竜罪
たくぞうさん
一話
目の前で銀色に光る剣が振り下ろされる。あまりの速さに受け止めるのがやっとだ。
ついに剣を持つ力もなくなってきて剣を受けた衝撃で地面に倒れこむ。
「ここまで!」
僕は倒れこんだまま、つい先ほど自分を倒した男の方を見る。
身長は高くかなり鍛え上げられた筋肉が見える。
「おいおい、大丈夫か」
男はそう言いながら笑って自分の手のひらの二倍はありそうな手を僕の方に差し出してきた。
「……大丈夫だよ、お父さん」
僕はすこしむすっとしながら手を掴んで立ち上がった。
――――――――
ここはマガレット大陸にあるベイン王国領。
僕はその辺境の地であるバラー村に住んでいる。
僕の名前はクリス・ガーメント。
父親のあこがれの人の名前からとってきているらしく、あまり悪い気はしない。
小さいころから内気な性格というのと小さな村だということもあり友達というのがあまりいない。
ただ自分でも行動力はある方だと思っていていつも何かを思いついたら一度はやってみないと気が済まないのだ。
この前森に生えていた奇妙な形をした草のことが気になって食べてみたのだがすぐにぶっ倒れてしまった。
そのあと母親からフラメール草という毒草なのだと怒られながら聞いたのだがこのこともあって、食べる前に調べてみる習慣がついた。
しかし魔物のことになると話は別だ。
この世界にはたくさんの魔物がいるから自分の身は自分で守らなくてはならない。なにも知らずに挑むのは自殺行為だとされている。
基本的には学校に通って身を守る方法を学ぶのだが、一番近くの学校があるベイン王国でも歩いて三日もかかる。
だから僕は両親から最低限の生き抜くすべを学んでいる。
先ほどのも訓練の内の1つだ。人には適正というものがあり学校で学んでいるうちに剣か魔法かの適性のあるものを見つけることができる。
そして見つけたものを生涯使い続けることになる。
魔法と剣の両方を使おうとするとどちらもほとんど使いこなせないことになるからだ。
僕の場合は剣だった。そのため父親に剣の修行を付けてもらっているのだ。
――――――――
「かなり剣筋はよくなってきているぞ」
父親は剣を鞘に納めながら嬉しそうに話す。
「これなら並大抵の大人には負けないだろう」
父親の名前はダインバーク・ガーメント。僕はダインと呼んでいる。
特徴はなんといってもその筋肉、とくに腕は大木のように太い。父親いわく王国で三本の指に入るとされるほどの剣士だったらしく剣を当てることができればだいたいの大人に勝てるらしい。
「ダインが強すぎるんだよ」
僕は不満ありげな顔でそういった。
「ちょっとくらい手加減してくれてもいいのにさ」
そういった後に遠くから声が聞こえた。
「クリスー! そろそろ帰ってきなさいよー」
「やべ、長くやりすぎたな、早く帰らないと怒られるぞ」
焦ったような顔で笑いながらダインは言った。
――――――
急いで修行場所から家まで帰った。
家はお世辞に大きいとは言えないが三人家族で住むには十分すぎるほどの大きさだ。家の前には畑があり木も植えられている。
母親は手を振りながら畑の横に立っていた。
「お昼食べるわ……って、ケガしてるじゃないクリス、今すぐ治すから手を出して」
そういうとなにやら術を詠唱し僕の腕に触れた。するとすぐに腕にあった切り傷がまるでケガなどなかったかのように治ってしまった。
母親の名前はアリス・ガーメント。彼女は元冒険者の魔法使いで、特別優れているわけではないようだがだいたいの魔法は使えるそうだ。ダインとは冒険の途中でベイン王国へ訪れた際に出会ったらしい。ダインから惚れて最初は付き合うのを断っていたらしいが、何度も告白されるうちに惹かれていったと聞いた。
お母さんは子供の目から見てもかなりの美人だと思う。特にほかにあまりいない美しい金髪が特徴的だ。
ダインはよくお母さんと結婚できたなと思ってしまうほどだ。
「まだクリスは子供なんだから無理させないでって言ってるでしょ」
すこし顔を膨らましながらアリスは言った。ダインは申し訳なさそうに頬をポリポリと搔いている。
「僕は大丈夫だよ、あんまりダインを責めないでお母さん」
僕も手加減はしてほしいと思っているが、しゅんとなっているダインを見てそう言った。両親の中が悪くなるのはごめんだ。
「おまえはほんとにいい息子だよぉー」
そういいながらダインは俺に抱きついてきた。すこし汗臭い。
「……もう!」
そういいながらお母さんも笑った。
これが僕の家族だ。何不自由なく暮らしているし修行はちょっとしんどいけど毎日が充実している。
――――――
お昼を食べた後僕は近くにあるカルディアの森に行った。
いつも午前中は修行をしていて午後は自由なのだ。
迷いのない足取りで僕は森の中を進んでいく。僕は森が好きだ。
森の中は村よりも涼しく心地が良い。
そしてなにより……。
「わん、わん、わん!」
「やっとみつけたぞ、元気かー?」
動物がいるのだ。
人間と違って動物は純粋だ。
そしてかわいい。
人はすぐに嘘をつくし動物と違って何を考えているかが全然わからない。そのためほとんど両親としか話さない。
この生き物は頭に角が生えていて白い毛並みのモフモフした生き物だ。
パウと僕は呼んでいる。
触り心地がとてもいい。
「食べ物をもってきたぞ、食べるか?」
パウの大きさに合わせてしゃがみながら言った。
「食べる!」
尻尾を振りながらパウは答えた。
実は僕は動物と会話ができる。
物心がついたときからずっとそうだ。
生まれつきなんだろう。
このことは両親にも言っていない。
あまり余計な心配をかけさせたくないのだ。
ただでさえ心配性なお母さんが、ほかの子にない能力を持っていると知ったら気絶してしまいそうだ。
街に行ったとき本で調べてみたのだが昔にそういう人がいたらしいということ以外詳しいことは書いていなかった。
特別このことで困ったこともないし何より話す相手が家族以外いない僕にとって動物は唯一の話し相手でもあるのだ。
「美味いか?」
一心不乱に冷蔵庫からくすねてきた肉を食べているパウに言った。
気づけばもうほとんど食べ終わっている。
「美味かった! いつもありがとな!」
そう言いながら丸々とした目を向けて話し、また森の中に帰っていった。
毎日行くと両親からなにか疑われるかもしれないから一週間に1回だけはいつも森に来て餌を上げているのだ。
これが僕の癒やしの時間だ。将来は動物に囲まれて生きるのも悪くない。
「よし、そろそろ帰るか」
そう言いながら立ち上がる。
――――――
帰る道中村人たちがなにやら慌ててどこかに向かっているのが見えた。
どこに行くのか聞いてみると、村長が村の広場に村人全員を集めているらしい。
なにやら嫌な予感がする。
村長が村人を集めるときはいつも悪い話だ。
前、集められたときは村が財政難に陥ったかなんかで銀硬貨の寄付を求められたりもした。
今回はお金関係じゃなきゃいいんだが。
その後広場にいた両親と合流した。
ふたりとも集められた理由を知らないらしい。
少し待つと村長が現れた。
村長はもう年のようで杖をついてゆったりとした足取りで歩いてきた。
いつもは優しい顔をしているが今日はかなり険しい顔をしている。
「王国から伝令があったんじゃ、それを皆に伝えようと思う」
村長はそう言った後伝令を話し始めた。
なにやら竜が二匹ベイン王国領内に現れたらしい。
そのうち一匹を捕まえたがもう一匹を重傷を負わした後逃がしてしまったと。
その逃げ込んだ先がカルディアの森らしい。
王国軍が討伐に向かっているので安心しろと言ってはいるが表情が深刻そうだ。
村長がそう言い終わるや否や村人たちから悲鳴やどよめきなどが起こり始めた。
引っ越した方がいいのではないかなどを口々に話している。
お母さんなんかは恐怖で顔がひきつっている。
それもそのはず、竜は1000年以上前に絶滅したとされている伝説の生き物だ。
竜は災害のような生き物だとされていて、1匹で1つの国を滅ぼせるほどの力を持つそうだ。
その強大すぎる力を恐れた昔の人々が存在自体をタブーとして竜を滅ぼしたとされている。
そんな生き物がまだ生きていると知りしかも村の近くに逃げたと知れば恐怖するのは無理のないことだ。
だが僕はそんな村人たちとは反対で目を輝かしている。
生き物好きの僕にとっては竜というのは本の中でしか聞かない憧れの生物だ。
一度は見てみたいと何度思ったことか。
明日の午後、森に行って竜を探しに行こうと僕は心に誓った。
――――――
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