『空恐ろしい』

蒼原悠

本文




「君の空、何色?」

「晴れてるよ。綺麗な空色。そっちは?」

「変わらないさ。真っ黒だ」


 そっか、と携帯越しに君がつぶやく。見上げれば、モノクロに輝くビルの彼方を、漆のような空が覆っている。

 もう二ヶ月になるね、と君は言う。


「私達、もう、ずっとこのままなのかな」

「そんなことないよ。黒い空は少しずつ広がってるらしい。いずれ君の街もに飲まれる」

「そんな……」

「まだ怖がってるの?」


 僕はお道化どけた。あの黒い空が街を飲み込むとき、何が起こるのかは実のところ知らない。二か月前の朝、目が覚めたときにはが僕らの頭上を覆っていた。けれども僕は変わらず生きて、こうして君と会話できている。


「携帯の電波だって通じてるだろ。生活上の不便だって何もない。心配しないで、早くこっちの世界へおいでよ」

「いやだ。怖いよ」

「たかが空の色が違うだけじゃないか」

「……やっぱり覚えてないんだね」


 君はぐっと息を飲んだ。


「二か月前のあなたは、私を名前で呼んでいたのに」


 通話の切れた形態を僕はじっと見つめる。暗転した画面には、あの黒い空と、白目のない僕の笑顔が映っている。

 空は今日も広がっている。

 すべてが黒に包まれる。

 いつか、君のことさえ。



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『空恐ろしい』 蒼原悠 @shakefry

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