第3話

 そうして、現在に至る今まで何度か良いことや悪いこと含め相について告げられたが、大きい小さいに差はあれど、全て当たっていた。

 人の相については分かるが、自分についての相だけはどうやっても見えないらしい。



 そんな彼女が「良くない相が出ている」という言葉は、長く付き合ってきた私に取ってはとても重い言葉であった。

 出来れば言わないで欲しい気持ちもあるが、悪い事に関しては回避する努力をすれば全ては難しいかもしれないが、ある程度軽減できる可能性がある事も多いらしいので、包み隠さず伝えて欲しい……とお願いしている。



 既に良くない事しか最近起こってないので、更に何か起きるという事だろうか……。明らかに落ち込む私に対して、美来は私の顔から一切目を逸らさず、何かを見定めるかのように真剣な表情だった。



「うーん、でもめっちゃ悪いかと言えばそうでもないのかなぁ? 微妙だな」


「え、悪くもないの? どっちなの」



 いつもきっぱりと言いきる美来にしては珍しく――というか初めてかもしれない。あまりはっきりと見えていないのか、とても曖昧あいまいな表現をされて私も不安になってくる。

 いっそのこと悪いなら何とか回避するために頑張るのだが……悪くもないかもとは一体。



「尾関、この文面また転載ミスしてるぞ。いい加減二年目なんだからそろそろ仕事覚えろよ」


「……はい、すみません」



 条件反射で謝罪をしながらも、私の頭の中は昨日美来に言われた事でいっぱいだった。



『晴乃、今の人生に悔いはない? いや……悔いっていうか、変わりたいって思う?』



 正直、毎日毎日嫌みを言われ続け――定型文の謝罪を伝えてまた作業をして……。このままの人生がずっと続いていくのかと想像すると、しんどい。


 でも、多くの社会人なんて皆こんな日常を繰り返しては自分なりの幸せを見つけて生きていくものなんだろうし、まだ若い内に転職をしてみたとしても、今と変わった人生を歩めるかはわからないし。



 これを「後悔している」と表現するのかは正直わからない。変わりたいかと聞かれても――どこまでどう変わりたいかなんて考えられやしない。



 パソコンへぼんやりと向かい合っていると、気が付けば知らない画面に切り替わっていた。



「え……? なにこれ」



 華やかな花の装飾のホームページらしきページが開かれていて『グローリア王国』というなんともメルヘンチックというか、創作漫画やらでよく出てきそうな国名タイトルがドデカく表示されていた。



(なんでこんなの開いちゃったんだろう……現実逃避し過ぎて病んじゃったかな)



 いかんいかん、ちゃんと集中しないとまたミスって定時を越えてしまう。

 慌てて間違えて開いてしまったらしいページを閉じようとしたけど。



(……閉じ、ない。何で!?)



 閉じる所をクリックしても全く反応しない。もしやフリーズしてしまったのかと思ったけど、謎のホームページを下へスクロールすると普通に動く。

 まさか新手のコンピューターウイルスかな? だとしたら一刻も早く何とかしないと。



 取りあえずダメ元で一回シャットダウンさせてみようと画面からクリックしようとするが、その項目も全く反応がない。本体のボタンで強制的に落とそうと思ってボタンを押してみたが……。



(え、なんでボタンも反応しないの!? え、怖い怖い何で?)



 もはや軽くパニック状態だ。これはもう私だけでは手に負えないので、怒られる覚悟で課長に聞いてみるしかないと思い顔を上げた。



「あ……れ?」



 先程まで皆慌ただしくパソコンと格闘していたハズなのに、誰も居なくなっていた。もはや人の気配すら感じない。

 もう定時を過ぎていたのか? と、時計を確認してみると【3時12分】だった。というか、そこで止まっていた。時計まで壊れたのか。



 皆が居なくなったのではなく、よもや私だけが何かおかしな事になってるのか!?



 急に恐ろしくなり、とにかく人の居る所へ出たいと思ってオフィスの出口へ向かうが、ドアが開かない。元々鍵なんて無いハズなのに……。



「どうして……どうなってんの?」



 脳裏に美来の言葉がよみがえる。



『変わりたいって思う?』



 変わりたい……変わりたいのか、変わりたくないかなんて分からない。そう言った私に対して、美来は何て言っていたっけ――?



『多分、もうすぐ……大きな変化の時がくる。晴乃が望むなら、一気に人生が変わるかもしれない。良くなるかもしれないし、悪くなるかもしれない。そこまでは私にも分からない、でも――』



 導かれるように知らないホームページが開かれたパソコンの前に戻っていた。



 グローリア王国、入国者募集中と書いてある。王族、貴族、騎士団員、商人、農民、遊牧民等……検索ワードがずらっとある。

 なにこれ、ゲームみたい。


 特に検索をせずに下へスクロールしてみると「王族第二王子 側室」「難易度 50% オススメ度 中」「名前 自由」「男女可」


 ……なーんじゃこりゃ。恐らく男の人の側室なのに男の人でも可能ってどういう事だ。てかまあゲームならキャラクターとか作って女の子にもなれるのかな。だからどっちでも良いのかもしれない。


 「王国騎士団 第四部隊 隊長」「難易度95% 危険度 大 スリルは満点」「名前 自由」「男性のみ可」


 ほう、これは男性のみなのか。ていうかやっぱり性別はリアルの性別そのままにされるのかな。

 ゲームなのかただの趣味趣向のワールドを作って満足している誰かの自己満足なのかは分からないけど、架空かくうの設定にしては妙に細かい設定まで決められていて面白い。



 求人広告にしてはあり得ない設定や謎の解説の続く文字の羅列をしばらく食い入るように眺めていた。

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