第3話 見る目がない。果てしなく見る目が。
「———恋愛、相談……?」
「そ、そうなんですっ! 私、好きな人が居て……先輩達みたいに幸せそうな恋人になりたいんです!」
そう夢見心地な表情を浮かべる初対面のほぼ金髪みたいな茶髪の後輩女子———1年3組の
身長低め、あどけない笑顔を浮かべる可愛らしい少女である。
でも如何にも人生楽しそうな面だ。対極すぎて消し飛ばされそうだから今直ぐ帰りたい。
てかそれよりも———。
「…………おい」
「待って。一旦待って。言いたいことは分かってるから待って」
俺は死んだ魚すら生温い目を中村に向ける。
……何事かと走って来たのに、蓋を開けてみれば後輩の恋愛相談?
え、既に破局してる俺達に恋愛相談とか大丈夫? 大丈夫じゃないよね。
対して中村は、俺が言いたいことは全て分かっていると言いたげに眼前に手の平を向けてきた。おい、鼻にちょっと当たったぞ。鼻がツーンとして涙出てきそうだ。慰謝料請求しよう。
「寧々、ちょっと待ってくれる?」
「はいっ! 目に焼き付けておきますっ!」
「「絶対にやめて」」
「あっ、ハモってますよ! やっぱり仲良いですね!」
とんでもないなこの後輩。狙って言ってる?
もはや地雷原の上でタップダンスとかのレベルじゃない。分かった上で全てを踏み抜いてるって言われても信じる。
「……あ、アイツ誰だよガチで。わざとだよな? わざとあんなこと言って俺の心を取り乱そうとしている生粋の悪女だよな? 俺達のどこをどう見たら『幸せそう』なんて言葉が出てくるんだよ」
とんでもない後輩の存在に気まずさも忘れて戦慄する俺は、寧々と呼ばれた少女に聞こえないように声を潜める。声が震えるのは緊張からではない。
既に俺のメンタルは限界寸前。さっきは冗談だったが、今なら本当に存在ごと消し飛ばされそうだ。生命保険に入っておけばよかった。
「……悪女じゃない、と思う。でもあの子、物凄く天然なの。私も数ヶ月前に気付いたんだけどね? そもそも今も私達が付き合ってるなんて思っている人なんて寧々以外居ないと思うし……」
「なら否定しろよ。どう考えても別れてるじゃん俺ら。この3ヶ月1回も話してなかったんだぞ」
「ちゃ、ちゃんと否定したし……でも全然信じないのよ! 私だって、とーく———アンタと同じで皆んな別れてるの知ってると思ってたもん! いきなり『心音先輩っ! 相談があるので藤吾先輩も呼んでくださいっ! 絶対2人が良いです!』って言われて否定したのに『またまた御冗談を〜〜』ってフルシカトされた私の気持ちにもなってみてよ!」
お、おう。それは……地獄だな。
俺ならその場で舌を噛んで潔く死を選ぶ。またもや生命保険に入らなかったのが悔やまれる。親孝行すらさせてもらえないのか。
彼女のあまりの剣幕にあっさりと怒りやら何やらが吹き飛んで怯んだ俺は、何だか居た堪れなくなって、謝罪の言葉を口にする。
「……事情も聞かずに責めて悪かった。ちょっと浅はかだった」
「べ、別に謝って欲しいわけじゃ……。でも、私もごめん……。…………ちょっと、魔が差したというか何というか……とにかくごめん」
「あぁ、別に良いけど……」
「……うん。私も別に……」
気になることもあったが、お互いになんて話していいか言葉が見付からず、何方かともなくスッと目を逸らす。
その際、小声で話していたことで近付いていた顔や身体もそっと離した。
「「…………」」
ま、マズーい。
今更になって気まずさがお顔を出してきた。遅刻するくらいなら最初からいるか、最後までいないでほしい。
「あー……取り敢えずあの後輩の話でも聞くか」
「そ、そうね。あ、あと、寧々の前では下の名前でお願い」
目を逸らしたまま言う中村。
思わず素っ頓狂な声が出そうになったが、なんとかこらえた。
……心臓が痛い。決して病気というわけではなく、単純に緊張で心拍数が上がっているだけだ。緊張したらお腹痛くなるのと一緒。あ、意識したらマジで痛くなってきた……。
色々な思考を全て頭の片隅に追い遣り、俺達は改めて椅子に座り直した。
が、無視できないのが1つ。
「……ど、どうした……?」
例の悪女疑惑浮上中の後輩女子だ。
なんか物凄くキラキラした瞳を俺達に向けていた。
これには俺も中村も訝しげな視線を送る。
「寧々? 何かあった?」
「お互いに喧嘩しても直ぐに仲直り出来る御二方に感動してるだけですっ!」
ああ、分かった。
この少女は悪女じゃない。天然でもない。
———重度の脳内お花畑なのだ。
きっと昼休憩を砂漠で見つけたオアシス並みに喜んでいる人種。俺が1番苦手としている人種だ。見た目も相まって、汎ゆる面で陰キャ特攻を持ってそう。
「……それで、矢代さん」
「寧々で大丈夫です! 寧ろ寧々と……」
「なら矢代、恋人ではない俺達に恋愛相談と言ったが……具体的には?」
「なるほど、心音先輩以外は上の名前呼びなんですねっ! 一途でかっこいいです!」
どうしよう、脳内お花畑過ぎてしんどい。俺の言葉も無視されたし。
既に今日1日分のエネルギーを使い切り、翌日分まで導入している。
でも、そのエネルギーを一撃で回復する『かっこいい』の言葉。たとえ関わり合いたくない人種であろうと可愛い女子だ。
可愛い女子にかっこいいと言われて嬉しくない男子も居ない。
そんな大喜びの内心を悟られないように、極めて冷静に口を開いた。
「それで矢代…………心音?」
「……別に?」
ジトッとした目を向けてくる中村に、俺は視線を合わせないように努める。
過去の経験が言っている。今彼女と目を合わせたらダメージを食らうと。
「はぁ……それで寧々、良い加減具体的な相談内容を教えてよ」
何とか耐えきったらしい。
小さくため息を吐いた中村が、僅かに疲れた様子で問い掛ける。
そんな彼女に、矢代は———。
「———シュミレーションデートをしてほしいんですっ!!」
脳内お花畑らしい、俺のような一般人には理解の及ばぬ相談をしてきたのだった。
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