友達以上、恋人未満

@tubotuboaoyam

私の演劇友達

 私には、特別に想う人がいる。彼女は他大学に通う同い年の女性で、私と同じくらいの背丈を持ち、芯のある考え方をしている。華奢な体の内に大人びた価値観が宿り、化粧をしなくても自然な美しさを放つ。そんな彼女とは、なぜか今も観劇友達として関係が続いている。頻繁に会うわけではなく、テキストのやり取りに不安を覚えることもあるが、実際に顔を合わせると、彼女はいつも穏やかで優しい。恋愛に重きを置く私とは対照的に、彼女は一人でしっかりと立っているように見える。彼女の異性関係について私は何も知らない。もしかすると結婚しているかもしれないし、特定の相手がいるのかもしれない。私自身が鈍感なため、そのような兆候に気づきにくいのがもどかしい。彼女は心の中で私をからかっているのかもしれないし、あるいは私を恋愛対象として見ているのかもしれない。それとも、どちらでもないのかもしれない。だが、それらすべてを超えて、私たちは演劇を愛し、一人の時間を大切にするという共通点でつながっている。


 彼女との出会いは高校3年生のときに遡る。彼女は当時から長身で、美しい顔立ちをしており、私の憧れの存在だった。シンプルな服装でも、その白い肌とすらりとした姿が際立っていた。当時の私は、部活動の同期との関係に悩み、現実逃避の手段を求めていた。体育祭の会計係を引き受けたのは、そんな時だった。そして偶然にも、彼女も同じ役割を担っていた。彼女と話すきっかけを探していた私に、思いがけずチャンスが訪れた。体育祭の会計は本部・赤団・青団・白団に分かれており、私は白団、彼女は青団に所属していた。通常なら異なる団の会計係同士が交流する機会は少ない。しかし、私は荷物の検品の日に狙いを定めた。その日、白団のメンバーが忙しく、検品に立ち会うのは私一人だった。そしてそこに現れたのが、青団の会計長と彼女だった。私は積極的に検品と資材運搬に関わり、彼女の関心を引こうとした。狙い通り、彼女は話しかけてきた。私は当時、部活の同期の一人に想いを寄せており、そのことを彼女に打ち明けた。慎重な性格の彼女はなかなかインスタグラムのアカウントを交換してくれなかったが、次第に会話が増え、彼女の友人たちも紹介してもらうようになった。受験が本格化すると、私は難関大学を目指す部活の同期と疎遠になり、彼女との会話の機会がさらに増えた。毎週水曜日の6時間目と7時間目の間、その短い時間が私にとって何よりの支えだった。彼女の飼っている犬の話、受験勉強の悩み、定期テストの結果、受験期に成立したカップルの話、私が出演したクラス劇のこと、紅白歌合戦の感想、クリスマスに欲しいと言っていたプレゼントのこと──思い返せば話題は尽きることがなかった。


 ともに現役で大学に進学し、今では彼女と親しくしている他大学の人の中で、私は最も近い存在だと信じている。彼女は私に会うと嬉しそうな表情を浮かべ、大学生活や演劇の話も弾む。高校時代と変わらず、彼女は私に演劇仲間を紹介してくれた。一方で、私はかつて絶縁状態となった部活の同期とよく通っていた劇場で案内員の仕事を始め、演劇への理解を深め、柔軟な考え方を身につけていった。振り返ると、そうした経験の積み重ねが、彼女との距離を縮めるための最低限の条件だったのかもしれない。私は部活の同期との不和についてほとんど誰にも話さなかったが、彼女にだけは打ち明けることができた。彼女は私の同期のことをほとんど知らず、それがかえって適度な距離感を生み、私にとって心の拠り所となった。部活の同期との縁が切れ、後輩とも深く関われない状況の中、彼女がそばにいてくれることは何よりも大きな支えだった。彼女自身もまた、人との関係を限定的にする傾向があることを話していたが、私は彼女がもう少し多くの人と関わりを持つことを願っていた。そんな中、彼女が通う大学の劇団の仲間と良い関係を築いている様子を見て安心したし、私の大学にいる彼女の親友が支えてくれていることも心強かった。彼女の周囲に信頼できる人が増えていくのを知るたびに、私も同じように信頼される人間になりたいと思う。しかし同時に、そんな彼女と一緒にいられることが、何よりも嬉しくもあった。彼女は大学卒業後、どのような道を歩むのだろう。同じ大学の中でここまで気になる人はいないのに、彼女のことだけはつい目で追ってしまう自分がいる。


 彼女と会えることが嬉しく、また、限られた人間関係の中で凛と生きる姿に、自分もそうありたいと憧れる。彼女とは最終的に結ばれないかもしれない。それでも、彼女の生き方は私にとって変わることのない模範だ。今すぐに触れたいという衝動に駆られることもあるが、今はその時ではない。彼女と対等になり、お互いの人生に良い影響を与え合う親友として、この関係を大切に育んでいけたらと心から願っている。

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