第7話 ニカの指先 (序章 完)
司令官から簡単な決まり事を説明された。
相手の命を奪うことなく『仮面を奪った者が勝ち』というものだ。
そして……私の入隊テストが始まった——。
*
ニカは片腕をすっと挙げる……すると、上空には大小ばらばらな大きさの四角い箱のようなものが無数に浮きだした。緑色だということは、これがシーナの言っていた結界治癒術なのだろう。この結界に取り込まれたら、恐らくまずい。
私の耳元で一瞬ごぼっと音がした。反射的に私はその音を避ける……。
目で確認すると、それが結界だったことが分かった。
動きを止めれば標的となって、ニカに近づくとなると無数の結界を避けなくてはならない。……ということだ。こうなったら全力で走りながら避けていくしかない。
私は身を低くし、ニカを目指して走り出す——。
結界が磁石のように多方面から私に向かってくる。結界自体の速さはそこまでではないけれど、数で押されてしまっている。
このままだとニカに触れるどころか近づくこともできない。
上空ばかりに気を取られ、足元の結界に気づいた時にはもう躱せる状態にはなかった。
……一か八かの賭けに出る。
足元の躱しきれない結界を、力一杯に蹴り飛ばした——。
衝撃を受けた結界は、粉々になって私の身体に吸収されていく……。
勝機はあるかもしれない。
その光景を見たニカは平然ともう片方の腕を挙げた。
上空を見ると、さっきの倍近く結界が用意されていた。
…………私の体力と、ニカのエネルギー。
どちらが先に力尽きるかの勝負となった。
殴る威力も落ちてきて、私の身体はちぎれそうに痛みを放っている。
これ以上は保たないと判断した私は、ニカに触れるまであと一歩となったところで最後の一撃に全てを込めた——。
拳に衝撃を感じない。満身創痍の一撃が空ぶってしまったのだろうか……。
周囲に目を向けると、さっきまで無数にあったはずの結界は何処にもなく、残されたのはニカだけだった。
紫がかった緑の瞳で私に微笑んでいる。
「君の勝ち」
ニカは自ら仮面を外していて、余裕な表情を浮かべている。
そして私の額にニカの指先が触れた……。
「もう溺れないでね」
独り言のように呟いたニカに、走ってミカが近づいてきた。
ふらふらになって、今にも倒れそうなニカを抱き上げて、そのままその場を去ってしまった……。
触れられた額をなぞる。何か跡が残っている事もないだろうけど、
ニカが私の身体に何かをしたことは間違いない。
今まで感じていた頭の中の倦怠感と視界のぶれが、一切無くなっていたからだ。
ニカの言葉も気になるけれど、近づいてきた司令官とシーナに意識が向いた。
「おめでとう、アイオ君!アスピス部隊へようこそ——!」
アスピス部隊の入隊の証なのか……司令官から仮面を渡される。
…………こうして私の『アイオ』としての時間が始まった———。
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