第11話 神様。もし見てくれているなら。

「———本当にすまなかった!! 完全に俺のミスだ!!」


 無事女バスの人に鍵を開けてもらった俺と中村は、職員室で体育館で授業を行っていた、つまりは俺達を倉庫に閉じ込めた張本人である体育教師の山本先生に平謝りされていた。流石体育教師、声が大きい。

 ただ、こうして言い訳もせず誠心誠意謝られると何も言えなくなってしまう。


「まぁ……別に良いですよ。お陰で授業をサボったのに出席扱いになりましたし」

「ね。ラッキーでした」

「そう言ってもらえると有り難い。だが……それでも、本当に申し訳なかった。今後はこんなことがないように徹底すると誓う」


 流石生真面目の鬼とまで呼ばれた山本。

 俺達の擁護を受け止めながらも次からの対策まで宣言する徹底振り。多分この人じゃなかったら笑って済まされてただろう。年下に謝るのって抵抗あるし。特に野崎とか野崎とか野崎とかはマジで軽く謝られて終わりだと思う。


 やっぱ野崎嫌いだわ、とか思っていた俺を見て、ふと山本先生が首を傾げた。


「それにしても……クラスの奴らはどうして何も言わなかったんだ? 君等が着替えもせずに消えたと知っているはずだが……」

「「…………」」


 ———い、言えない。去年1か月に1回くらいの頻度で授業サボってたせいかも、なんてとても言えない。

 

「赤星? 中村?」

「えっと……」


 全く悪気のない先生の問い掛けと瞳に、俺達は罪悪感からスッと目を逸らしそうになる。

 だが、生真面目な山本先生にバレずにやり過ごすには、この場を早急に切り上げないといけない。つまりだんまりを決め込むのは愚策。自ら『昔ちょっとやらかしまして〜』なんて自己紹介しているようなもんだからな。


「……先生、俺達は見学をしていました。特に俺とかは体調が悪い、ということで見学していたんです。恐らくクラスの奴らは、途中で体調が悪くなった俺が保健室に行って、それに付き添うように中村もいなくなった……と考えたんだと思います。去年同じクラスの奴らは俺と中村が付き合ってたのも知っていますし」

「ああ……生徒が付き添い、というのはあるな。俺達もたまに指示をしたりするし」

「そういうことです。クラスの奴らは皆んな良い奴ですから、今回はそれが裏目に出ただけでしょう」


 なるほどなぁ……と納得げな表情を浮かべる山本先生の姿に、なんとか言い包められたことにホッと安堵する。……おい、なんだよその顔は。俺はなんもおかしいことは言ってないだろ。

 此方を僅かに目を見開いて見つめてくる中村の姿に不思議がっていると。



「———ああ、君等、1年の時に有名だったあのカップルか。道理で請け負ったことない生徒なのに知っていると思った」



 おっと、山本先生? 

 貴方の今の言葉は、デリケートゾーンに触れるどころかベタベタ触っているレベルです。早急におやめなさい?

 というか有名ってなんですか。俺達は見世物じゃありませんよ。


「確かに彼氏が体調悪かったら彼女なら心配するよな。もしかして中村が休んだのも赤星が心配……いや、これ以上はやめよう。セクハラになってしまう」


 そうだ、英断だ山本先生。既にデリケートゾーンを思いっ切り触りまくっているのから目を逸らせば、の話だけど。普通に隣が見れないよ。


 なんて緊張とか気まずさで心臓バクバクの俺。

 しかし次の瞬間———俺の手が何か柔らかくて暖かいものに触れる。それが心音の手であることは直ぐに分かった。


 突然のことで、今度は俺が心音に驚愕に目を見開いて視線を向けると。



「では、私達はこれで」

「お、おう……」

「———行こっか、とーくん」



 何を考えているのか分からない真顔の彼女は俺に目を向けることなく、山本先生に一言告げると———俺を引っ張って職員室を出るのだった。











 ———心臓が五月蝿い。

 ドクン、ドクンと脈打つ鼓動が、彼に聞こえていないか不安で仕方がない。


 でも反対に、聞こえていて欲しいと思う自分もいて。

 聞こえていれば、もしかしたら彼が……なんて淡い期待を抱く自分がいて。


 この真っ赤な顔も、胸にぽっかり空いた穴を埋める幸福感も。

 全部全部、彼に伝われと願う自分がいて。

 


 ———ずっと、この時間が続けば良いのに。



 私は彼の手をぎゅっと握りながら、心の中で誰にでもなく切に願う。


 ずっと彼の手を握りたかった。

 彼の手に包まれていたかった。


 私より大きくて、男性特有の骨ばったゴツゴツしている彼の手。

 私が甘えるように絡めれば、応えるように迎え入れてくれた優しい手。

 

 3ヶ月振りの彼の手は相変わらず少し冷たい。

 でもそれも少しの間だけだ。

 いつも直ぐに私の体温と溶け合い、私達の手は同じ暖かさになる。

 そしていつも、おーあったかい、なんて彼が無邪気に笑うのだ。 


 そんな彼を見るのが大好きで。

 彼の中に私がいると感じられて。

 その事実がどうしようもなく嬉しくて。



 ———気付けば、いつも私も笑っていた。



 あの日々こそが、私の宝物。

 傍から見ればなんてことない、ありふれた日常であっても。

 それらは確かに私の胸に、心に、頭に残っている。

 

「お、おい、中村?」


 やめて。私を他人みたいに呼ばないで。

 あの日々を無かったことにしないで。過去にしないで。


「……ね、とーくん」

 

 彼にとっては、もう私達の関係は終わっているのかもしれない。

 彼にとっては、あの日々は過ぎた過去の一部なのかもしれない。



 あの日———私は間違えた。



 何度後悔したか分からない。

 たまにあの時のことを思い出して涙が出そうになる。

 ギュゥゥゥゥゥ……と胸が締め付けられる。

 痛くて、冷たくて、悲しくて。

 

 もしあの時、彼の手を握っていれれば。

 もしあの時、彼の心を動かすことが出来ていれば。

 もしあの時、寄り添ってあげれていれば。



 ———だからお願いです、神様。



 たった1度きり。

 たった1度だけでいいです。






「今度、寧々達も混ぜて遊びにいかない?」






 挽回のチャンスを、私にください———。 


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