言い訳が思い付かないので

「マーレイ達は事後処理の為しばらく戻ってこないので、楼人はここで休んでいて下さい。魔力を使って体力も消耗されてると思うので」


 ウェルターの家族についてたずねてみようと思ったら、先にウェルターが口を開いたので聞き役に回る。魔力……そういえば俺、あの時やっぱり魔法を使ったんだよな?

 今まで魔法の気配なんて全くなかったのに、あの時急に思い出したように力が沸いてくるのが分かった。


「道すがらアダインから軽くお話はうかがいしました。私のためにご無理をさせてしまって申し訳ありません」


「い、いや……俺も必死だったから。魔力検査では精霊の気配も魔力の程度も測定不能だったけど、結局俺は何の力を持ってたの?」


「――それが、ですね。これがかなり異例中の異例の出来事でして、マーレイが今その件について人間の皆様へ対応している所だと思います」



 俺の発動した魔法そのものがとてもレアな力らしく、更に『魔王』の血筋の者に現れるといういう事が有り得ない事なんだそうだ。



「現在の魔王様に至るまで、歴代の魔王様の精霊のお力は『闇』や『炎』等の強い支配の力が宿るのが一般的でして『聖』の精霊の加護自体がそもそも珍しいのですが……」


「俺はその珍しい『聖』の精霊の力を持ってるって事?」


「はい。それにこの何百年もの間、その力を持った魔族は現れておりません」


「え? ……でも」



 俺の母さんは『聖』の力を持った魔族じゃないのだろうか? ふと口をついて出そうになった言葉を飲み込む。ウェルターが複雑な表情で顎に手を当てていた俺に視線を注いでいるのを感じる。



『――楼人、この「コト」は私とアナタだけの秘密よ。でも、時が来て信頼できる大切な人達が出来たら……この力を使って皆を守ってね。貴方ならきっと――』



 俺と母さんだけの秘密……。そう、あの時母さんはそう言っていた。恐らく、母さんは自分の力の事を誰にも打ち明けていなかったんだ。そして自分の息子である俺にも同じ力が宿ったのを悟って俺の将来を案じていた。



「『聖』の力については情報がとぼしく、未だに完全に知見が広まってないのが現状なんです。怪我を治癒したり、強力な結界を張ったり、はたまたよみがえりの術すら可能なのではないかと言われています」


「蘇り……って、ゾンビみたいな? それとも本当に亡くなった人がそのまま帰ってくるの?」


「あくまでも可能という話だけですので、実際にそんな事が行われたという実証も事実もないですし、先程お伝えした通り『聖』の力を持つ魔族すらおりませんので」



 もし本当にその力で死者が蘇ってしまうなら、もはや生態系を完全無視してしまう事になる。でも、誰もが一度は夢にみると思う。不老不死だとか不死身の身体を得るという願望。



「怪我の治癒に関してだけでもその力は偉大ですから、その力を求めて悪巧みを考えるやからに狙われる可能性もあるので、実際にはその力を持っていても伏せていた者もいたのかもしれませんけど」


「……そう、だね」



 きっと母さんもその一人なのかもしれない。誰にも打ち明ける事なく、先代魔王と何の因果か巡り合い、俺が産まれた。でも、さすがに実の父である先代魔王には打ち明けていたんじゃないだろうか? 二人とも亡くなってしまった今は永遠に知ることが出来なくなってしまったけど、そうであって欲しいと願う。

 誰にも相談できず、ずっと孤独に自分の力と一人で向き合っていたとは思いたくない。少しでも気を抜いて安らげる場所があったならば良いなと思った。



「恐らく、楼人が『聖』の力を使った事は人間の皆様にも知られてしまっています」


「あ、そうか……そうだよね。さすがに大怪我した人が一瞬で治癒した所を見たら分かるよね」



 あの時はとにかく何とかしないとと、周囲に誰がいたのか考えもせずにすぐ力を使ってしまったけど、あの場には人間のスクラム達がいた。俺が本当に魔王なのか疑う発言もしてたし、完全にアウトだろう。


「もはや何を言い訳にしても貴方様が魔王でない事を隠すことは不可能と判断し、マーレイは事実を公表すると言ってました」


「――ご、ごめんなさい俺のせいで。どのみち結界の力の方でもいずれバレちゃうような気がしたし……皆の力になるつもりが、迷惑ばっかりかけちゃったね、情けないや」


「迷惑? とんでもないです。むしろ私達の方が貴方に大変な負担とご迷惑をおかけしてしまって申し訳ないです」


 日本人同士のよくある『いやいやこちらこそ』と言い合うお辞儀合戦のごとく、俺達は互いにペコペコ頭を下げて謝り合っていて、不意に視線が重なると――どちらともなくふっと笑いが込み上げた。



「明日、戻ってきたマーレイ達と状況報告や今後について話し合う事になってますので、ひとまず今日はもうお休み下さい」


「――わかった。ウェルターもこの部屋出て行っちゃうの?」


「ええ、マーレイ達と合流してきます。部屋のその外には護衛がおりますので、何か困り事があれば彼らに相談してくださいね」



 魔法で治癒したとはいえ、先程まで瀕死ひんしの状態だったウェルターの事は心配だけど、止めたところで彼は『大丈夫』と言い張るのだろう。

 人の心配ばかりするウェルターにこれ以上を負担を掛けない為に、聞き分けよく頷いてみせた。


 シャワーで汗を流してベッドに潜り込んではみたけど、全く眠れる気がしなかった。




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