「才脳」 男:不問=1:1 15~20分台本


■登場人物


・藤崎 秀(フジサキ シュウ(男))

貧乏絵描き。知り合いの紹介で、自分の未来を見れる店に来店。身なりは粗雑だが、教養の高さが垣間見える


・イルミ(不問)

未来堂の店員。主人公に未来を見せる。圧が強い。そして胡散臭い。


以下本文



・藤崎

未来堂であなたの未来見てみませんか?初回無料キャンペーン中!!

自宅の郵便受けに入っていた広告にデカデカと怪しく買いてあるこの文言から、俺は目が話せなかった。怖いもの見たさというのもあるのだろうが、ふらふらと家を出て広告の住所に徒歩で向かう。広告の住所には、テナントビルが建っている。入り口に書いてある階数ごとの店舗案内には3階の「未来堂」しか書いておらず、他の階は空きテナントらしい。エレベーターに乗り3階へ。扉が開き、真っ直ぐな廊下の突き当たりに未来堂の看板が見える。恐る恐ると歩みを進め、看板横の扉を開ける


・イルミ

「あぁ、いらっしゃいませ。思ったより早かったですね、藤崎様。まだ準備中でしたよ」


・藤崎

「どこかで会ったこと・・・ありましたっけ・・・」

胸のところのネームプレートにはイルミと書いてある。見た目は男女性別不明な中性的な見た目だ。男と言われれば男に見えるが、女と言われれば女だ。そんな不思議な見た目の知り合いを忘れるとも思えない。


・イルミ

「実際お会いするのは初めてですね。もちろん街中ですれ違ったことはあるのかもしれませんが、私の記憶にはそれもなかったかなと。ちなみに、お名前は藤崎様で合っていましたか?」


・藤崎

「はい、藤崎です」


・イルミ

「それはよかった。では、改めまして、未来堂店主イルミです。本日は来店ありがとうございます。それで、藤崎様は本日、自らの未来を見に来たということでよろしかったでしょうか?」


・藤崎

「そうですね。郵便受けに入っていた広告に釣られただけなので、お試しにということで」


・イルミ

「そうだったのですね。でしたら、広告に初回無料のクーポンが印字されていたと思いますが、今日は・・・忘れていましたね」


・藤崎

「すいません・・・広告くを自宅に置いてきてしまって。とってきた方がいいですか?」


・イルミ

「いいえ、大丈夫ですよ。数刻前に確認は終わってるので」


・藤崎

「確認?・・・自分はさっき来たばかりですが?いつの間に確認を?」


・イルミ

「そうですね。現実では確認しておりません。ただ、ここは未来を見ることができる未来堂です。業務開始前に自分の未来を確認して、今日来店するお客様の情報を整理するくらい、なんてことはありません。なので私も藤崎様の存在は、今日の朝初めて知りましたし、広告を忘れてくることも、確認済みです。」


・藤崎

確かに辻褄は合うが、それは未来が本当に確認できる前提の上に成り立つ話だ。現状怪しさ満点だ。


・イルミ

「藤崎様が訝しむのも無理はありませんね。ただ、未来堂は清廉潔白健全運営を掲げて経営しておりますので、ご安心を。その証拠に、この契約書を読んではいただけないでしょうか?もし、納得いただけなければ今日はこのままお帰り頂いて大丈夫ですので」


・藤崎

そう言うとイルミさんは契約書とペンを差し出してきた。契約書の項目は二つだけだ。

一つ目は、店舗内での自殺を含む一切の自傷行為を禁ずる。

二つ目は、自分以外の未来に関することの口外を禁ずる。

この二つがコピー用紙に明朝体で印刷されていた。


・イルミ

「大した内容は書いていないのですが、質問はありますでしょうか?」


・藤崎

「あの、二つとも内容は分かるのですが、何を想定されてるのかが・・・」


・イルミ(喰い気味)

「確かに、契約書の内容としては、言葉が少なすぎましたね。口頭で少し付け加えておきましょう。一つ目なのですが、未来を見るということはこの先、自分自身に起きる可能性のある不運や不幸を先行体験する場合もあります。なので、心の弱い方は発狂したり、その場で自殺を試みる方も少なくはありません。いちいち警察を呼ぶのも面倒なので、そういうことを実行する際は、せめて店舗を出てからにしてください。二つ目はビジネス的な話です。人間一人の未来には、様々な他の人間が関わっています。なので、一人の未来をみるだけで、関与する人間の未来が少しわかったりします。つまり一人が、他の方の未来を吹聴してしまうと、ウチとしては商売が成り立ちませんので、禁止とさせていただいております。こちらを守らない場合、または違反を確認できた場合、きっちり裁判を起こしますので、よろしくお願いいたします」


・藤崎

「なるほど、営業妨害にあたることを、しないようにということですね」


・イルミ

「理解が早くて助かります」


・藤崎

契約書は簡単に読み流し、サインを一筆入れる。その間イルミさんは何やら準備をしているようだった。


・イルミ

「では、藤崎様サイン大丈夫でしょうか?」


・藤崎

「はい、問題ありません」


・イルミ

「ありがとうございます。では、早速見ていきましょう。どうぞこちらへ」


・藤崎

案内されるがまま店の奥に入っていく。奥には小さな映画館のような空間があった。ただ、席は一つで、椅子の後ろには謎の機械がゴチャゴチャと取り付けられていた。


・イルミ

「藤崎様は今回が初めてかと思いますので、事前に説明をしておこうかと思います。まず、未来を見る方法ですが、このスクリーンにあなたの未来を映し出します。しかし、残念ながら音の再現はまだ難しいことがあり、藤崎様の声は再生できても、そのほかの声、環境音は再現できませんので、ご了承ください」


・藤崎

「すごい技術ですね・・・映像はドラマとかみたいに?」


・イルミ

「現段階では一人称視点で投影されます。なので、ドラマのように俯瞰視点での投影は理論上できますが、まだ難しい現状です。ただ、見逃した場合や細部の確認を希望される場合は、巻き戻しもできますので、そこから考えるのもまた一興と言うことで、よろしくお願いします」


・藤崎

イルミさんは不気味なほどの笑顔で上機嫌に説明を続ける。


・イルミ

「一応義務ですので、未来を見るこの装置の理論を軽く説明させてください。藤崎様は人間の脳細胞の細胞分裂回数を知っていますか?」


・藤崎

「具体的な回数は知りませんが、テロメア構造が擦り切れるまでじゃないんですか?」


・イルミ

「人体のほとんどの部位でそちらの回答で問題ありませんが、脳の場合は不正解です。人間の脳細胞は細胞分裂をしません。なので、脳が生成され完成したその瞬間に、その生物の大体の、思考プログラムや、プロセスは決まります。もちろん後々の生活環境や、交友関係で多少誤差は出ますが、脳が自然と飲み込みやすい価値基準や考え方は人生の中で変わることはありません。それが変わったら、脳が書き変わっているので、別人のようになるでしょう。そして、現時点から未来を見る際にその人間が置かれている状況や、今までの人生の経験は無視できません。そこさえわかれば、未来の予想をする事自体、実はそう難しいことではないのです」


・藤崎

理屈としては通っているが、過去の確認が難しいから予測が立てられないのではないだろうか・・・


・イルミ

「その顔だと、藤崎様は信じてないようですね。もちろんいきなりこの話をされて信じるような人間はほぼいません。とりあえずは、過去の情報とその人の脳細胞のつくりが分かれば未来は見通せる。そのくらいの理解度で問題ありません。そして一番難しい問題が、過去の確認の取り方なのですが、藤崎様の脳に直接聞きます」


・藤崎

「えっと・・・脳内のスキャンとかそういうことですか?」


・イルミ

「そういうことです。昔のSFなどの作品で登場する技術も、現代科学の前では、再現可能なただの既存理論になり果てる良い例ですね。では早速初めて行こうかと思います。スクリーンにダイジェストのように人生の転換点が流れてくるかと思いますので、よろしくお願いします」


・藤崎

イルミさんはそう言うと私の額や手の甲に、コードのついたシールを張り付け部屋の後方に移動した。


・イルミ

「では、スイッチを入れます。一瞬電気が流れてピリッとするかと思いますが、特に問題はないので、気にせずにどうぞ」


・藤崎〜過去回想〜

「将来の夢は漫画家です!」

「高校で美術部の強いところは・・・」

「油絵って奥が深いな・・・一枚絵も悪くないかも」

「美大に行きます!もちろん油彩画コースのある美大に行きます」

「ありがとうございます。今回賞が取れれたのは教授のおかげです」

「就職?うーん・・・お前は決めてるの?・・・ゲーム会社のキャラクターデザイン?めっちゃ大手じゃん。将来も安泰だな・・・え?俺?まだ決めてないけど、絵を描く仕事には就きたいよな」

「プロの絵描きになる。決めた。もう後戻りはできない・・・」


・イルミ

「どうでしたか?おやおや、随分と苦しそうですね。体調がすぐれませんか?」


・藤崎

「いや、そういうことではないのですが・・・少し昔を思い出してしまって」


・イルミ

「そうですか。まぁ皆さんそんな感じです。過去を思い出すというのは全人類共通で苦行なようですね。では、ここからは未来に行きますかね」


・藤崎

イルミさんは機械をもう一度起動させ、今度は席の斜め後ろに立っている。少しの恐怖心と未来を知りたい好奇心が入り混じる。


・イルミ

「今から映る未来の映像も、基本的には先ほどのようにダイジェスト形式で写ります。よろしくお願いします。では、どうぞ」


・藤崎〜未来〜

「いらっしゃいませー」

「お弁当温めますか?」

「え、これだけですか?あ・・・いや、あの絵は結構自信があったので。不満って訳ではないのですが・・・はい。ありがとうございます。またよろしくお願いします」

「才能・・・新星来る・・・彗星の如く業界に轟く新人・・・馬鹿馬鹿しい」

「ん?ポップを上手に描く方法?練習と数だな・・・まぁこれでも元プロの絵描きだから、聞いてくれよ」

そこで画面は暗転した。


・イルミ

「どうでしたでしょうか?藤崎様の未来は?」


・藤崎

「いや、想像通りというか、今の自分ならこうなるだろうな、そういう納得に溢れた未来でした。ちなみに、暗転したということは、あの後の未来はないという解釈でいいんですか?」


・イルミ

「はい、その解釈で相違ありません。暗転は映画と同じで終了を意味します。最後の場面からの藤崎様の人生は、大きな転換点もなく緩やかに死に逝くか、何かしらの理由で、早々に死ぬかのどちらかです。死因までは断定できないのが、このシステムの欠陥ですね。」


・藤崎

「なるほど・・・」

そのうち俺の絵は売れなくなり、バイトを始めるのだろう。そしてそのバイト先で就職し、ポップを描いていた。という大まかな流れ。現実的に可能性が一番高い未来。


・イルミ

「気を落とされましたかね?未来など知らなければよかった、そうおっしゃる方が大半ですが、藤崎様もその一人でしょうか?」



・藤崎

「・・・いや、なんか嬉しくて」


・イルミ

「嬉しい・・・それはまた、一体なぜ?」


・藤崎

「今のまま続けても、残酷な未来がくることがわかった。つまり言い方を変えれば、現状を打破すれば未来は変わる。そして何より、現状に不信感を持っている自分の感覚は間違っていないことの逆説的証明です。人生は明確に正誤判断がつきづらいものがほとんどなので、これは嬉しいことです」


・イルミ

「その考え方は希望にあふれて実にいいですが、最初に言ったように、人間の脳細胞は作り変わらない。つまりこの未来は高確率でやって来ますので、ご注意ください。」


・藤崎

「イルミさん。自分はきっと今朝あなが見た未来とは違う表情をしていませんか?その場合、俺はあなたの想像力の内に収まる人間じゃなかったということです。それなら、この機械も未来を測り切れていない可能性がありそうですね」


・イルミ

「・・・残念ですが、その通りです。この機会は完璧ではない。」


・藤崎

「なら、この凡才はまだ飛べそうですね」


・イルミ

「藤崎様が、この機械の予測した未来を飛び越えていくことができるのであれば、きっと今見た未来も戯言となるでしょう」


・藤崎

「ありがとうございます。会計は・・・いらなかったんですね」


・イルミ

「はい、大丈夫です」


・藤崎

「では、またいつか」


・イルミ

「また次回の来店をお待ちしております」


・藤崎

自分が天才だとは思えない。だが、周りは俺を天才として持ち上げ始めた。きっと勘違いをしていたんだ。自分が天才で、感性のまま書いた画が評価されると・・・未来の自分は天才を羨んでいた。つまりは俺は凡才だったんだ。凡才でもここまで登ってこれた。ならココからもう一度跳べるはずだ。凡才のやり方で。


「終」


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