TeTo_peTTenson_TanTon
第一章
第1話 俺の夢は『神様をぶん殴るコト』だ。
突然だが、おまえらは夢ってあるか?
俺の夢は『神様をぶん殴るコト』だ。
すまん、嘘ついた。
本当は夢なんて持ってない。夢も希望も魔法もない。あるのは金だけ。それも親の金。まあ、自由に使わせてもらえるから実質俺の金ってことで。
つーかなんだよデマカセもいうに事欠いて『神様をぶん殴る』って。神様なんてどこにいるんだよwww。
……いるんだったら、とりあえずこんな不公平な俺をどうにかすべきだ。
俺は、どう考えても満たされすぎている。
世の中が面白くないからと引きこもった俺を、責めるでも励ますでもなく我儘に育ててくれた両親、そんな俺を後目にしっかりと社会へ羽ばたいていった弟、そして俺が生まれる前にベンチャーな起業で大成功を収めた両親の安泰な収入。
家族にも環境にも恵まれた俺は甘やかされ、求めずとも何でも手に入り、努力を経験することなく成長してく。そうして高校を卒業する頃には、何をしてもそれなりに上手くいくが壁にぶち当たるとすぐ飽きてしまうなんにも手につかない青年が出来上がっていた。
何をしたってそれなり以上優秀未満。不幸はないが決して幸福は感じない。
欲求がないから意味がないのか、意味がないから欲求もないのか……『何の結果も残せない』は次第に『何をしたいとも思わない』へと変わり、最後にはなんにも興味が湧かないニートに仕上がった。
当然、進学にも就職にも意味を見いだせなかった。
だって、頑張ったって頑張らなくったて俺の生活も評価も変わらないのだ。だったら、やりたいことだけやりたいようにしてるのが一番じゃないか。
その上、進学しろ就職しろと口喧しくする身内もいない。ニート以外に何になれっていうんだ?
あ、多才な俺にも欠けてた才能があったわ。
コミュ力だ。
知識も能力も全部が全部、自分自身で事足りる――それ以上を望まない俺にとって他人と交流する、つまり他人に気を遣うのは面倒の一言だった。
そうして外の世界との繋がりを断った俺は高校卒業後数年でヒキニートへとランクアップした。それから幾年月。
気が付いたらこれだ。
「どうしてこうなった……?」
独り言ちる声は俺を包むように広がる『あお』に溶けて消えていった。
そう、上も下も右も左も前も後ろもぜんぶ『あお』。あお、アオ、青、蒼、藍、碧――あらゆる青色を内包したかのようなカラフルな『あお』に染まっている。
「まるでこれは……」
あれだ、ほら、ユニ? いやユウニ? ウユニか。
「ウユニ湖だな」
そう、アニメとかでたまに見かけた空の色が映りこむ浅い湖にそっくりだ。俺が立っている場所は水面で赤いスニーカーの足元が濡れもしない……いや待て、なんで俺水面に立ってんだ。どこの忍者だ。
いや待て待て、水面に立ってるとかもしかして俺死んだ? もしかしなくても死んでね?
うわー、マジか。死んだか、俺。じゃあここはあの世か。いやでもさ、この綺麗な見た目は天国っぽいけど、こんなに何にもないところに放り出されて延々とここにいなきゃいけないんなら地獄だぞ。
まいったなー、そもそも俺、死後の世界とか信じてないんだけどなー。
「つーかそもそも俺なんで死んだ?」
我ながら今更な問題に今更気が付いた。よし、思い出してみよう。もしかしたらここがどこなのかわかるかもしれない。
まず、俺の最後に記憶している場所は……勿論、自分の部屋だ。うん、異常なし。
で、部屋で確か暇つぶしにダウンロードしたスマゲを弄ってたんだな。
そして……あれ、えーと……そこから先の記憶が、曖昧? コンビニ行ったっけ? いや、自家発電? あれ? どれもしてたような気がするけどどれもしっくりこない……。
そもそもどんなスマゲしてたっけ。
タイトルは……そう、『マホウツカイゲヱム』だ。
プレイヤーは魔法使いとして他のプレイヤーとコマンド式バトルでバトるアリーナ系のゲーム。
スマゲにしては珍しく、基本的なガチャは主にコスアイテムの癖に、そのキャラが『どんな魔法を使うか』という一番大事な部分がガチャ次第、しかも引き直しも変更も不可。という聞くだけでもクソ仕様なのに十周年とか謎の長寿を誇ってるのが不思議で手を出したゲームだ。一息に考えたら疲れた。
そこでキャラメイクして、魔法を決めるガチャ引いて、星1とかどうしようもないの引いて爆死して……それでもどうせ暇だからとしばらくプレイしてたんだ、んで、一通りコンテンツを開放して、ゲームの流れを掴んだからもういいやってアンストして、スマホをベッドサイドに放り投げて、ベッドに横になって……記憶はそこで途切れている。
なるほど。つまりそういうことだ。
眠りは死のいとこ。
これは夢だ。たまに見る、現実と夢との区別がつかない夢。
何にそんなに疲れてんのか知らないが、俺、相当疲れてんだな。不思議。
「そうか、夢か。だとしたらウユニ湖とかベタすぎだろ」
うん、ベタすぎて恥ずかしいので思わず大声で一人ツッコミ。
まあ、誰もいない、どこからも反応が返ってこないとわかってるからできる芸当で普段の俺じゃ――。
(ここはあなたの精神世界です)
うおわぁ、びっくりしたぁ。
いきなり、澄んだ女性の声が応えた。可憐で、凛としていて、少女とも妙齢ともつかない不思議な声だ。ただ、綺麗すぎてちょっと落ち着かない気分にさせられる声音でもある。
びっくりしすぎて声も出なかった俺を別の意味に捉えたのか、少女の声は幾分か調子を柔らかくして続けてきた。
(警戒なさらずとも良いのです。わたしはあなたを導くものです)
「うおお、頭に声が直接響くってこんなに気色悪いのか。なんか脳が震えてる感じ」
(申し訳ありません、姿をお見せできぬ故、こうしてお話しするしかないのです)
「はあ、それって神様ルール的な?」
(解釈はお任せします)
「なるほど……うん、女神様はギリセーフだな」
『神様をぶん殴る』云々の話だ。口から出任せとはいえ言ったからには責任を感じる男、それがワイ。そもそも姿が見えねーから殴りようもないが。
(セーフ? なんの話でしょうか)
「こっちの話でしょう」
はぐらかす。
今のでちょっと面白いことが分かった。
この女神様もどき、直接頭の中に話しかけることは出来ても、思考を読むみたいなことは出来ないらしい。
神様本人なんじゃなくて案内役的な存在なのかもな。
「で、ここがなんつってた?」
(ここはあなたの精神を抽象的に再現した世界です)
「道理でな、静謐で神秘的なわけだ」
(そのむさくるしい無精髭面でよくまあそんな掌返しがほざけますね。しかもなんだか臭いません?)
「え、なんかテレパシーに体臭までディスられた。まあ、四日ほど部屋に閉じこもってたからな」
(……さて、わたしはさっさとあなたを導かなければなりません)
あれ、なんかテレパシーが遠くなった。さては俺から距離をとったな。それでなんでテレパシーまで遠くなるのか知らんが。別にいいけどさ、俺もあんまり知らない人とお喋りしたくないし。姿も見せない胡散臭い女神もどきなら尚更だ。
「で、女神様はどこに俺を導いてくれるんだ」
どこにいても面白くないことに変わりはないが、こんなゲームもテレビもないところにぼけっと突っ立っていたいわけでもない。面白くなくとも暇つぶしは必要だ。ここよりマシなところならどこにでも導かれよう。
(……これから、あなたには一つの選択をして頂きます)
あれ、なんか声のトーンが冷たくなった?
まさかさっきはぐらかしておちょくられたので機嫌を損ねた? あの程度で?
意外と子供っぽいのかな、この女神様。扱いに気を付けたほうがよさそうだ。機嫌を損ねすぎて罰でも当てられたら大変だからな。
「あー、それで美しい女神様はわたくしめに何を選択しろと仰る?」
(あからさまなご機嫌取りは結構です)
声に怒色まで混ざってきた。どうやらいきなり失敗したらしい。
「じゃあ、話を進めないか?」
(話の腰を折っていたのはあなたですがまあいいでしょう。さあ、あなたの右手をご覧なさい)
右手……? あえて左手を見てみる。
(小学生ですかあなたは)
呆れられた。
今度はちゃんと右手を見てみる。
右手には特に異変もなく、見慣れた自分のスマホが握られている。外に出ないし興味もないからカバーもストラップも何もつけてない、シンプルな見た目のハイエンドスマホだ。
「特に何も見当たらないが?」
念の為、スマホを左手に持ち替えて右手を矯めつ眇めつ……やはり俺の恋人の姿はいつもと寸分違わない野郎の手だ。
(ああもう、スマホ! スマホを見るの!)
あ、女神様がキャラ崩壊した。なるほどそれが素なのか。
「そっちの方が気取ってなくて可愛いと思うぞ」
どこにいるかわからないから無駄に青い空に向かってキメ顔を向ける。
(キモ顔は結構ですからスマホを見て下さい)
殺し文句を一蹴された。ついでにキャラも戻った。
んでキモいだって。自覚あるからいいけど。結構本心だったんだけどな。まあいいか。
ちょっとしょんぼりしながらスマホを見る。背面にはカメラが四基、指紋センサー、それくらいしか見当たらず、どれもいつも通りの佇ま――。
(いい加減にしないと怒りますよ)
もう怒ってると思うけど、これ以上はさすがにまずいかなと思ってそっとスマホの画面を見る。
そこには、見慣れない映像が映っていた。
青い背景の中央に回る、複雑怪奇な球形魔方陣。魔方陣を構成するのは東洋の呪符系にも西洋のカバラ系にも見えるが、つまるところ出鱈目なのかもしれない。聞きかじりの俺にはわからん世界だ。
まあ、そんな如何にもって感じの魔法陣の上方、つまりスマホ画面の上の方には矢印が点滅している。スワイプしろってことか?
今気づいたんだが、スマホを動かすとわずかに背景の青の濃淡が変わる。これ、手抜きなブルースクリーン背景じゃなくて、俺の足元の青が映りこんでるのか。つまりこの背景はAR? 何のために?
まあ、スマゲのガチャ演出に何のためなんて考えても詮ないんだろうけど。
そう、この画面は見慣れないものの、見覚えはあった。
ここに至るまでプレイしていた『マホウツカイゲヱム』のガチャ画面にそっくりだ。AR背景以外。
つまり選択とはこのガチャを引けってことか?
「なあ、このガチャを引かなかったらどうなんだ?」
(その時はあなたはこのまま永遠に自我を持ったままこの空間を彷徨うだけです)
わ、素敵。選択肢なんて実質ない選択って選択って言うの?
そう思いつつも口には出さなかった。舌を噛みそうだったから。
(わたしの提案する選択とはそのことです。選びなさい。ここで無為の安寧を甘受するか、新たな世界で危難の生を謳歌――)
女神様がなんか言ってるが俺は気にせず魔方陣を画面上部にスワイプした。
(ちょっ、まだわたしのセリフ終わってないんですけどっ!?)
「いやだって、選択肢ないし」
(結構練習したのに!)
「いや知らんし」
(ああもう、まだ説明することいっぱいあったのに知らないんだから!)
「そんなツンデレキャラみたいな――いやまて、説明あったの?」
スマホの画面上では打ち上げ花火のように打ち出された魔法陣が画面の中を上昇していき--画面上部から飛び出して俺の頭上で展開した。なにこれ眩しい。
「っくりしたぁ……」
(とにかく、リスポーンは九回まで、十回で世界から消滅ね。じゃ、あなたの危難を楽しんで!)
物騒で早口な女神の送る言葉と一緒に、世界を包んでいた青が頭上の球形魔法陣に吸い込まれていき、何もない空間に一人取り残される。
さてどうしたものかと思案する前に、俺の手の中でスマホが震えた。
画面の中央には大きな白塗りの星が一つと『強化』の一言がでかでかとあった。
上部にはやや小さく『魔法を手に入れました』との文言、下部にも何か説明文のようなものが……どうやらこれがガチャの結果らしい。
どれどれ、なんか星1で『強化』って時点でハズレな気もするが説明はっと……『強化されます。』だって。
「説明になってねえし!」
思わず叫んだ言葉が耳に木霊している間に、俺は新たな世界に降り立ったようだった。
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