第6話 キョウとSAKU

  舞台は西部の荒野。


 十人のエージェントたちは、互いの目的を達成するため鎬を削っていた。


『スリーカウントでエントリーするよ、3・・・2・・・1・・・、今!』


 三秒数えてサイト内に素早く移動するウィンド。


 それと同時にサイト内にはスモークが展開され、索敵のためのサーチアローが完璧なタイミングで、完璧な位置に射出されている。


 サイト内に二発の銃声が響いた後、画面右上にキルログが流れる。


『おっけー二枚抜いた、インサイトクリアかな』


「ドローン流すからあんま甘えたピークするなよ」


 SAKUの報告を聞き、念のためサーチャーのスキルであるサーチドローンを発動すると、視界はサーチャーからドローンの視界に切り替わる。


 突如、ドローンが破壊されドローンの視界から、サーチャーの視覚に復帰する。


「角待ちいるわ、無理して倒しに行く必要ないしケアだけしといてくれ、俺は爆弾設置する。」


『おっけ!』


 サーチャーはサイト内の中央の爆弾設置区域に駆け込み爆弾を設置しようとする。


『足音やばいわ、寄りめちゃくちゃ早いっぽい』


「了解、気合で設置通すからカバー頼む」


『わかった!』


 爆弾の設置にかかる時間は四秒、敵チームは設置を通させるつもりは無いらしく勢いでリテイクかけてくるようだ。


 フラッシュボムが投下されサーチャーの視界は真っ白になる。


 ドドドドドと数十発の銃声の後視界が晴れる。


 今の撃ち合いでこちらのチームの三人がキルされ、状況は打って変わって二対三に。残るはウィンドとサーチャーのみとなった。


 無理やり設置を通したサーチャーは一人サイト中央に取り残されており、三対一を強いられる形になる。


「三人抜かれてるか、さすがに死んだわこれ」


『一人でも多くもってけ!』


「無茶言いなさる!」


 サイト内を取り戻しに来た三人の敵エージェントは同時にサーチャーに対して攻撃に出る。


 物陰から同時に三人が飛び出てサーチャーに向かって銃口を向ける。サーチャーもすぐさま反撃に出るもあえなくやられてしまう。が、死に際に放った一発の銃弾が重なった位置に立つ二対の敵をキルすることに成功する。


「まじか!ラッキー!」


『ワンショットツーキル!?ナイス!!!あとは私が!!!』


 今、敵チームはウィンドの居場所を把握できておらず、いまだサーチャーを攻撃するために遮蔽物から飛び出したことによって射線が通っている、つまり。


『いただき!』


 サーチャーのカバーに飛び出してきたウィンドに敵の最後の一人が気づいた時にはもう遅く、ウィンドの正確無比なワンタップショットが敵の脳天を貫いた。


《VICTORY》


 画面が暗転し画面中央にでかでかと勝利を告げる文字と音声が出現する。


「なーいす」


『マジでナイスすぎる!あの状況でワンショットツーキルってラッキーすぎでしょ!』


「バカが、実力だわ」


『はいはい、すごいすごい』


「もっと敬えよ」


『キャー、キョウクンカッコイイー』


「棒読みやめろ!」


『あんなの実力で決められるわけないでしょ?キョウだってラッキーって言ってたじゃない』


「うるさいなぁ、運も実力の内だろー」


『はいはい、そうだねー』


「のやろー」


 現在時刻は21時過ぎ。ゲームを開始してから一時間半ほどが経過している。その間ランク戦を三戦行い、現在三勝無敗の絶好調状態だ。


 ロビーに戻ってすぐ、再度マッチングを開始するも高ランク帯なこともあってかすぐにはマッチングしない。


『そういえば、考え事ってなんだったの?』


 思い出したように口火を切るSAKU。


「あー、それな、あーでも、うーん」


 あの時は寝ボケていたので後で言う、などと言ったが、SAKUに話すような内容じゃなかったなと今更気づく。


『えー、なにそれー、言いにくいことなの?』


「いや、言いにくいって訳でもないんだけどさ」


『じゃーいいじゃん話してよ、私たちの仲じゃん』


「いやー、でもなぁー」


『なに?女?女なの?なんてね~、キョウに限って女なんてことは___』


「まあ、女の子の話だけど・・・」


『ドンガラガッシャーンッ!!!』


「な、なんだ!?」


 ボイスチャット越しにものすごい音が聞こえてくる。


「お、おいなんかものすごい音したけど大丈夫か」


『だ、大丈夫、っていやいや、女?キョウが?友達とかってこと?』


「いや、俺に女の子の友達は居ないよ」


『だ、だよね~、じゃ、じゃあ何?す、好きな人・・・、とか?』


「違うよ、そういうんでもなくてさ」


『っほ、じゃ、じゃあ何なの?』


「いやー、でもなぁ」


『話して!』


「えぇ・・・」


『は・な・し・て!』


 いまだかつて感じたことのない、とてつもない気迫を感じる。


 な、なんだこいつ、急にどうしちまったんだ?この感じだと話すまでずっとこの感じなんだろうか、めんどくさいな。


「はぁー、しょうがない、話してやるよ」


『最初っからそうしてよ』


「はいはい、いやね、今日実はすごいことがあったんだよ」


『すごいこと?』


「そう、ほんとのマジですごいことがさ」


『もったいぶってないで早く話してよ』


「急かすんじゃねーよ、まったく。実はな・・・」


『ゴクリ・・・』



「学校の隣の席の美少女の推しが、底辺配信者の俺だったんだよ。」


 言い放つと、ボイスチャットに静寂が訪れた。


『っぷ、あははは、また面白いこと考えたね、そんなことあり得るわけないじゃーん』


 静寂が破られるとSAKUの甲高い笑い声がヘッドホン越しに届く。その後の言葉も笑い声を含んだ声になっていた。


「いやほんとに、信じらんないよなぁ」


『あはは、ほんとにね』


「な」


『あはは、は、あは、・・・は?」


「な」


 SAKUの笑い声が次第に小さくなっていき、笑い声の調子のままでフリーズしてしまった。


「俺だって最初は信じられなかったよ」


『まって』


「でもあれは間違いなく俺の動画だったからな」


『まってってば』


「聞いてみたら推しの動画だって言ったんだよ」


『ちょっと』


「あんな笑顔で推しなんて言われて嬉し恥ずかしでさ」


『冗談じゃないの?』


「マジだよ」


『マ?』


「ま」


 それから、三秒ほどSAKUからの返事は返ってこなかった。

 

『び、美少女なんだ』


「ビビるくらいの美少女だな」


『自分がキョウだって言ったの』


「いんや、言わないよ」


『ならまだ・・・』


 ブツブツとほとんど聞き取れないくらいの声量で喋ったのか、最初の「ならまだ」以降の言葉はマイクのノイズキャンセリング機能によってか聞き取ることができなかった。

 

「まだ?何が?」


『何でもない!』


「そう?変なSAKU」


『う、うるさいな、さマッチングしたよ!集中集中!』


「お、おう、そうだな」


 雑談もそこそこにランク戦のマッチングが完了しゲームに戻ったのだが、SAKUの調子がどうにもおかしく、残りの二戦は惨敗してしまったのだった。

 

_____________________

すこし修正しました(02/15)

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