*1「雪まんじゅうの女の子」④

私はスターライトの手を引いて、吹き抜けの窓から飛び出した。

この住処とはもうお別れだ。

パパとママが死んじゃってからずっと暮らしてきた。

だから少しだけ寂しい。

けど、行かなきゃ。

だってスピカは、明日が欲しいから!


「逃げたぞ!」

「追え!絶対に逃すな!」


仮暮らしの瓦礫の一室の入り口から、

怒声が聞こえた。


「どうして追っ手が来ているとわかったの?」

「ふふん!イメチェンしたから!」

「え…?」

「スピカのお鼻は解放されたのだ!」


息を切らして走りながらスターライトと瓦礫の街を駆けた。

パパとママが死んだ戦争で、世界はふたつに別れた。

ここは灰色に埋もれて、悲しみしか残されていない。

だから、スピカとスターライトは進む。


「ねえ!行く当てはあるの?」

「当てなんて無くっても大丈夫だよ!」

「そんなこと…」

「だって世界はさ!こんなにも色鮮やかなんだから!」


灰色以外の色を求めて、走り続けた。



「こ、ここは?」

「ここはストリートだ」


スピカとスターライトが訪れたこの場所には"ラプリアン"の多くが瓦礫と共に暮らしていた。


中心部に住む人々は瓦礫に埋もれた人類を揶揄して、"ラプリアン"と呼んだ。


"ラプリアン"、すなわちかれら貧民たちは社会から見捨てられ、犯罪に手を染める者もいた。



「なんだか、治安が悪そうだよ」

「とりあえず飯にしよう!」

「ここで?」

「腹へった!」



歩き出すと露店が見えた。


「おじちゃん、この串焼き2つ!」

「あ?金もってんのか?」

「持ってないよ!」

「チッ、薄汚ねえガキが!あっちいけ!ん?」


露店のおじちゃんはスターライトをまじまじと見た。


「そっちの嬢ちゃんが仲良くするってなら、恵んでやってもいいぜ」

「…」

「仲良くってなに!?」


スターライトは何だか暗くなった。

おじちゃんの言ったこと、どういう意味なんだろう。


「スピカ、お腹空いた?」

「うん!」

「だったら…」


スターライトは露店のおじちゃんに向き直った。


「へへ、物分かりが良くて助かるぜ」

「でもスターライトが悲しむなら、いらない!」

「え…?」

「だとよ、おやっさん!ちょっとおイタが過ぎるんじゃないか?」


背の高い男性が立っていた。


「げ、アラシさん…へへ、冗談じゃないですか」

「ホントかい?レディは泣かせるもんじゃないぜ」


そう言うとアラシと呼ばれた男は、スターライトにウィンクした。


「お金なら、ほらよ!」

「たしかに、毎度あり…」


アラシは、私とスターライトに串焼きを1つずつ渡した。


「いいの!?」

「ああ、食べれる時に食べとけよ!」

「ありがとう、ございます」

「おう、じゃあな!」

「ありがと!おっちゃん!」

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