第10通 お礼(side紗雪)

“ありがとう”は大切だよね。私がそれに気づいたときはもう遅くて後悔したよ。花音が気づけてよかった。手が届くうちに大切にしなきゃね。

 カセットテープありがとう。聴くの楽しみだな。久しぶりの花音の歌、嬉しいな。テープが伸びちゃうくらい聴いたら、また新しいのを送ってくれる?っておねだりしてみたりして。たぶん、いや絶対ずっと聴いちゃうから、すぐに新しいのが必要になるね。

 何かお礼をしたいな。私はハンドクリームや花びらやカセットテープをもらってばかりだから何かお返しをしたい。花音、何か欲しいものはある?あったら教えて。

 なんかカセットテープに感動しすぎちゃって、手紙に書くことがみつからないよ。急いで手紙を出して来ようっと。


 ☆


「ただいまー、紗雪さん。あれ?どこか出かけるの?」

 玄関で姪の陽菜ひなと私はばったり出くわした。

「コンビニに手紙出しに行こうと思って」

「なら、わたし出して来るよ?着替えたら友達のところに行くからそのついでに」

「テスト勉強?」

「そうだよ。友達、頭いいから教えてもらうんだ」

 微笑ましい陽菜に私は手紙と千円を手渡す。

「じゃあ手紙、お願い。千円でお菓子でもジュースでも買っていきなさい」

「わー、ありがとう、紗雪さん!」

「いえいえ。晩ご飯までには帰ってくるのよ?」

 はーいと陽菜は元気に部屋に行く。

 私はケトルでお湯を沸かしながら、カセットテープを聴けるように準備をする。令和の時代にカセットテープを聴こうとするとなかなか苦労した。

 音が再生される。花音の声だ。涙が出そうになる。


「あ、camelliaだ!紗雪さん、camellia好きなんだね!」

「古いバンドなのに知ってるの?」

「うん!カラオケで人気だよ。わたしも好き」


 じゃあ行ってきますと陽菜は家を出ていく。


「……花音の声、こんなに遠くまで届いてるよ」


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心を紡ぎ、愛を結ぶ 雪花彩歌 @ayaka1016

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