最後の人類と沢山の花嫁

@yukkurikain

第1話 平和な日常……?

2XXX年7月03日 晴れ 基準時17時47分 軌道エレベーター下


「おーい、そっちの作業完了したかー?」

そう言いながら後輩に声をかけるもまだ終わっていないだろう。

「今、最終点検やってますー」

案の定、後輩は視界共有ヘルメットを装着したままだ。上を見上げると建設途中の軌道エレベーターの壁面に何体もの施工ロボットが張り付いている。その内、後輩の制御下にいるロボットがせわしなく動いている……と思ったら動きを止めてスリープ状態に移行した。作業が終わったのだろう。

「お疲れさん」

ヘルメットを脱いでいる後輩にむかっていく。

「お疲れ様です、先輩」

「今日も飲みにいくか?」

そう言うと、後輩はジト目になりながらこちらを見た。

「マジで先輩は産まれる時代が100年は遅いですよ」

「だよなぁ、俺もそう思う」

そんな会話をしながら現場から離れていく。明日から連休だ。久しぶりに宇宙に出たい気分だった。


2XXX年7月07日 曇り 基準時02時22分 とある自宅内


【現在、ゲームの連続起動時間が6時間を超えました。一度お休みしませんか?】

そんなメッセージが視界に入ってきたものの無視してゲームを続ける。没入感を阻害されたことで若干の苛立ちを覚えた。しかしそちらに気を取られるとゲームオーバーになってしまうので意識を眼前のモンスターに戻す。連続して吐き出される炎を回転回避で避けていくが一発だけ腕をかすった。若干の暑さとともに体力が少し減る。しかしそれを気にせずにパーティーに声を掛けた。

「専業カブト虫さん、そっちいった!! 」

「ありがとう! 」

そういいながら専業カブト虫さんは盾でモンスターの突進を受け止めた。

「ゲーム世界が現実さん、ここで決めましょう!! 」

専業カブト虫さんからの合図と共にモンスターの頭部に攻撃を叩き込んだ。


モンスターを無事に倒し終えた後、専業カブト虫さんとギルドの酒場で宴会を行っている。現実では食べられないような大量の料理も味だけ感じることができて実際には腹は膨れないこの世界だと無限に食べられる。そんな中、専業カブト虫さんがテーブルから立ち上がった。

「いやぁ、お疲れ様です。ゲーム世界が現実さん、今日もありがとうございました! 」

「専業カブト虫さんはログアウトですか? 」

「はい、そろそろ限界時間なので…… 」

「おっと、僕もでした。じゃあ今日は解散しましょう、お疲れ様です! 」

「はい、ゲームが現実世界さんもお疲れ様でした!! 」

そう言いながら専業カブト虫さんはログアウトしていった。それを確認した後に残った酒を一口飲んで、ゲームからログアウトする。意識が一気に現実に引き戻される。現実の体に意識が戻った瞬間、かなりの疲労感と頭痛に襲われた。

「あー……疲れた…… 」

そう言いながら後頭部に刺さっているプラグを抜き、ベッドに横たわる。意識は直ぐに深い眠りに入っていった。


2XXX年7月11日 晴れ 基準時11時30分 宇宙戦闘艦D―117艦内


人が1人なんとか眠れそうなカプセルが一斉に開いていく。中には同じ顔を持った女性達が眠っていた。全員が青髪短髪であり体型すら同じだ。その全員が次々と目を開けてカプセルを出ていく。時折「おはよう」なんて声が聞こえるものの大部分は静かに移動していった。全員が揃って食堂に移動していく。次々にペースト食を受け取り席に座っていく。さすがに数百人が集まった食堂ではガヤガヤとうるさくなっていった。

「おはようー」

「おはよう、ここ座る? 」

「うん、お邪魔しまーす」

そんなガヤガヤしたアンドロイド達の中でも一際元気なアンドロイドが、友人らしきアンドロイドの前に座った。

「ねぇねぇ、D―118の話聞いた? 」

「任務のこと? 」

会話の内容はもっぱらD―118戦闘艦のことだ。D―117戦闘艦の僚艦であるD―118戦闘艦は現在、軌道爆撃訓練から離脱し戦闘艦隊S―007に合流している。D―117戦闘艦も合流予定とされていたが起動爆撃訓練中のミスで艦外壁の一部が損傷していたため修理優先で居残りになっていたのだ。

「D―118の娘達に話聞いたんだけど、外縁部へ向かうことだけ教えてくれたんだよね」

「へぇー、探索任務か何かかな? 」

そんな風に話している二人組に別のアンドロイドが割り込んでくる。

「探索任務なんかじゃないわよ、S―007艦隊なんだから! 」

「あ、おはようー。S―007艦隊ってそんな特別な艦隊だったっけ? 」

「あんたねぇ……S―007艦隊って言ったら連合艦隊の最高戦力でしょ?それが訓練中の私たちみたいなのも加えようとして外縁部いくなんておかしいでしょ! 」

後から来たアンドロイドはとても怖がっているようだ。対照的に最初の2人は楽観的だ。

「えーもしかして私たちが優秀だから訓練に連れていってくれようとしただけかもよ? 」

「……それはないにしてもさすがに考えすぎじゃない?それに例え外縁部に何かがあったとしてもそれこそS―007艦隊なんだから大丈夫でしょう」

「……それは、そうかもだけど…… 」

「そんなことより、早く食べよ? 」

「……うん…… 」

結局、S―007艦隊の話はそこで終わり、殆どの会話は日常的なものに戻っていった。しかし……


2XXX年7月20日 晴れ 基準時21時43分 連合艦隊司令部

「げ、現在……S―007艦隊より通信……艦隊壊滅とのことです…… 」

終わりの時は確実に近づいている。

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