第九話「ようこそ、"特異能力者"の収容施設へ 」

俺の名前は、不死原ふじわら 黎斗れいとだ。


 その言葉が部屋に響いた瞬間、空気が張り詰めた。


 誰もが息を呑み、俺を見つめる。

 "新入りへの警戒"なのか、それとも――"未知の存在への恐怖"なのか。


 俺の視線は、床に倒れたままのグレンへと向かった。

 顔を歪め、血を垂らしながらも、低く笑っていた。


「……面白ぇ……本当に"死ねない"ってワケか……」


 呻くようにそう言いながら、グレンはゆっくりと起き上がる。

 骨が折れたままの顔で、血が滴り落ちる。

 普通なら苦痛で動けるはずもない。

 だが、それでも笑みを浮かべるその姿は――異常だった。


「おい……このガキ、マジで"別格"なんじゃねぇのか?」


 グレンのその言葉を皮切りに、部屋の他のメンバーたちが動き出す。


「へぇ……確かに"死なない"って話は聞いてたけど、まさか"殴ったダメージがそのまま相手に返る"能力とはな……」


「俺たちの中でも、こんな奴は初めてだ」


「"不死原"、か……その名前、気に入ったぜ」


 低い笑い声が響く。


 そして――


「……自己紹介、しとくか」


 その声を皮切りに、組織のメンバーたちが、ゆっくりと俺の前に姿を現した。


---


 最初に名乗ったのは、銀色の髪を持つ男だった。


 長身で細身。だが、その目は鋭く、まるで獣のような光を宿している。


「俺は刹那せつな。"第一班"の副リーダーだ」


「副リーダー?」


「そういうことだ。グレンの次に強い、って話だな」


 刹那は、ふっと口の端を吊り上げた。


「……ま、さっきのを見る限り、お前がこの中で"最強"みたいだけどな」


 俺を値踏みするような視線。

 だが、それ以上に"興味"を持っているように見えた。


 次に名乗ったのは、小柄な少女だった。


「私はアリス。"戦術支援班"の分析役よ」


「分析役?」


「あなたの能力……"死なない"っていうのは、単純な話じゃなさそうね」


 アリスは、まるで実験動物を見るような目をしていた。

 その小さな手に握られた端末が、俺の身体をスキャンするように光る。


「……フフッ。なるほど、なるほど……"面白い"わね」


 何かを察したように、アリスは不気味な笑みを浮かべた。


 次に、一歩前へ出たのは、黒髪の男だった。


 無駄な筋肉はなく、鋭い目つき。

 その腕には、無数の傷跡が刻まれている。


じん。"戦闘班"の一員だ」


「……戦闘班?」


「要するに"殺す役目"ってことさ」


 そう言って、迅はわずかに笑った。

 その笑みには、妙な冷たさがあった。


「俺は"死なない"獲物を相手にしたことはないが……興味深いな」


 俺の目をじっと見つめる迅。

 だが、次の瞬間、彼は肩をすくめた。


「……ま、今は"様子見"だな」


---


 部屋にいる者たちが、次々と名乗っていく。


 "第一班"のメンバー。

 "戦闘班"のエースたち。

 "戦術支援班"の頭脳。


 ここにいる奴らは、全員が"普通じゃない"。


 だが――俺は、明らかに"別格"なのだと直感した。


 この空間の中で、俺だけが"異物"だった。


 その違和感を、俺自身が一番感じていた。


 ――ここにいる連中とは、根本的に"何かが違う"。


 それが、何なのかはまだわからない。


 ただ、確実に言えることがある。


「……ま、よろしく頼むよ」


 俺は、部屋を見渡しながら、そう呟いた。


 行き場のなかった俺にはありがたい話だ。……友達にしては不気味すぎる奴らだが。


 俺のその言葉に、誰もが静かに笑みを浮かべる。


 ――ここから、"何か"が始まる。


 そんな予感だけが、確かにあった。

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