白銀の龍と黄金の獅子
umi
第一章 巳國
第1話 白寿
東の
その報せがもたらされたとき、
白寿は弾かれたように文机から顔を上げる。
広げていたのは『
そこで
白寿にとっては、書だけが外の世界を知る手段だ。外出も、遊ぶこともほとんど許されたことがない。しかし、だからこそ積み重なった知識がいま、警鐘を鳴らしている。
「ああ、恐ろしい、恐ろしい」
下女の声に白寿は顔を上げる。
「なんと?」
「地が割れ、人が呑み込まれてしまったとか」
「地が割れる?」
身震いしている下女に『
「それは
「おやめください、白寿さま」
ほとんど悲鳴のような声色になった下女が、小袖で顔を隠す。
「
白寿は閉口する。神が
「この間は、たしか……そう。赤く光る鳥がいるとか仰って。恐ろしくはないのですか?」
「恐ろしいが、そう言っている場合では」
記載は災いの到来を告げている。ならば何かせねば。そう思ったのだ。
「白寿」
その声に、熱を帯びていた
美しい長髪の偉丈夫が現れていた。下女がすぐさま拝礼する。
兄の
「何を騒いでいる」
「お、
厄災、魔物、人の生死。兄はそういった文言で表情を変えるような男ではなかった。その冷静さはいつものことだが、白寿には時折、人ではない何かのように思えて恐ろしくもある。
白寿が言ったことに兄はやはり顔色も変えなかったが、その視線は一瞬、白寿の卓上に重ねられた書物に向けられた。
「知識だけで騒ぐものではない。立て」
「兄様」
呼んだときには、すでに兄は背を向けていた。慌ててその後を追って渡りに出る。白寿と同じ長い黒髪が揺れている。しかし、似ているのはそこだけだ。
「父上がお呼びだ」
「
「四災
はっとして、白寿は顔を上げる。
風雲家の次期当主は、風と雲の神――
やはり、予感は当たっていた。
風雲家の現当主
白寿は
「兄様。私も参ります、巳國に」
振り返った兄の瞳がこちらを射抜いてくる。この瞳で何度も言われてきた。
「──ついて参れ」
しかし今を逃せば、できることもできなくなる。白寿は
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