政略結婚で美人すぎる女の子と結婚することになったが、どうやら俺は嫌われているらしい
田中又雄
第1話 政略結婚
◇
俺の名前は
会社員ではあるが普通の会社員ではない。
いわゆる御曹司というやつで、世界的にも知名度が高い【レジラス株式会社】という、貿易会社の社長の息子であった。
一人息子ということもあり、生まれてからこの方、父の敷いたレールの上を歩み続けて、現在も父の言う通りにしていた。
そんなある日、父に呼び出されて実家に行った。
家に入ると家政婦の人に父の部屋まで案内される。
「...失礼します」
「おう、入れ」
すると、そこにはなんとも綺麗な女の子が椅子に座っていた。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093093391446848
「...お久しぶりです、お父様」
「おう、久しぶりだな。それじゃあ、単刀直入にいうが、黎人。そこに居る
「...え?」
今まで散々無茶苦茶なことを要求されてきたが、その中でもとびきりめちゃくちゃな要求だった。
俺に彼女がいるとか好きな人がいるとか、そんなことを無視してそう言ったのだった。
実際、俺には付き合っている女の子がいたわけで...。
「...お父様。俺にはその...付き合ってるいる人がいまして...」
「知らん。別れろ。これは決定事項だ。この場で婚姻届も出してもらうし、それに関して異論反論口答えは一切許さない」
「...わかりました」
そうして、結局父に言われるがまま、俺は婚姻届を書いた。
女の子の方も無表情で無言のままその婚姻届を書いた。
状況から察するに、おそらく立場は親父の方が上。
彼女も俺とは違う意味で拒否権はないのだろう。
「...よし、それじゃあ帰っていいぞ。ちなみに既に新居も用意している。これからはそこに住むように。模様替え等は一切許さない。家具や電化製品とか必要なら俺に言え。不倫も当然許さない。離婚もだ。なるべく早く子供も作れ。最低3人だな。それじゃあな」
そう言ってそのまま実家を追い出される形で出て行った。
家の前には既にリムジンが止まっており、そのまま乗せられて新居に向かうことになった。
...彼女のことは本気で好きだったが...もうこうなった以上は仕方ない。
昔からこうだった。父の言うことに逆らえない。
逆らおうものならどうなるかは一番俺がよく知っている。
身内だろうと、親友だろうと、恩人だろうと関係ない。
徹底的に潰してしまうのだ。
ふと、横を見ると彼女は相変わらず無表情だった。
「...あの...これからよろしくお願いします」と、現実を受けいれ彼女と仲良くしようと、手を差し出しながらそういうと、冷たい声でこう返された。
「...気持ち悪い。政略結婚なんですから仲良くする必要なんてないでしょ。お互い距離感を保って、周りからはうまくやってるように見えれば、それでいいのでは」と、そう言われた。
...まぁ、そうだよな。
俺みたいな父親が大社長ということ以外何の取り柄もない人間といきなり結婚なんて言われたら...。
彼女にだって想い人はいたかもしれない。
「...ごめんね」
そうして、最悪のスタートを迎えたわけだが、新居はかなり立派なものであり快適に思えた。
しかし、寝室には二人がギリ寝れるほどのベッドが一つだけ置かれていた。
その光景を見て、深くため息をついて、「改めて言いますが...あなたとはあくまで仮面夫婦ですから。そこを履き違えないでくださいね。なるべく話しかけないで欲しいですし、子供なんて絶対あなたと作る気はないですから。必要なら精子バンクからいただくので。ということで、あなたはソファで寝てください」と言われてしまう。
「...うん。わかったよ」
親父のことだから、DNA検査は100%するし、そんなことをすれば大激怒だが...最悪俺が精子を提供し、彼女に渡して...ということしかないだろう。
こうして始まった新生活。
それは本当に大変だった。
彼女はまだ20歳の大学生らしく、家のことを結構お願いすることになってしまい、かなり嫌な顔をされた。
ちなみに、彼女のお父さんもまた小さい貿易会社の社長らしい。
どういうやり取りがあって、俺と彼女が結婚することになったのかは知らないようだった。
「...掃除とか料理はいいですけど...洗濯は自分のものは自分で洗って下さい」
「うん、全然それは大丈夫。料理も自分の分は
自分で作るから...」
「そうですか。ではそういうことで」
本当に事務的な関係であり、彼女が学校で何をしているのかとか、趣味など聞いても全然教えてくれなかった。
それでも、少しくらい歩み寄ってもいいかなと、時々休みの日に動物園とか映画館とか水族館とか...いろんなところに行って、いろいろな話はしたものの、結局俺が一方的に話すだけで、彼女は何一つ自分の話はしてくれず、距離が埋まることはなかった。
そうして、結婚から1年がすぎた。
◇
今日、伊織さんは友達の家に泊まるらしく、家には俺しかいないため、久々に高校の友達を呼んでちょっとしたパーティを開いていた。
親しい友達には政略結婚であることや、距離が埋まらないことをいろいろ相談していた。
「...ぶっちゃけさ、どうやってもいいから離婚とかできないわけ?流石に黎人可哀想すぎるだろ」
「...それは無理かな。まぁ、可哀想なのは伊織さんも一緒だし...」
「どこかだよ。てか、心も体も許してくれない奥さんにさん付けなんていらないだろ。黎人はいろいろ頑張ってんのにさ。会社でも結構いやがらせされてるんだろ?家でくらいリラックスしたいってのに...。てか、もしかしてまだソファで寝てんのかよ?」
「...まぁね」
「ありえないだろ、マジで。いつでも俺の家に泊まりに来ていいからな?」
「あはは...サンキュ」と、苦笑いで話題を流す。
御曹司の息子なんて、会社にとっては迷惑でしかなく、表立っての嫌がらせはないものの、陰湿な嫌がらせや陰口は絶えなかった。
まぁ、親父に対して恨みを持っている人間にも社内にはおおいし...仕方ないことだとは思うが。
ちなみに父さんに会うと早く子供を作れと急かされていた。
もちろん、彼女にはその気はないし、無理やりするなんてもってのほかだし...。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開く。
「...騒がしいんですけど」
そこには出掛けていたはずの伊織さんがいた。
「あっ、ご、ごめん!今日友達の家に泊まるって聞いてたから...」
「...中止になったので。静かにしてもらえますか?」
「う、うん...ごめんね」
そのまま、無表情で扉を閉める。
「...本当、可愛くねーな。俺の奥さんとは大違いだよ。俺の奥さんまじ可愛くてさー」と、惚気が始まる。
そうして、お酒を飲みながら昔話に花を咲かせていたのだった。
◇翌日
いつも通りの時間に目を覚まして、着替えをしていると伊織さんがやってくる。
「あっ、昨日はごめんね。これからはちゃんと確認することにするよ...」
「...別にいいですけど。私も悪いですし」と、珍しく素直にそう言った。
そのまま、そそくさとリビングを出て行こうとすると、「...ちょっと待ってください」と言われる。
「...何?」
「...今日からはソファじゃなくてベッドで寝ていいですよ」
「え?」
「...もう1年もソファで寝てもらっていたので。そろそろいいかなと。襲おうと思えばいつでも襲えたはずですし」
「...あー...ううん、俺はソファで大丈夫だよ」
「...なんでですか?体痛いですよね?」
「いや、そうでもないよ。慣れたら意外とね。俺のことは気にしなくて大丈夫。あと...子供のことも...俺がなんとかするからさ」
いつもなら「そうですか。期待せずに待ってます」とか言われるところだが、「...ごめんなさい」と初めて謝られた。
この日を境に少しずつ彼女の様子が変わるのだった。
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