第7話 地球のホメオスタシス


 小中コラム

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 皆さんは朝起きると顔を洗い歯磨きをして朝食を食べて学校に行く。学校から帰ってきたらお風呂に入って夕食を食べて歯磨きをして寝るというように、簡単に書きすぎてしまいましたが、一日のリズムというものがありますね。

 それは24時間という短いリズム(周期的循環)ですが、1週間というリズム、一年というリズムもあります。一番長いものは一生という周期でしょうか。


 地球にも同じように周期というものがあります。皆さんと同じように24時間のリズム、1年のリズムというものです。地球の一生となると未来の話でどうなるかわかりませんが、恐竜の時代に比べるとずっと新しい時代の周期に10万年周期というものがあります。


 多くの科学者の研究によって、少なくとも過去60万年間は、正確にこの10万年周期を6回繰り返してきました。それは、9万年の氷河期と1万年の間氷期(氷河のない今の時代)です。では、なぜ今氷河期になっていないのでしょうか。

 それは、産業革命以来人間が出し続けている二酸化炭素のおかげです。ただ、二酸化炭素のおかげで氷河期になることを遅らせていますが、地球温暖化という悪い面も出てきています。未来をより良くするにはどうしたらよいか、考えてみてください。未来を作っていくのはあなたたちです。

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第1節

 地動説を証明するまで人類は長い時間かかりましたが、今では誰でも地球は、太陽の周りを回っていることを知っているでしょう。その回り方が、10万年周期で近づいたり遠ざかったりするのです。


 ホメオスタシスとは、外界の変化や生物自身の変化があっても生物内部の器官は常に一定の状態を保とうとする機能のことです。簡単に言うと恒常性のことです。


 人間的な感覚では、ちょっと話が突飛な方へ進むように思うかもしれませんが、科学者たちが導き出した最近の知見に基づいています。

 地球の基本的なリズムは、過去60万年間、約9万年の氷期と約1万年の間氷期を繰り返えすことであった。

 間氷期は長い時で約2万年、短い時では1万年に満たない。前回の氷期は1万1600年前に終了した。

 それも突然に。最終氷期の終わりが、急激だったことは、グリーンランド氷床の研究からも、福井県の水月湖の年縞堆積物の研究からも示唆されている。

 それは、長くても3年程度であった。現在の地球で表現すれば、氷床に覆われた南極大陸が3年で緑の大陸に変わるような変化だった。現在進行形で南極大陸の一部は緑になってきている。


 地球のリズムとしては、間氷期になった時点で次の氷期に向けてだんだん寒くなるはずだった。

 事実、1560~1660年頃、小氷期が訪れて、穀物生産が低下してヨーロッパ諸国はひどい食糧不足に悩みます。イギリスのテムズ川も氷に覆われました。少なくともあと8000年経過する前には氷河期になるはずだった。それを一時的に妨害しているのは、産業革命(1733~1840)後に人類が排出を増加させているCO₂なのである。二酸化炭素の増加によって地球温暖化は進んでいる。


 IPCC(国連の気候変動に関する政府間会議)は、22世紀になるまでに平均気温を産業革命以前の1.5℃から2.0℃の上昇に抑えるように目標を定めているが、世界が争っている状況では困難と言わざるを得ない。

 2024年の平均気温は既に1.54℃上昇している。日本では、1.64℃上昇して1.5℃の約束は既に破られている。


 グリーンランドの氷床コアの分析結果とIPCCの気候の未来予測を組み合わせてスーパーコンピューターで、計算すると今後100年間で急速な温度上昇が生じるという結果を出した。


 最終氷期の終わりでは気温の変化は最大で7℃あったと見積もられている。地球灼熱化と言ってよいだろう。ただ、過去5億年の気温の変化は上下の変動幅10℃で変化しており地球は自らの生命圏を守るように温度をコントロールしている。


 258万年前から1万年前まで地球はその90%を氷期にしていた。氷河期は、ずっと寒いであろうと思うかもしれないが、氷期であってもダンスガード=オシュガー(D-O)イベントという、4000年から5000年位の周期で突然地球は、数十年間の間に最大10℃の急激な温暖化と急激な寒冷化を繰り返す。

 D-Oイベントは、1万年前から11万年前の10万年間で25回記録されている。これが、現在の大陸の位置関係における地球のホメオスタシスであると考えられる。


 温暖化したら寒冷化し、寒冷化の状態であっても、時々思い出したように温暖化する。最終氷期が終わってから本来の地球は寒冷化に向かっていた。それを一時的に妨害しているのが産業革命以来の二酸化炭素の増加なのだ。

 大気中のCO₂濃度の増加によって現在、温暖化に向かっているが、行き過ぎると寒冷化するかもしれないのだ。そしてそれは、電灯のスイッチ切るように突然切り替わるという。


 短い間氷期には比較的温度変化は少なく、寒冷な氷期には激しく気温の変化が生じさせ気温をコントロールする地球のホメオスタシスを人類が制御することができるとは到底思えない。

 現に、地球の生理現象(せき、くしゃみ)ともいえる地震や台風一つさえコントロールできていないのである。地球の根本ともいえる体温調節を二酸化炭素一つでコントロールできると考えるのは誤っているかもしれない。


第2節

 20万年前にアフリカに誕生して6万年前に出アフリカを果たした現生人類は氷期をまだ1度しか経験していない。現生人類に先立ってアフリカを出たネアンデルタール人は、少なくとも4度氷期を乗り越えてきた(3度はアフリカで乗り越え、最終氷期に絶滅した)。

 30人程度の家族を主にした集団では大型獣を狩らなくても生活できていたのであろう。

 厳しい氷期であっても草食動物は枯葉や樹皮で飢えを凌げる。優れた嗅覚は雪の下にあるフィトンチッドを嗅ぎ分け新鮮な植物を食料にしたことであろう。

 150から600人程度の集団を作って生活していた現生人類は、食料として大型獣を狩る必要があった。

 オオカミから改良された犬を家族にした現生人類は、犬の嗅覚によって大型獣を追い、食料にしていったと考えられる。現生人類との獲物争奪競争に負けたネアンデルタール人は、徐々に数を減らしていったと考えられる。


 先住民族の食糧事情の研究によると、食料の3分の1は、マンモスの肉によって担保されていた。氷期に生存していたマンモスやナウマンゾウが、絶滅したのは人類が狩り過ぎたせいかもしれない。

 大型獣を食べつくすことで現生人類はやっと氷期を乗り越えたのだ。間氷期になって農業革命がされたと言われているが、気温の変動が大きい氷期に農業をしてもリスクが大きすぎて続かなかっただけなのである。


 厳しい氷期には、極端に食料が少なかった。発見された古代の人骨には冬眠した痕跡が見られた。クマやリスばかりではなくヒトも冬眠しなければならないほど氷期は厳しいものなのです。また、人骨には刃物の跡があった。死んだ仲間を食料にして生き延びてきたのだ。氷期末期には数百万人(200~300)まで種としての数は減少したと考えられる。


 間氷期という食料増産に適した時期になり80億人という数まで増えたが、再び氷期になると、穀物の生産は激減して、地球が支えられる人類は、1万分の一から、千分の一と言われる。100億の人口だったとしたら、生き残れるのは、100万人から1000万人位だ。昔の知恵を引き継いでいる先住民族やサバイバル生活に長けている人間以外は生き残れない。

 人類が、大気中のCO₂の濃度を増加させなければ楽観的に見ても8000年以内に氷期に突入するはずだった。しかし、CO₂の濃度が一時的に地球温暖化を引き起こしていても、再度氷期が来ないとはだれも言えないのだ。


第3節

 10万年周期で、間氷期が現れることは次のように説明される。

 太陽の周りを公転する惑星は楕円形の軌道を描く(ケプラーの第一法則)。地球も楕円の二つの焦点の一つに太陽を置いて、楕円軌道で太陽の周りを回っている。

 楕円軌道で地球が太陽に近づいた後に温暖な時期を迎える。また公転周期が円に近づくと地球は太陽から遠ざかって氷期になる。

 今の地軸の傾きでさえ夏と冬が交互に訪れるのだ、太陽から遠ざかった時、地球が急速に冷えていくことが理解されるであろう。

 楕円軌道から円軌道へ移動していく今後4万年間くらいは太陽からだんだん遠ざかり、また4万年くらいかけて太陽へ近づいていくのである。


 夏至に一番暑くならず季節が進むにつれて暑くなるように円軌道に変化していく過程で間氷期が訪れる。その後、真円に近づくと1820万Km以上太陽から遠ざかることになる。これは地球と月の距離の約48倍だ。日射の総量が低下して地球は冷えることになる。

 二酸化炭素の温室効果で暖かかったとしても日差しは弱いものとなる。それで十分に植物が育つのかはわからないが、生産量は低下することだろう。また、二酸化炭素濃度を上昇させれば金星のように熱くなることはわかっているが、そのコントロールだけで、氷期を凌げるかはわからない。


 この地球の公転軌道の変化は、仮説を立てた人の名をとってミランコビッチサイクルという。

 ミランコビッチサイクルには、地球の公転軌道の離心率の10万年変化のほかに、地軸の傾きの周期的変化、自転軸の歳差運動の周期的変化があり、この3つの要因により日射量が変動して地球の気候が変化する。

 コンピューターを使った計算でも過去100万年前までは、ミランコビッチ理論が正しいことが証明されている。


 さて、未来はどうかというと炭酸ガス濃度が、400ppmを超えている現在の状況が続けば5万年位氷期は来ないだろうと予測されている。しかし、長い年月をかけて生き物を育んできた地球にとっても科学文明を持った生物は初めての存在である。今後どうなるかは予断できないが、それでも現在進行形で公転周期が地球を冷やす円軌道に移行していることは科学的事実なのである。



 10万年周期のミランコビッチ理論が、正しいと証明された一方で謎も残っている。大陸の多い北半球に多くの人が住んでいるから、地球が太陽に近づいたとき夏が来るように思うかもしれないが、夏至の時の北半球は太陽から一番離れている。

 現在の地軸の傾きによって日射量が大きくなることで夏になるのだ。反対に冬至の時、北半球は太陽に一番近づいているが、やはり地軸の傾きによって日射量が減少して寒くなる。


 現在の公転軌道でも500万Km位、地球は太陽に近づいたり離れたりしているが、遠近の変化より傾きの変化の方が影響は大きいのだ。その4倍弱の1820万Km離れたとしても、地軸や歳差運動による傾きの方の影響が大きいはずなのだ。自転軸の傾きの周期は4万1000年で現在23.4°の傾きで、約4万年の周期で22.0~24.5°の範囲で傾きを変化させている。

 歳差運動は、2万6000年周期が主なものだが、これらの傾きの影響を無視するように地球は離心率の変化に依存して9万年の氷期と1万年の間氷期を少なくとも60万年間繰り返してきたのだ。


 ミランコビッチ理論が通用していた期間(大陸の配置が現在のようになった約260万年前頃から250年前)の炭酸ガス濃度は、180ppmから280ppmの間だった。

 現在の濃度400ppmは、氷期を先延ばしするかもしれない。しかし、コントロールに失敗して750ppmを超えると南極の氷床は全て溶け、緑の南極大陸と変化する。

 同時に、海水準は70m上昇する。6億人が標高5m以下に住んでいることを考えれば何十億人もの人が国の枠を超えて移動する必要があるのだ。

 国の枠を超えた共通のルールが作られない限り争いは続くことになる。 人々をコントロールして世界を平和にできる男が一人だけいる。それが、現在渦中のプーチン大統領なのだ。今後の行動によっては、歴史上最大の偉人と称えられるかもしれないのだ。


第4節

 地球温暖化


 小中コラム

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 皆さんは湯たんぽという器具を知っているでしょうか。セントラルヒーティングというシステムができるまで北の国では、寒い冬を過ごすのに煙突ストーブで、薪や石炭を焚いていました。火事の危険があるので夜間は消します。マイナス15℃にもなる部屋で、夜を過ごすのは大変です。そんなときに役に立つのが湯たんぽです。中にお湯を入れる器具です。 

 寝る前に湯たんぽを寝具の中に入れて置くととても暖かく朝まで過ごせます。

 では、温くなった湯たんぽを夏に布団の中に入れたらどうでしょうか。余計暑くなりますね。


 日本を取り巻く海の温度が上昇しているということは夏に湯たんぽを布団の中に入れるのと同じようなものです。

 偏差値50の人が、努力を続けて、偏差値55になった後も努力を続けたら、元の偏差値50に戻ることはないでしょう。更に偏差値は上がっていきます。

 この努力を続けるということを二酸化炭素の排出を続けると置き換えるとどうでしょう。


 平均気温はもう元に戻ることはないということになります。二酸化炭素を増やさないように皆さんは日々小さな努力を続けていることと思いますが、戦争に使うお金のすべてを地球温暖化対策に回さない限り困難な状況です。

 あったかくなった布団から逃れるには、湯たんぽの入っていない布団に移動することです。

 つまり寒い地方に移動することです。都会から高原へ、南の地方から北の地方へ、さらには国境を越えて、高緯度の国へと移動しなくてはならないかもしれません。


 人間はエアコンを使用して暑さを凌いでいますが、家電を持っていない魚は、海水温の低いところ、深海や北の海へと移動しています。魚に取って海水温1度の変化は、人間の5度に相当すると言います。釧路沖の海水温6度の上昇は人間の感覚では30度の上昇に相当するのです。これでは、住んでいられません。水圧に耐えられない魚は北へ移動するしかないのです。


 2024年夏の表面海水温は、東京より南の海で30℃です、岩手県の沖でも27℃です。日本海での海水温の上昇は、1.46℃でしたが深海まで温度の上昇が確認されました。エアコンを持っていない魚は、北へ移動するしか生き延びることができないのです。

 北の海ベーリング海では100億匹のズワイガニが死滅しました。海水温が上がったため新陳代謝が上がり餌で消費カロリーを補えなかったので餓死したのです。冷たい海水を好む生き物にとって温度の上昇は、命にかかわるのです。




 

 日本の温暖化

 日本の年平均気温偏差(℃)という小中学生には少し難しい言葉がある。年ごとの温度の変化を記録したものであるが年平均にすると1℃以内の変化なので、地方によって異なるが夏と冬では30~40℃程度の気温変化のある季節感や一日でも10℃以上の変化がある日常感覚ではその変化の意味が分かりにくいであろう。


 小学生にはわかりにくいかもしれないが、前に学力偏差値の話が出てきたので、気温を偏差値に置き換えて説明してみよう。

 偏差値50というのは、100人テストを受けた時にその成績は上から50番目だったということで全体の真ん中位の成績だったということです。30回テストを受けて、偏差値42の時もあったが、偏差値56の時もあり、30回を平均すると結果は偏差値50だった。


 27回目のテストのときに偏差値49だったが、それ以後のテストでは偏差値54、偏差値56、偏差値56、偏差値56、偏差値56と安定してきて、その後、偏差値63、偏差値65と急激に上昇している。

 学業における話ならこんな喜ばしいことはないだろう。

 しかし、これは気温の話なのだ。基準となる30年間は、偏差値42~56で変化して平均偏差値50を保っていた気温が、ここ2年で、急激に上昇しているのだ。

 2025年は、試金石になる。

 

 偏差値が45を出せば、一息付けるかもしれないが、火山の大噴火が起きない限り気温上昇の傾向は続くことになるだろう。気温が、偏差値65で停滞したり、それ以上の偏差値を叩きだしたら、温暖化への人々の認識は激変するかもしれない。

 0.01℃の変化という肌感覚では決して感知できない温度変化を偏差値で表すと、気象学者が予測している未来の5℃から6℃の気温で安定するというのは、偏差値90かた100で安定するという異常な世界なのだ。


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第5節

 気象庁のホームページに、日本の年平均気温偏差(℃)というグラフが載っている。(2025年1月6日、更新)

 1991年から2000年までの30年間の平均値を0℃の基準点としてその年年の偏差を0.01℃単位でプロットして記録したものである。

 グラフを一目見ると年々気温が上昇している傾向が読み取れるが、偏差であるからグラフは上下に振幅していて偏差も基準から0.84℃の範囲であるから肌感覚ではその重大性に気づきにくい。


 当然、基準点より暑い年もあり、寒い年がある。暑かった年は、12年あり、寒かった年は17年、プラスマイナス0の年が1回だ。平均すると0℃となるらしい。

 最初の10年間は振幅の幅は大きいが年々その振幅は小さくなっていて下方に振れる幅は小さくなっていく。

 2017年に-0.05℃を記録した後、平均気温は上昇を続けている。

 2020年、+0.65℃を記録した後、

 2021年、+0.61℃、

 2022年、+0.60℃と下方に振れるが、

 それは次なる温度上昇に備えた踊り場的な停滞だった。

 2023年、+1.29℃、

 2024年、+1.48℃と急上昇した。

 今後の、2,3年間の変化によっては、温暖化への認識が変わるかもしれない。


 1989年以前に人生を何十年も過ごした人の記憶の中には、青春時代暑かった夏の記憶があれば寒さがひどかった冬の記憶もあることだろう。

 だが、現在の基準である年平均偏差を適用すると1989年以前は、小中コラムで説明した偏差値を使うと記録が始まった時代までさかのぼっても、すべて偏差値50以下となる。

 1.5℃程度の上昇でも世界の気候は荒れている。これ以上高くなれば事務総長の言うように灼熱の地球になってしまう。


 大陸の配置が現在とは違う白亜紀には平均気温が現在よりも10℃以上高かったが、恐竜は快適な場所を求めて自由に移動していただろう。現在国という枠組みがある中では快適な場所を求めて国ごと移動することもできなくなっている。

 それを可能にするためにはウクライナが勝利してロシアを無条件降伏に追い込み第二のヤルタ会談を開催して、ウクライナの復興資金を賄うためにロシアが国土の45%をウクライナに割譲することだ。


 2100年の時点で、4℃気温が上昇していたら、人が快適に住める地域は、中央アジアとアフリカ北部、カナダ中央部、ブラジル北部となる。それ以外の地域はほとんどが旱魃によって乾燥地帯となる。

 現在でも世界各地で洪水が起こっているにもかかわらず、多くの湖で水位の減少がみられる。塩湖であるが、世界最大の湖、カスピ海でも水位の減少がみられる。

 だが、これにはロシアが関係している。カスピ海の水位の維持に貢献しているのはボルガ川だが、母川国の強みでロシアは、40基のダムを建設している、さらに18基の建設が計画されており、川の水がせき止められることでカスピ海の水位が低下してきているのだ。

 2100年には、最大18メートルの低下が予測されている。ボルガ川は、信濃川の10倍も長い川だから、まだまだダムを建設することができるが、水位の低下は、カザフスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、イランと新しい争いを起こすかもしれない。

 エネルギー戦略における「ガス」を武器に、今度は「水」を武器に変えようとしている。アラル海の二の舞にならないことを願うばかりだ。プーチン大統領にあいだみつおの「奪い合えば足らぬ、分け合えば余る」という言葉を贈りたい。ただ、分け合っても足らぬほど人類は増え過ぎたと諦観しているのかもしれない。



第6節

 現在の地球の気候を安定させている仕組みを説明しておこう。

 小中コラム

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 実験器具をすぐに作れないときや、頭の中でどういう結果になるか想像することは有用だ。思考実験をしてみよう。

 頭の中で南北に細長い家を考えてみよう。

 北の部屋は外気温マイナス20℃で南の部屋は外気温30℃だ。寒い部屋と暑い部屋ができている。

 この家でみんなができるだけ快適に暮らすにはどうしたらよいだろうか。

サーキュレーターを南北の両サイドにおいて、暖かい空気を寒い部屋の方へ、寒い空気を暑い部屋の方へ送ると過ごしやすい部屋が増えることになる。反対にサーキュレーターが、故障するとどうなるだろう。

快適に過ごせる部屋は少なくなる。

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 日本の年平均気温の基準となる30年間は、それ以前と比べてとても暖かい期間だったのだ。それを嘲笑うかのように2023年以降気温は上昇してきた。2025年は更に気温の高いステージの始まりになるのかもしれない。

 

 世界の喫緊の課題は、地球温暖化であるが、国同士が争っている状態では、協調は生まれない。前述したように22世紀までは大気中炭酸ガス濃度は上昇を続け、多数の気象学者は、長期的に4~5℃高い全球平均で安定すると思われている。

 地球のサーキュレーターはグリーンランドの氷床と南極大陸の氷床だ。それが無くなると暑い地方はますます暑くなり寒かった地方はさらに寒くなる。

 

 海の表層的には赤道付近から暖かい海流が高緯度地方へ熱を運び、北極や南極からは冷たい海流が低緯度地方に冷気を運び、海水を撹拌にすることで地球の温度を調節している。

 その中でも暖流のメキシコ湾流は、大きな働きをしている。

 北上するメキシコ湾流は、蒸発と温度低下により塩分濃度が増加する。塩分が増加した海水は重くなり北大西洋ラブラドル海のグリーンランド沖で冷やされ重くなり海底に沈みこみ海洋深層流となり世界中を循環する。


 低緯度地域の熱を高緯度地域に運び、高緯度地域の冷気を低緯度地域に運び緯度による温度差の調節をしている。海水の密度が温度と塩分に依存することで熱塩循環と呼んでいる。

 メキシコ湾流を冷やしているのがグリーンランドの氷床である。また、南極ウェッデル海でも強力な冷却によって海氷が形成されることで塩分濃度が上がり海水は沈み込み海洋深層水を形成する。

 これが大循環することで地球の気温をマイルドなものにしている。つまり、熱塩循環が弱体化するとか停止するようなことがあると、高緯度地域は急速に寒冷化して地球は氷期に入ることになる。


 熱塩循環は、サーキュレーターの働きをしている。数百年後にはグリーランド氷床は無くなると言われている。また、二酸化炭素濃度600ppmで南極氷床は一気に減少に転じると言われている。氷床が無くなるということは、温度調節をしていたサーキュレーターが、壊れたことを意味する。


 温暖化によってグリーランドの氷床が溶け、水となって海洋に流れ塩分濃度が低下しているので熱塩循環は15%ほど弱くなっている。氷床が無くなり冷やすことができなくなると海水の沈み込みは無くなる。そうなると温度差の分配がうまくいかなくなり、寒冷な地域に残った氷や雪は夏に溶け切らずだんだんその量を増加させ氷期に突入することになる。つまり、温暖化を食い止めることに失敗すると灼熱化だけではなく一転して氷期になるかもしれないのだ。


 また、温暖化は気候を激変させている。線状降水帯による集中豪雨、洪水は陸地の栄養分を海洋に運んでいく。陸上の風化が、どんどん進んでいくと海洋の富栄養化が進み、海洋の植物プランクトンや海藻類が異常に増えることになる。


 2019年頃から、メキシコカリブのビーチに海藻が押し寄せるようになった。今まできれいだった砂浜に海藻があふれるようになったのだ。

 原因はアマゾン川から海に流れ出る農業用水や下水が増えたことと、大西洋東部の海水温の上昇や海の中の流れ、湧昇の影響で海水中の栄養分が増えたことによる。衛星画像では海岸に押し寄せる海藻「ホンダワラの帯」は8850Kmに及んでいる。大変な植物量である。


 世代交代の早い植物が異常に増える事例として、宮崎県の岩瀬ダムのウオーターレタスの例がある。熱帯原産のサトイモ科の植物で観賞用として輸入された浮草が、1か月ほどで11ヘクタールにも広がったのだ。ダム湖の水面は写真で見るとゴルフ場がそこに存在しているように見えるほどだ。海水温の上昇は、徐々に高緯度地方に移動している。


 2024年8月、沖縄周辺に生息しているエラブウミヘビが高知県奈半利町加領御漁港で上がった。釧路の海面水温は平年より6℃も高かった。北海道では鮭やスルメイカが取れなくなり、ブリが上がるようになった。シイラも北上してきている。

 魚網の中にハブの80倍の毒を持つエラブウミヘビが混獲されるようになったら北の海の漁師は絶句してしまうだろう。沖縄の人は食料にしているが、扱いに慣れていない蛇は恐怖の対象でしかない。


 確実に海水温の上昇は高緯度地域に移動している。栄養素の少ない赤道付近の海域で爆発的に増えることができなかった植物が高緯度海域に移動できる素地ができつつある。

 中緯度地域には人口が多い都市が集中している。気候変動で栄養素も豊富だ。環境が過酷な熱帯地方にはパワフルな動植物が多い。

 ジャングルを想像してみれば理解できるだろう。栄養素の乏しい熱帯の海に生息していた植物が海水温の上昇によって中緯度地域に来た時、海の中のジャングル化が生じるかもしれない。熱帯の海はまだまだ謎が多い海であり、我々は、植物の本当の恐ろしさをまだ知らないだけかもしれないのだ。


 植物が増えると、光合成によって二酸化炭素を消費して炭水化物に変えていく。光合成はクロロフィルによって行われるが、成分に鉄元素が必要である。熱帯の海には鉄分が少ないので、栄養素があっても植物プランクトンの増殖はすぐ限界に達する。

 身の回りを見てもらいたい。はさみ、ナイフ、クリップ、自転車など鉄製品がすぐ見つかるであろう。日本では少ないと思うが、ヨーロッパの川では、鉄製品が捨てられていることがよくある。歴史の古いヨーロッパでは、磁石を使って川で古銭などの価値のあるものを探すことがあるが、結構自転車が上がってくる。人口の多い中緯度地域には鉄製品が多いのである。


 南大洋、北太平洋、太平洋東赤道海域では、湧昇流によって栄養は豊富にあるが植物プランクトンの増殖が制限されている。その原因として鉄不足が関係していると言われている。鉄の散布実験によって植物プランクトンの増殖が確認されている。

 「私にタンカー半分の鉄をくれたら、地球を氷期に突入させて見せる」と豪語した気候科学者がいるくらいだ。 


 赤道海域では増殖を抑えられていた植物プランクトンが、海水温の上昇によって栄養分と鉄が豊富な中緯度地方に移動してきているのだ。おまけに、気候変動で鉄が豊富にある陸地が洪水によって荒らされている。

 鉄が海洋に流失し始めているのである。繁殖に最適な環境になった時、世代交代の早い種での増殖スピードは、想像を超えるだろう。生物の活動が地球の気候を大きく変動させる可能性があるのだ。


 灼熱化の後に氷期が待っているかもしれない。地球灼熱化による地域環境の変化とそれに続くかもしれない寒冷化は人類の存亡に繋がるかもしれないのだ。

 気象予報士は、降水確率が35%あるとほとんどの人が傘を持っていくという。灼熱化の後、氷期が来るかどうか、学者の考えで意見は割れているが、五分とみていた方がよいのかもしれない。


 少なくとも60万年間氷期と間氷期を繰り返してきた地球のリズムを人類が変えることができるのか疑念は残る。

 地域の灼熱化を一時的に乗り切るためには、北への移動が必須であり、広大な土地はシベリアにしかない。ただ、永久凍土だった地域は使えない。温暖化によって氷っていた水やメタンガスが溶けだし移動して地形を変化させているからだ。





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