第14話 隣で寝ることにするね。
四階にたどり着くと扉が一つあるのだが、それ以外には何もなかった。
本当に一部屋しかないのだ。
俺が触ってもピクリともしなかった扉もアスモちゃんは難なく開けていた。
一体どういう魔法を使ったのだろうと思ったのだが、俺と違いアスモちゃんはこの部屋の鍵を持っているというだけの話だった。
玄関のようになっている場所で靴を脱ぎ、目隠しを抜けて中へ入ると、そこにはアスモちゃんが言っていた通りにたくさんのベッドが並んでいた。
ありえない話ではあるが、修学旅行の部屋割りで男子全員がこの部屋に泊まることがあっても困らないくらいにはベッドが並んでいたのである。
中には眠りづらそうなベッドもあるのだけれど、大半は気持ちよく寝られそうなベッドばかりだ。
ベッドが沢山あるのは事実だったので良いのだが、それとは別に気になることがあった。
「ベッドが沢山あるのはわかったんだけど、今日泊まる部屋ってベッドルームはここだけなの?」
「そうだよ。寝るのはこの部屋だね。他には、お風呂とシャワーと露天風呂とスケスケシャワールームとトイレがあるだけかな。寝るだけの施設だからベッドが多いんだけど、“まーくん”が最初に寝てたあの固い板よりはどれも寝やすいと思うよ。どれを選んでも間違いないんじゃないかな」
「それってさ、ちょっとまずくない?」
「何がまずいのかな。別に寝るだけだから気にすることないでしょ」
「いや、ベッドが沢山あるって言っても、同じ部屋で俺とアスモちゃんが寝るのは良くないんじゃないかな。年頃の男女が同じ部屋で寝るのって、あんまり良くないと思うんだけどな」
「そうかな。オレは“まーくん”が相手だったら別に気にしないけど。もしかして、寝言とかいびきとか激しい感じだったりする?」
「それはわかんないけど、そういうのじゃなくて、同じ部屋ってのは良くないと思うんだけど」
「気にしすぎだって。変なことしないから大丈夫だって。オレは寝相悪くないし、寝ぼけて“まーくん”を攻撃したりとかしないから。そこだけは安心していいよ。それに、“まーくん”を狙うやつが急にやってくる可能性もあるからね。ほら、さっきのホクロ付き巨乳女とかその辺に立っていた薄着の女たちとか、他にも“まーくん”を殺そうとしてるやつがいるからね。そんな奴らから“まーくん”を守るのも俺の役割だから。警護対象は近くにいてくれた方がオレとしても助かるんだよ」
俺を狙うやつがいるというのは何となく感じていた。
イザーちゃんが俺をこの世界に呼んだという事は、何か俺にやって欲しいことがあるという事だろう。
この世界のために何か重要なことをするためにやってきた俺。そんな俺を始末したいと思う勢力があったとしてもおかしくはないだろう。
名も無き神の軍勢というのがおそらくイザーちゃんの敵なのだろうが、そいつらを倒すために俺に秘められた力が必要になるのだろう。
そして、そんな奴らは俺が邪魔だからすぐにでも消してしまいたい。
そう考えると、アスモちゃんが言っている、俺を殺そうとするやつがいるというのにも納得がいくというものだ。
「わかったよ。頼りない俺をアスモちゃんは守ってくれるって事なんだね。それじゃあ、アスモちゃんはどれを使って寝たいのかな。それはその近くのベッドにするよ」
「うーん、オレは正直どれでもいいんだよね。体質的にあんまり深く眠ることが無いんで、どれであってもあまり変わらないんだ。だから、“まーくん”が先に決めていいよ。オレは“まーくん”の隣で寝ることにするからさ」
「それなら、一通り確かめてから決めることにするよ」
確かめると言いつつも、その違いが良くわかっていない俺はどれが寝やすいのかわからなかった。
普段寝ているのと似ているベッドにした方が良いのか、せっかくだから広いベッドにした方が良いのか、どちらが今の俺にとって寝やすいのだろうか。
正直に言うと、適当に選んだところであまり変わらないんじゃないかと思う。
イザーちゃんの部屋にあったベッドに似ているのがいくつかあったのでそれは避けるとして、それ以外であればどれを選んだところで大きな違いはないだろう。
一通り触ってみたり横になってみた結果、普段使っているベッドに似ているのが一番という事に気付いた。
あまり豪華ではない質素と言った方がよさそうなベッドではあったが、マットの固さもちょうどいいのでいつも通りには眠れそうだ。
「俺はこのベッドにするよ。普段使ってるのに似てる感じだし、マットの固さもちょうどいいからね。このベッドだと普通に眠れそうだよ」
「へえ、“まーくん”って普段こんな感じのベッドで寝てるんだ。他のよりも普段使いには良さそうだね。いい選択だと思うよ。それなら、オレは“まーくん”の隣で寝ることにするね」
アスモちゃんは持っていた荷物を空いているベッドに置くと、壁際に置いてあった小さなテーブルを持ってきた。
俺はその横に置いてあった小さな椅子を運んでささやかな宴会の準備をしていた。
小さなテーブルに乗りきらないくらいの食べ物と飲み物があったのでテーブルには乗り切らなかったが、全部をすぐに消費するわけでもないのであまった物は冷蔵庫にしまっておいた。
テレビが無いだけで俺が泊まったことのあるホテルとあまり設備は変わらず、俺のいた世界とあまり変わらないのだなと思っていた。
ただし、そこらへんに書かれている文字は一文字も理解出来なかった。
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